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my hair is collie.

先日出張で札幌に訪れた。
札幌に訪れるのは約2年ぶりのことだ。

前回札幌を訪れた時はあまり夜の街を散策できなかったので、今回こそは!とひとり息巻いて夜の札幌を突き進む。

そしてとある一軒のスナックへ辿り着いた。

そこは店主いわく居酒屋ほどちゃんとした料理もない、バーほど酒も詳しくない、スナックと名乗れば若い女の子がいるんじゃないかって思われてしまうかもしれない。だからどれでもない場所らしい。

そんな店主の人間味あふれる独自の雰囲気が居心地よくて、何処か新宿ゴールデン街っぽさもあり、何軒か梯子しようと思っていたが、ずいぶんと居座ってしまい、そしてまんまと2夜連続で通ってしまう。

マスターは優しい笑顔で絶妙な間で話す人だ。そのマイルドな雰囲気とは裏腹に髪型は金髪でマダラ模様、結構パンクな出立ちである。

「実は…この髪色うちで飼ってるうさぎと同じ柄なんです。」

未だかつてそんな人に出逢った事がないし、あまりの愛くるしいエピソードに心の臓を射抜かれた。
美容院へ行き、最愛のうさぎの写真を見せて「これと同じ色にしてください。」と注文したらしい。

マスターが言うに飼っているうさぎには完全に舐められているらしい。でも正直飼っている側からすれば、健康であればどんなに舐められていようがなんだろうが関係ないなとも思う。


20代前半の頃、僕は地元で小規模ながらアートイベントを企画していた。その頃にとあるひとりの女性と出逢った。

貴女は専門学校で特殊メイクを教えており、海外の映画チームにも参加していた経歴を持つ、妖艶で貴賓あふれる大人な女性だった。

そんな先生と喫茶店で打ち合わせをする事になり、時折り雑談なんかも雑える。

「私ね〜、殿方の胸毛が好きなんだよね。」
どうしてそんな話になったのかは全く覚えていないが、当時から僕は自分に胸毛が生えてきた事に嫌悪感があり、剃っては濃くなっていく図太さに「憎き胸毛の野郎が。」くらいにしか思っていなかった。

「もう亡くなっちゃったんだけど、昔飼ってた大好きだったうさぎの毛並みに似てるの。」と真っ赤な口紅の唇を泳がせた。

かれこれ10年以上も前の話なのであまりよく覚えていないが、「ジョン」だか「ジョニー」だかそんな名前のうさぎの毛質が殿方の胸毛の毛質に似ているらしい。殿方と一緒に添い寝をして、その「ジョン」だか「ジョニー」だかを思わせる胸毛をなぞることで懐かしさと愛おしさで心が満たされるのだと言っていた事を思い出した。

ペットと体毛は意思疎通が取れない。だけどそんな謎の親和性について考えさせられた夜だった。



うさぎは飼った事はないのだけど、僕が物心着く頃には実家に「アリス」と言うコリー犬がいた。

幼少期に母からは「アリスはね、あんたが産まれる前からうちにいるんだよ。あんたより年上で賢いんだから。」

そう言われて、犬が自分より”格上”と言う事実には衝撃だった事を今でも覚えている。

廃棄で見つけたアリスの様な写真。

月日は流れ、僕が10歳になる頃にはアリスはもう老犬で、病気になり寝たきりで絶えず咳き込むようになってしまった。

その時期に我が家にはまさかの新しい犬が来る事に。犬種はミニチュアピンシャー。

小柄なドーベルマンの様な姿に祖父が「曽我•ベルマン•ブラック」(※以後ベル)と命名。日本語と横文字が混ざりミドルネームまでつけるとは随分な待遇で、立派に表札まで作られ、一気に家族の仲間入りにしたのだ。

その威圧感ある名前の通り、ベルは暴れん坊で僕はよく腕を噛まれ血だらけになり、僕は毎日泣かされてどうしてもベルが好きになれなかった。

居間で家族全員がベルに夢中な際に「ベルに病気が移るといけない」という理由で離れにおかれたゲージの中で寝込むアリスの隣で「ベルがなんだ!アリスの方が家族なのに!」と怒りと悔しさと悲しみで泣きながら咳き込むアリスの隣で座り込んでいた。

そしてアリスは死んでしまった。
家族は「老犬で病気だったから仕方ない。」
でも僕はそれで済ませれず冷たくなったアリスの亡骸を泣きながらただただ眺めていた。


ペットと体毛の親和性。

僕はこのなんの手入れもしていない髪の毛を少しケアしてアリスの毛並みの様に綺麗にしたいと思った。

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