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『狼の口 wolfsmund』フランス語版を再翻訳8 ママみ代官編

7/20 修正
代官の台詞Les gens sont prêts à quelques sacrifices pour franchir cette frontière→「人々は国境を逃れるため〜」を「人々はこの峠の関所を越えるため〜」に修正しました。コメントいただいてcetteのつけ忘れに気付く凡ミス…コメント誠にありがとうございます!

こんにちは。
7月になっても相変わらず雨ばかりで湿度が高い日々ですね…。ところで狼の口のワイド版が出るかもという話を聞きましたが、どうなるか気になるところです。出るならぜひ欲しいので、続報に期待ですね。

前回はヘートヴィヒとヴィルヘルム親子の処刑から書きましたが、今回は2巻のツェーデルとユヴェール親子とのやりとりからいこうと思います。代官様親子相手の尋問が多いんだよなあ…
ツェーデルとユヴェールの尋問を終えた翌日、通行の可否を親子に言い渡すシーンから。原文→仏語訳→拙訳の順です。

もう疑うことは何もありません ユヴェールさん 良く頑張りましたね
Je n’ai plus aucune raison de vous garder ici… Jewel…pour te récompenser d’avoir été très forte…
君がとても強い子だったのに報いるためにも、もう君をここに引き留める理由は何もないよ、ユヴェールさん

ユヴェールへの労い度がupしているのに加えて、親称を使って非敬語で話しているのが印象的。激おこ代官編でも触れましたが、フランス版の代官はたまに敬語が崩れるのですがここもそうですね。vousではなくtuとその活用系を使っています。なんか新鮮。

通行を許可します どうぞご出発なさってください
Je t’autorise à y aller! Fais bien attention à toi en chemin, surtout…
通行を許可します!特に道中は気をつけてね

気をつけてねとか言っちゃってすごく優しい代官。フランス版、愛想がいいところはものすごく愛想がいいのですよね。しかし…

勘違いなさらないように ツェーデルさん あなたは通行できませんよ? 領外退去を命じます 即刻イタリアにお帰りなさい
Est-ce que je me serais mal fait comprendre?
Madame…seule votre fille est autorisée à traverser! En ce qui vous concerne…je vous invite à retourner en Italie!
勘違いされていませんか?奥さん…通行を許可されたのは娘さんだけですよ!あなたについては…イタリアにお帰りなさい!

まあそうなるよなという展開。ここについては、ほぼ原文も訳文も変わらない感じですね。

通行許可を得るためとは言え 自分の子が凌辱されるのをされるがままに見ている親がありましょうか 故郷へ帰り娘を養育?その言葉に偽りなしとは私には到底思えません
Les gens sont prêts à quelques sacrifices pour franchir cette frontière…mais je ne connais aucune mère digne de ce nom capable de regarder sa petite fille se faire torturer ainsi! Vous affirmez vouloir rentrer au pays pour prendre soin d’elle!? À d’autres! Pour ma part, j’ai rapidement compris que votre discours maternel ne tenait pas la route…
人々はこの峠の関所を越えるためなんらかの犠牲を出す覚悟をしているものです…ですが、小さな娘がこのような責め苦を受けているのを見ていられるという母親など見たことがありません!故郷へ戻って娘を養育ですって!?ばかなことを!私としては、あなたの母親としての物言いはあやふやなものだとすぐ思いましたがね

原文の割当てに対してものすごく喋るフランス代官。ツェーデルの「母親としての言動の矛盾」をより強く突いてる印象ですね。aucuneは「どんな…も〜ない」という強い意味の否定で、どんな母親だろうと娘があんな目にあっているのを見過ごす母親などありえない、見たことがないということになります。À d’autres!(口語で「ばかなことを言うな」)といい、ツェーデルのママみのなさをより責めてる感じもします。discoursは言説とかスピーチといった意味ですが、文脈によっては空言や駄弁といった意味になるので、ここでももしかしたらそういう意味をもつかもしれません。

御領地の平和のため 怪しき者を通すわけには参りません 強いてもとおっしゃるなら 世間にいささか評判の 当関所の楽しい取調べを改めて受けて頂くことになりますが…
Or, mon devoir est justement…d’empêcher toute personne suspecte d’entrer sur notre territoire! Si vous souhaitez malgré tout passer…je serai dans l’obligation…de vous faire subir…un autre interrogatoire dont moi seul ai le secret!
そして私の責務はただ我々の領地に入る怪しい者を阻むこと!もしなんとしても通りたいというのなら…私は義務に従って、あなた方に私のただ一つの秘密である別の尋問を受けていただくことになります

devoir,obligationなど義務や責務といった言葉がよく出てくるのが印象的。原文に比べ「これが私の仕事」というニュアンスが増している感じはします。尋問を修飾するdont以下の部分はもっといい訳がありそうなので訂正などあったらお願いしたいです。しかし、原文の「世間にいささか評判の楽しい取調べ」の皮肉っぽい感じを踏襲した洒落のきいた文章です。

どのシーン見てもかなりの確率で台詞の改変があるのでフランス版は楽しいです。
今回はここまで。誤訳や訂正などありましたらどんどんお願いします。
ここまで読んでくださりありがとうございました。ではまた次回!

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