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『狼の口 wolfsmund』フランス語版を再翻訳4 黒代官編

蒸し暑い季節ですね。スイスの気候が羨ましくなってきます。暑さに負けず今回もなんとかやっていこうと思います。
ところで『狼の口』のファンには常識というか有名な話ですが、お代官様のキャラデザが1巻1話のみ違っているのですよね。2話以降は金髪の代官が1話のみ黒髪で衣装も少しデザインが違っており、全体的な雰囲気も少し変わっています。今回はそんな貴重な黒代官に焦点を当て、1話の黒代官とリーゼちゃんのやりとりを拾っていこうと思います。
まずは関所での対面シーン。台詞は原作→仏語訳→拙訳の順です。

当関所の代官を務めておりますヴォルフラムです どうぞお見知りおきを
Je me présente, je suis Wolfram...le responsable de cette modeste forteresse... Soyez les bienvenus !
自己紹介いたします。私はヴォルフラム、このささやかな砦の責任者でございます…ようこそいらっしゃいませ!

いきなり2割増しくらいで歓迎してくれてますね!原作はシンプルに自己紹介してますが、仏語版だと砦にmodeste(ささやかな、慎ましい)という形容詞をつけて謙虚な感じになっています。Soyez les bienvenus !は「ようこそいらっしゃい!」という感じの歓迎の決まり文句です。外面の良さが増している代官。

聞いてた感じと違う なんだかとても優しそう
Il n’a pas l’air aussi méchant qu’on le dit... Tant mieux ! On va passer!
皆が言うような意地悪な人じゃないみたい…よかった!通れそうだわ

こちらはリーゼちゃんの台詞。フラグがマシマシになっていますね。aller(ここではva)と不定詞で「〜するだろう、〜するつもりだ」という近接未来になります。なので「通れるだろう」と半ば確信していることになりますね。代官の第一印象で安心して、砦を通過できるだろうと期待しています。

ここからゲオルグとブルクトーの決闘が始まり、ゲオルグが無事勝利するものの決闘中リーゼが出した声について代官から物言いがつきます。性別を確認するために服をはだけてほしいとの申し出に追い込まれたゲオルグはリーゼを突き飛ばし、代官の疑念を誤魔化すべく必死に演技をするのですが…

どうぞ続けてください 我々のことは気になさらず それともお芝居はもう終わりにしますか?
Je vous en prie...continuez ! Cela m’amuse...à moins que...votre petite comédie...soit déjà terminée?
どうぞ続けてください!楽しいですね…あなた方の小芝居が終わってしまうまではですけど

サイコパス度が増している台詞。à moins que〜は「〜しない限り」なので、直訳で「(ゲオルグ達の演技を見て)楽しいです。あなた方の小芝居が終わらせられていない限りは」になると思われます。あなた方のお芝居見てて楽しいからもっと続けてもいいよ?と言いたいのかな?ここはもっと上手い訳がありそうなので難しいです。どなたか添削求む。

それからリーゼを捕らえ、やって来た公弟閣下の使いと一悶着する代官。

当関所で起きたことは当関所が裁く それがこの門を預かる私の使命です
Pardonnez-moi, mais je connais très bien mes devoirs...et c’est mon rôle de juger quiconque transgressera les lois de ce poste-frontière ! 
お許しを。ですが私は自分の責務についてはよくわかっていますし、この国境における法を犯す者は誰であれ裁くのが私の役目です。

慇懃さは増していますが、おおむね原作に近い訳ですね。je connais très bien mes devoirs(私は自らの責務をよく知っている)という部分が印象的です。

例外的対応は秩序を乱す元 関所破りはその罪にて死罪 何人もこの法を免れることはできません
Le maintien de l’ordre exige qu’on ne déroge jamais aux règles...or, ceux qui tentent de franchir clandestinement ce col doivent être immédiatement mis à mort! Personne ne peut être placé au-dessus de cette loi.
秩序の維持には、規則を決して破らないことが要求されるものです。この峠を非合法に逃れようと試みた者は即死罪!何人もこの法を逃れることはできません

こちらもおおむね原作に近い訳になっています。Personne ne peut être placé au-dessus de cette loi.は直訳で「誰もこの法の上に置かれることはできない」=誰もこの法に優先される者や勝る者はいないということで、そのまま「何人もこの法を逃れることはできません」でいいかと思われます。

仕置き執行!
Que justice soit faite !

これは無敵代官編の記事でも触れましたが、que独立節(命令)の形で直訳すれば「裁き(正義)をなしなさい)あたりでしょうか。「仕置き執行」を語義通りに直訳すると "Exécutez une peine"となりますが、あえてそうせず意味合いに鑑みながら別の表現をあてているところがこだわりを感じていいですね。

この話はリーゼちゃんがひたすら可哀想で辛い回でしたね。誤訳や間違い等ありましたらぜひぜひご指摘お願いします。
ここまで読んでくださりありがとうございました!それでは次回。

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