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『狼の口 wolfsmund』フランス語版を再翻訳3 熱湯代官編

お久しぶりです。前回の更新から随分間が空いてしまいました。どうにかこうにかマイペースでやっていきたい次第です。今回は4巻の籠城戦にてトイレから侵入を試みた農民軍に熱湯責めをするシーンの代官の台詞を訳していこうと思います。かなりエグいシーンですね。

原文→仏語訳→拙訳の順です。

以前この方法で陥落した城があったので 念のため設けた鉄格子が役に立ちました
Certains châteaux sont tombés à cause de leurs latrines!C’est une honte que je ne saurais essuyer! Alors j’ai fait installer ces barres...
実際に便所から城が陥落したこともありますからね。そうなってしまっては恥ずかしい!なので柵を設置いたしました。

元の台詞に少しニュアンスが足されています。C’est une honte que je ne saurais essuyer!で直訳すると「被害に遭うであろうことを知らなかったのならば恥ずかしい」→「(トイレの穴から)被害に遭うことはわかるはず、なので柵をつけた みたいな流れかと思われます。過去に陥落事例があったことに加えて、その事例に学ばないのは恥ずべきこととして柵を設置したというかんじに読めるようになっています。

「まったく頭が下がります。私だったらこんな役死んでもご免被りますよ」
"Cela dit... Cet homme m’impressionne! Pour ma part, j’aurais préféré être ébouillanté...plutôt que d’avoir à me souiller à ce point!"
「それはさておき…この方には感心しますね!私ならここまで汚れる役をするくらいなら、熱湯につけられた方がましですよ!」

こちらの台詞は原文にだいぶニュアンス足されてますね。原文の嘲りのニュアンスを残しつつ、これからやること(熱湯ぶっかけの刑)をわかりやすく示唆しています。avoir à me souillerは直訳で「(自ら)汚れなければならない」ですが、訳のうえでは「汚れる役目をする」くらいかな…と思いこんな感じにしました。拙訳では私が未熟なためかなり直訳になっていますがもっとうまい訳があるはず…むずかちな…

「勇者に相応しい歓迎を。きれいなお湯で洗ってさしあげなさい」
"À ce propos, récompensons-le pour son courage... Le pauvre bougre doit avoir des haut-le-cœur avec ces odeurs! Apportez de quoi le décrasser..."
「それでは彼の勇気に報いてあげましょう。哀れなこの方は臭いで吐き気を催しているに違いありません!何か体を洗うものを持ってきてあげてください」

仏語代官、割り当ての原作台詞に対して喋りすぎ問題。よく喋る上に嫌味さやひねりも増しているぞ!ここでいう「体を洗うもの」はもちろん熱湯ですね。このシーン日本語はシンプルにまとめてるだけによく喋る仏語版との対比がきいてて面白いです。

「便器から汚水があふれ出ぬように加減しながら続けなさい」
"J’ai horreur d’avoir les fesses mouillées... Je vous prie de ne pas en mettre partout!"
「お尻が濡れてしまってはかないません…あっちこっちにかけないようにしてくださいね!」

ここもだいぶアレンジされてますね。J’ai horreur de〜 は「〜が大嫌いである」で、ここでは「お尻が濡れるのは嫌です」になります。なのでお尻が濡れることのないように、トイレの穴の周りにお湯がかからないように(溢れ出たりしないように)してね、と指示しています。この辺は代官の綺麗好きというか神経質そうな性格がベースになったアレンジに思います。

おまけで、このシーンの少し前の場面「備えあれば憂いもなし」はどうなってるのか見てみます。

「存外意表を突いてくる連中です。備えていれば憂いもなし」
"Ces rebelles sont bien plus obstinés que vous ne l’imaginez... On n’est jamais trop prudent!"
「反乱軍は我々が思う以上にしつこいですからね…用心するに越したことはありません」

ここは普通な感じですね。On n’est jamais trop prudentは直訳で「用心し過ぎるということはありません」でそのまま「備えあれば憂いなし」でいいと思われます。

普通に訳しているところとアレンジがされている箇所で緩急があっていいですね。フランス代官は見せ場になるとより饒舌で皮肉屋になるもよう…

ここまで読んでくださりありがとうございました。誤訳やミスなどありましたらどんどんご指摘お願いします!

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