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ヴォートゥミラ大陸異聞録 聖なる信仰の導き手 アリアネル・コリンズの希望と絶望の物語

「アリアネル樣、また〝奴〟を目撃したとの報告がありましたど……」
「捨て置きなさい。あの怪物は金銀財宝が絡まぬ限り、我々には無関心。下手に刺激しては、犠牲がでてしまいます」

教会に飛び込むように、恰幅のよい髭面の男性ファーマーが入るや否や、私に告げた。
不安を隠すように一文字に閉じた唇は、小刻みに震えせて。
続けて飛び込んできた冒険者の方々も、納得いかない様子で、私を見下ろす。
彼らの恐怖、怯え、痛いほど伝わる。
だからこそ、指導者の私がブレてはいけない。
私が感情的に振る舞えば、迷いを生む。
迷いが生まれれば、ただでさえ危険な探索が、より厳しいものとなるだろう。

―――悪魔マモン。
強欲を司る悪魔であり、テラ・ウルム鉱山に棲まう怪物の正体。
あの悪魔が鉱山を占拠してから、村人は徐々に別の土地へ移住し、寂れていった。
かつては栄えていた金山は、今は見る影もない。
今では悪魔だけでなく、鉱山を好む精霊まで現れた。
さらには怪しげな魔術師が出入りしているとの、真偽不明の噂まで流れる始末だ。
こうなってはよほどの命知らずか、物好きしかやってこないだろう。

「司祭樣。そろそろ……」
「準備は充分できています……いきましょう、皆様」

彼らが私に頼るのは、神にでも縋りたい一心から……だけではなかった。
ノーム族である私には生まれながらにして、人にはない能力が備わっていた―――金銀財宝を探し出す力だ。
人間が金儲けに利用しようと企む異能が、初めは疎ましかった。
しかし困り果てた彼らを救うのならば、喜んでこの身を捧げるつもりだ。
それが村を管理する司祭としての使命なのだと、誇りさえ感じている。
ただ村を救いたいという純粋な願いが、どこか人に嫌悪を抱く心を変えてくれたのだ。

「金銀の確保と武器の素材調達。村の存続がかかった一大事、我々の結束で乗り越えていきましょう」
「おおーっ!」



テラ・ウルム鉱山にて



大まかにわけて掘削には、渦巻き状に掘る露天掘りと、坑内堀りの2種類ある。
近代化や自然への配慮、魔法の発達が進むにつれ、露天掘りはされなくなり、テラ·ウルム鉱山も後者に該当する。
活気に溢れた昔は魔術師の協力もあり、移動も楽だった。
だが今では橙の光を頼りに、暗闇を一歩一歩進まねばならない。
平坦ではない道を。
木でできた昇降機で降り、先を急ぐ。
吐息と靴の音が鳴り響く中で、しばらく坑内の様子を探ると、ある異変に気がつく。
普段は魔物が跳梁闊歩する鉱山は、静寂に包まれていたことに。
悪魔の根城には、定期的に出入りする村人を捕らえる罠さえなく、それがかえって不気味さを醸し出す。
親玉のマモンにとって一介の冒険者など、元から眼中にないのだろう。
我々が虚をつくことはないと、高を括っているのだ。

(マモンめ、私たちを見くびっている……!)

しかし悪魔の予想は的中しており、不甲斐なさが歯痒かった。
現に私たちは、日々食い扶持を稼ぐくらいしかできないのだから。

「司祭樣、具合でも悪いのですか?」
「いいえ、悪魔のことを考えると腹が立って……まだ金銀の気配はありません。もう少し奥へ進みましょう」
「はい、司祭樣には指一本触れさせません。皆が司祭樣を頼り守るのは、金銀財宝を探し出すからだけじゃねぇ。些細な悩みにも親身になり、誰よりも村を考えてくれる―――いわば司祭樣の存在そのものが希望なんですぜ」
「そうだい。アリアネル樣だけは命に変えてでも、お護りしねぇとな」

背を向けて先導する冒険者たちの励ましを受けて、私は拳を握り締め

(皆さんも辛いのにすいません。悪魔を倒す方法を見つけ、いつか必ず本当の希望になってみせますから……)

そう胸に誓う。
暫く坑道を進むと、急に夏の太陽の如き容赦ない光が差し込んだ。
闇に慣れた私たちにはあまりにも眩しく、思わず腕で視界を遮る。

「おやおや、これは司祭様。まだ鉱山を取り戻すなどと、民を誑かす戯言を吐いているようですねぇ。ここはもう、悪魔の住処だというのに。クククッ!」

その瞬間、我々は耳にした。
地獄の底から響くような低音に、神経を逆撫でする喋り口調。
……この声の主は。

「エルヴィス! 悪魔討伐から戻ってこないと思ったら、生きていたのか!」

坑道に怒声にも似た叫びが木霊した。
大陸屈指の5人の魔術師、〝五賢星〟の土の元素を司る実力者エルヴィス。
冷静沈着で愛情深い彼には、私もよくしてもらった。
だが数ヶ月も音沙汰なしで、どうやって生きてきたのだろう。
疑問は彼の発言で、すぐに解けた。

「簡単な話ですよ、貴方がたの悪足掻きに勝算はない。だから私は偉大なる悪魔マモン樣の忠実なる下僕として、活動しているのですよ」
「なんだと。村を愛していたアンタが……嘘だと言ってくれ」
「貴様……村だけでなく、魂まで悪魔に売ったか!」

裏切りへの悲痛な思いと罵詈雑言が、同時に浴びせられるも、意に介した様子はない。
それを見て、彼は本当に悪魔の配下になったのを理解した。

「アハハ、負け犬の遠吠えが心地よいですねぇ。どちらにつく方が、より利益があるか。考えればわかることでしょう」
「なんとでも言いなさい。私たちはいつか必ず悪魔マモンの息の根を止め、村を取り返す!」
 
村人を嘲笑うエルヴィスに、咄嗟に言い返すと

「マモン様を倒し、かつての村を取り戻す? 笑わせる! そんなに冒険者や村人の命が大事なら、鉱山など捨て、新たな地で平穏無事に暮らせばいいでしょう。弱き者が強き者に逆らうなど、愚の骨頂!」

村から去ればいいと、冷淡に吐き捨てる。
言葉を失う私へ、彼は続けざまに毒づいた。

「アリアネル司祭。貴方が金銀をマモン様の鉱山から奪って、村を支えるのは、ただの自己満足に過ぎない―――貴方の優柔不断が、村人を絶望に叩き落とす元凶。貴方は村の希望などではなく、絶望そのものなのですよ」

エルヴィスの痛烈な一言が重くのしかかる。
彼の言う通り鉱山に固執せず、別の場所で暮らせば、犠牲はでなかった。
私の判断が、村人の命を奪ったのだ。
黙り込む私を庇ったのは、同行していたファーマーだった。

「司祭樣はオラたちの悪あがきに付き合ってくれてんだ。愚弄すんのは、オラが許さんぞ」
「ファーマー。農家から冒険者への転職ですか。貴方のような人間がいると、冒険者が誰にでも務まると思われ、心外ですねぇ。小手調べといきましょうか! きなさい、アンネベルク!」

エルヴィスが悪魔の名を叫び、同時に馬の姿をした怪物が出現した。
鉱山を拠点とする悪魔であり、我々を幾度となく苦しめた魔物の1体。
だが彼に呼び出されたアンネベルクは、今まで見たどの個体よりも、悪意に満ち満ちていた。
ただならぬ邪気に覆われたそれは、飼い葉を喰むように、咀嚼を繰り返す。
白目に浮かぶ、羽虫の如し小さな瞳孔は忙しなく動き、異常性を物語る。

「冒険者共を喰い殺したら、あの司祭樣とやらも、ヤっちまってもいいよなぁ……エルヴィスよぉ」

悪魔が問うと、エルヴィスは眼鏡を中指で持ち上げつつ、返答する。
一触即発の雰囲気を感じた冒険者は、震えた手で武器を取る。
アンネベルクの放つ狂気。
そして何より、〝大地(おおつち)の魔術師〟エルヴィスが敵側に寝返った絶望が、彼らを萎縮させていた。

「決して司祭樣を殺してはなりませんよ、アンネベルク。彼女が絶望し、自身の意志で村から人間を撤退させる。それでこそ鉱山の真の所有者が、マモン樣であることを証明するのです」
「どうして生かしておくぅ。まさかテメェ……未だにこいつらへの情があるとか抜かさねぇよなぁ?」
「村人の結束は固い。もし司祭樣に万が一があれば、彼らは暴徒と化す。そうすれば我々も、ただでは済まない。リスク管理の観点から見て、生かしておくべきと判断したまでです」

睨みつけたアンネベルクにも動じず、淡々と言い返す。 
一切の情はなく、ただ機械的に異物を排除するシステムの一部として生き長らえる、エルヴィスの姿があった。
彼は敵だ、もう受け入れねば。
村人と彼一人どちらを優先すべきかは、考えればわかることだ。

「ククッ、計算高いねぇ。その抜け目のなさが、お前が人ながらマモン樣に厚遇される理由だ。悪魔に産まれるべきだったぜ、お前は……さて、お話はここまでだ。フシュルルルルル……」

悪魔が嗤うと正面に向き直り、嘶くと戦闘の火蓋が切られた。

「死にさらせ、ニンゲン共ォ!」

悪魔は殺戮の本能に従い、2mはあろう巨体が猫の如し敏速さで、襲いかかる。
前も後ろも細長い一本道に、逃げ場などない。
まともに食らえば、ただでは済まないだろう。
恐怖のあまり瞳を閉じるが、いつになっても直撃はしない。

「グッ……アンタ、変わっちまっただな……エルヴィスどん!」

ファーマーが皆の前に立ちはだかり、身を挺したからだ。
悪魔の突進の威力は確かで、彼の持つ木の盾を容易く貫通し、鋭利な角が肉を突き破る。
しかし農作業で鍛えた強靭な足腰は、冒険者としても大いに役に立ち、悪魔の矛を受け止めた。

「なにぃ! ニンゲン風情が、俺の攻撃を受け止めやがっただと」
「……正直、舐めていました。だが相応の実力と覚悟が、貴方にはあるようだ。フフ……」
「おい、いいから助けろや、エルヴィスよぉ」

悪態をつく悪魔を見て、やれやれと言いたげに肩を竦めると、気だるげに魔術の詠唱を開始した。
アンネベルクにばかり警戒しては、格好の的になる。
彼の実力をよく知るからこそ、私たちはエルヴィスから、視線を逸らさずに待ち構えた。
ランタンの光が、冒険者らの緊張で強張る顔を、額に掻いた汗を照らす。
来る……!

「大地の精霊ノーム。万物の命、大地へと還せ。インヒューム」

魔法を唱えた刹那、導火線についた火が如く坑道に亀裂が生じ、我々に迫ってくる!

「避ければ好機はある、皆ふんばれ!」

冒険者の一人が叫ぶや否や、彼は飛び上がって回避した……が、直後に岩で構成された手に脚を掴まれた。
横に移動し、間一髪避けたかと思えば、岩壁から棺が出現し、冒険者の1人が飲み込まれていく。
全ての行動は、歴戦の魔術師である彼の思惑通り。
次から次に多彩な攻め手が襲いかかり、瞬く間に勝敗は決した。

「〝大地の魔術師〟、これほどの実力とは……」
「一回の魔法で、全滅じゃあ……」
「……私に手こずるようでは、マモン様に対抗するなど、夢のまた夢。貴方たちは特別に生かしておいてあげましょう。おめおめ逃げ帰り、生き恥をさらし、存分にマモン樣の腹心エルヴィスの恐ろしさを語るがいい」

ぐったりと横たわる冒険者に向かい、口角を不敵に吊り上げるエルヴィスは、まさに悪魔だった。
もう村の一員としてではなく、人としての良識すら失ったのだ。
けれど一番は、息も絶え絶えにした彼らに、何もしてやれないことだ。
金銀財宝を探す力も、人々の悩みに寄り添うのも。
そんなものは、戦場では何の役にも立ちはしない。
奥歯を噛み締めると熱くなった目頭から、石筍(せきじゅん)から落ちる水のように、頬の形を沿い、雫が伝う。

「何故、私には何もしない。殺しなさい、エルヴィス。次々と人が去る村で説法を説き、何の意味があるというのです。偉大なるヴォートゥミラ三神に生命を授かった冒険者たちが、むざむざ悪魔にやられていく。そんな現実の前に、目の前の人間一人救えない私が、のうのうと生き長らえる価値が、どこにあるというのですか?!」
「……司祭樣」

感情のままに喚くと、冒険者もつられたように、表情を歪ませる。

「知りませんよ、そんなことは。貴方の決断1つで無用な血は流さずに済む。貴方の意思に、村人は従う。マモン様の力は強大……もう諦めなさい。故郷を捨て、鉱山を明け渡す。それが貴方たちの取るべき唯一の道」
「クヒヒ、せっかくだからよ。アイツら血祭りに上げようぜ、エルヴィス」
「無力化した、取るに足らない冒険者など無視でよろしい。金の採掘の為、一刻も早く石英の鉱脈を探し出さねばなりません。さ、急ぎますよ」

エルヴィスはそういうと、我々に背を向けた。
永遠の決別に私は泣き叫び、恨み言を吐き続けた。

「……チクショウ、クソッ……いつか絶対に……お前たちを……地獄の底に墜としてやる!」
「私とアンネベルクを地獄に堕とす、ですか。力なき者が語るなら、所詮は単なる夢物語。私を始末するだけの戦力を整え、悪魔と同等の知略を弄し、それは初めて現実になる。せいぜい抵抗なさい、我々の掌で」
「戦えねぇ嬢ちゃんに、何ができるんだよ。死にたきゃ勝手にくたばりな」

彼らが去った後、小さな拳にやりきれなさを乗せ、私は何度も岩を殴った。
鮮血に手が染められても、心の痛みに比べれば、どうということはない。
その後はよく覚えておらず、気がつくと教会に送られ、治癒を施されていた。



数週間後



傷を癒えても、私は失意の底にいた。
私を可愛がってくれた彼が敵に回ったのだけが理由ではない。
自らが目を背けていた無力さを、嫌というほど痛感させられたからだ。
頼りにしてくれる方々の相手をする時間だけが、唯一何も考えずに済み、気が楽になる。
 
「司祭樣、鉱山に……」
「すいません。まだ彼が敵になったのが受け入れられないので」

冒険者の方々に促された私は、遠回しに行きたくないと告げた。
だが村の存亡という大義ある彼らは、そう簡単に引き下がらない。

「司祭樣には迷惑ばかりかけちまう。俺たちが弱いから司祭樣を……」
「違います! 私の弱さが貴方たちを苦しめた。信仰なんかでは、誰一人救えない……」
「俺たちも司祭樣も……一人一人は弱いから。だから弱いもの同士が協力していきましょうよ」
「誰も傷つかない方法なんて、ないかもしれねぇど。けんど理想がなけりゃ、オラたち生きてけねぇ。信仰そのものに意味はねぇけろ。信仰を体現した司祭樣にゃ、オラたち救われてんだぁ」

ファーマーや冒険者らの言葉が胸に響く。
私のやってきたことは、無駄ではない。
いや、無駄だったとしても……これから意味のある行為にしていこう。

「迷惑をおかけしました」

頭を下げ、私たちは再び鉱山に向かう。
……生きていく為に。

「また魔物がいないな。どうなってんだ?」
「人間を歓迎してくれてるわけじゃないだろ。アタイらには悪魔の都合なんて、関係ないことさ」

魔物の統制がなされたと、考えるのが自然だ。
おそらくマモンが金銀にのみ注力するよう、人員を割いているのだろう。
我々にとっては好都合。
私の考えを冒険者の方々に話すと、納得したように頷いた。
地下深くに降り、耳をすますとコンコン、コンコン……岩を金属で叩くような音がした。
内緒話でもするように土の精霊が

「盗られないようにしないとね〜」
「うんうん」

と無邪気に喋り出し、近くに金脈があると確信する。
声の方へ急ぐと、金色の岩を見た我々は、瞳を輝かせた。
 
「さ、早くツルハシを……」
「エルヴィスに負けた雑魚共じゃねぇか。マモン樣の鉱山をまた荒らしにきやがって。殺されにきたのか?」

その時、我々を嘲笑う悪魔の声が響く。
……最悪だ。

「お、お前は……」
「持ち場の管理に戻ってくりゃ、のこのことニンゲン共がやってきやがった。お預けするエルヴィスはいねぇ。餌を喰い、手柄を報告できる。一挙両得だぜ、クヒヒッ!」

アンネベルクの口振りからするに、他の魔物はいないのだろう。
こいつさえ倒せれば、私たちはまだ生き延びられる。

「俺たちはエルヴィスに敗北した。が、お前にはやられていないぞ」
「エルヴィスの腰巾着が、ずいぶん粋がるじゃないか。アタイの大嫌いなタイプさ」
「ハハッ、威勢がいいな。反骨心のある奴らは嫌いじゃねぇ。来い、大口叩けねぇようにしてやる」
「オラたちも強くなっただな。お前さんには負けねぇど」

我々はもう後には引けないのだ。
ファーマーが啖呵を切ると、どちらからともなく戦闘が始まった。

「炎の精霊サラマンダー。我が言葉に応じ、火焔を放て。フランマ」

魔術師の一人が呪文を唱えると、火球が顕現し、坑道にたちまち煙が巻き上がる。
焔を浴びた魔物の巨大な体躯は、黒煙の中に紛れた。
これで倒せたとは思えないが……

「ハッ! その程度なら避けるまでもねぇ」

アンネベルクが叫ぶと、煙から正確に我々目掛けて突っ込む。

「危ねぇだ!」

ファーマーがとっさに庇うも渾身の一撃に、ファーマーの大きな身体は風船のように吹き飛ばされ、空を舞う。
転がる彼に仲間たちが視線を送ると、悪魔は即座に間合いを詰め

「人の心配してる場合かよ! 大地の精霊ノーム。人の子ら見守る磐座(いわくら)の、悠遠なる神秘を我が手に。ルーペス」

アンネベルクのやや長めな詠唱に、私は顔を蒼白させた。
同じ呪文でも複数の種類があり、普段我々が唱えるのは、短縮された呪文だ。
しかし詠唱が精確になるにつれ、威力も高まる。
隙をつき、一気に仕留めにきたのだ。

「愚かなニンゲン共、死にやがれぇ!」
「う、うわぁあああ!」

巨岩が我々に向かって飛んでくる。
当たれば命を落としかねない魔術に、冒険者らの悲鳴がこだました。
……だが巨岩は、術者であるアンネベルクに向かっていくではないか。

「どういうことだ、テメーら何をした!」
「私は戦えませんが……けれど皆さんを守ることはできる! お前なんかに、誰の命も奪わせはしません!」

放たれる直前に悪魔へ投げた、身代わり人形。
村人の呪術師が製作してくれた、悪魔攻略の一手。
村を守ろうとしているのは冒険者だけでも、私だけでもない。
苦境に立たされ、なおも村に残った人々が、私たちに力をくれる。

「グッ、小賢しい。下等生物の分際で調子に乗りやがってぇ!」
「あんまりアタイら人間を舐めんじゃないよ! お前ら悪魔の見下した人間に、アンタはやられるのさ!」

自ら呼び出した巨岩が直撃した悪魔に、冒険者の一人が槍を突き刺すと、魔物は吐血し息を荒げた。
しばらく暴れたが、攻勢を緩めずにいると、次第に動きが鈍くなっていく。

「……マモン樣に楯突く……貴様らの行き着く先は……我らと同じ……クヒャヒャ……」

負け惜しみを言い残し、私たちを嘲ると、アンネベルクは絶命する。
我々は悪魔の死を確かめもせず、石英の鉱脈に駆け寄った。
これを見るのも、いつ以来だろうか。

「金ですよ、皆さん!」
「ああ、これで俺たちは生きていける!」
「エルヴィスの奴が好き放題抜かしてたけどね。やっぱりアンタは、アタイらの希望だよ!」
「えへへ、面と向かって言われると照れますね」
「……嬉しいのはオラも一緒だけんど、まず治してくんろ~……」

傷だらけのファーマーが言うと、魔術師の一人が、彼の傷を癒した。
私は希望になれただろうか。
たとえ絶望そのものでも、ほんの僅かな力になれただろうか。
いつか本物の希望が現れるのを願い、私たちは鉱脈を一心に掘り進めた。


聖なる信仰の導き手 アリアネル・コリンズ

職業·司祭(プリースト)
種族·ノーム
MBTI:ISFJ
アライメント 秩序·善

金銀財宝に強欲な悪魔マモンが棲みついたテラ・ウルム鉱山の近隣の村で暮らす、ノームの女性司祭。
村に再び活気を取り戻すべく、魔物の巣窟と化した鉱山を取り返そうと奮闘する冒険者に手を貸すも、奪還は難航。
しかし金銀の探知に長けるノーム族の特性を活かし、魔物より早く鉱石を見つけ売り払う、綱渡りの生活で村人を支える。
いつの日か村を救う英雄が現れると信じて。



悪魔マモンの忠実なる僕 エルヴィス・ウェード

職業·魔術師(ウィザード)
種族·人間(ヒューマン)
MBTI:INTJ
アライメント 秩序·中立

元はテラ・ウルム鉱山の近辺の村々を拠点にしていた、大陸を代表する五大魔術師、〝五賢星〟の大地を操る魔法使い。
だが現在は、鉱山を占拠した悪魔マモンの側につき活動する、邪悪な魔術師と化した。
故郷を捨てた彼は、かつての仲間にも下級悪魔を差し向け、容赦なく牙を剥く。
村人の生計の為に鉱山の金銀に固執するアリアネル司祭に対しても、歯に衣着せぬ物言いをし、彼女の意志を試すように挑発を繰り返す。
はたして、その真意は……?


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