六文銭
『感覚は麻痺するが知覚だけが残る』
そんなイカれた薬が出てくる小説を昔読んだ気がする。
題名も内容も思い出せないということはおそらく最後まで読んでないんじゃないだろうか。
都会の端っこの喫煙所で最後の一服をしながらそんなことを考えていた。
ニュースは巷を騒がしている連続殺人犯のことしかやっていない。
パーカーのポケットに突っ込んだ左手ではさっき買ったタバコを最後に底を尽きた全財産60円を弄んでいる。
駅の方からアコースティックギターの音が響いてきた。
若者は夢があっていいな
タバコの火を消して喫煙所を離れてギターの音がする方に歩いていった。
青いベンチの弾き語りをするその青年はとても爽やかで、何故か心が救われるような気がした。
しばらく聞き入っていたが、1曲完奏したのでなけなしの60円で投げ銭をした。
さて、渡り賃の六文銭も失ったしタバコももう全部吸ってしまった。
そんな時にふと思い出した。
そうだ、虐殺器官だ。じゃあ、きっと俺も虐殺文法を読んだんだな
空っぽになったこの男はフラフラと交番に向かって歩いていった。
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