一部で全部を判断するな(サウナ随想1/26・西田温泉)
人間は寝不足になると不安になる。
普段はなんとかなるさ、と思えることでも楽観的に考えられなくなり、何が嫌なことがあったわけでもないのに、なんとなく、ブルーな気持ちになる。
人が抱える悩みの半分は、睡眠不足と人間関係の問題が占めていると思う。
アメリカ国防総省は、7日間眠らないで飛び続ける「ミヤマシトド」という渡り鳥の脳を研究して眠らない兵士を作ろうとしている、と
大学受験の時に横浜国立大の英語試験の過去問で読んだのを覚えているが、とりあえず言えることは、日本人はもっと寝た方がいいということと、私は横浜国立大に落ちたということだ。
ミヤマシトド(画像:https://www.pbase.com/image/83910026)
ボーっとしつつ、鹿児島の街を歩く。
鹿児島中央駅から5分、鹿児島本線の線路沿いに、「西田温泉」はある。
420円の入浴料と、一回分のシャンプーリンスをそれぞれ買い、ちょうど500円。
鹿児島の強さは、何と言っても銭湯の料金で温泉に入れることである。
それでいてサウナがついているというのだから、もう、楽園と言わずなんというのだろう。
睡眠時間3時間弱、昨日からの皮脂がついた衣服を脱ぎ捨て、浴場に入る。
西田温泉は、どこもかしこも「ごめんどうですが」と書いてある。
「ごめんどうですが、靴を脱いでください」「ごめんどうですが、ドライヤーを使う方は番台まで」
そんなに腰を低くしなくても、もっとあぐらをかいて商売してもいいぞ。
身体を洗い、「ぬるめ」と書いてあるのに43℃くらいある湯船に浸かる。はあ、蘇る。
当直勤務をしていた前の晩は、特に忙しくもなかったが、朝日新聞デジタルを見ていて気になるニュースがあった。
中国で蔓延する新型肺炎への懸念から、箱根にある駄菓子屋が中国人おことわりの掲示を行なっている、というニュース(*1)だ。
中国への団体旅行も中止され始めたし(厳密には中止はこの記事のあと)、そういった懸念を抱くこと自体はわからなくもないが、問題なのは「一部で全部を判断する」という思考だと思う。
イスラム教徒は全員テロリストかもしれないと考えるどこかの国もそうだし、
不祥事続きの中央省庁を指差して「官僚は全員ダメだ」というのもそう。
マスコミを「マスゴミ」として叩き、学生起業家というだけで全員「意識高い系」と呼ぶのもそうだ。
どうしてだろう、組織や集団にはいろんな人がいるはずなのに、人は一つの特性にまとめあげてくくりたがる。
特定の一部が問題を起こす背景には構造的な問題があるにしても、
一部のマイナスを「ならば全体がそうであるはずだ」と考えるのは短絡的である。
世の中は無意識にこれに支配され、分断を生み出していると思う。
でも、最近考える。
少しでも、これを逆に利用するという手があるのではないか。
よく考えれば、こんなことってないだろうか?
「あの国にいいイメージはなかったけど、出身の◯◯さんはいい人だし、イメージが変わった」
「先入観であの会社は怪しいって思っていたけど、信頼する◯◯さんがいるってことは大丈夫なのかな?」
「いやいや、嫌なやつばっかじゃないぜ!」とプラスの意味で、「一部で全部を判断」してもらえるよう、個々人が行動する。嫌な面が際立つときこそ、その集団の良い面に目を向けてはどうだろう?
そういう一つ一つが信頼を生み、分断を解消するのではないか。
考えるのに疲れてきた。
もう、なんでもいいからすべてを毛穴から出し切ってしまいたい。
サウナ室の木製扉を開けて現れる、4人ほどしか座れない小さなスペースに腰掛ける。
スノコは最近張り替えられたのか、清潔感があってとてもよろしい。
METOS製の小型。見た感じ、おそらくSM-45式だ。入り口には「本格フィンランド製」と書いてあるのに、ロウリュはできない。
そこのところ、ごめんどうですが、よろしくお願いしたい。
温度計はないが、中は体感で85〜90℃くらい。じっくりと7分、汗腺を焼き、外へ出る。
水風呂は肌触りのいい軟水。地下水をくみ上げているという。多分19度くらい。
「軟」という字は好きだ。「車」と「欠」、字面はいかつそうなのに意味は”やわらかい”。「軟式globe」の「軟」。「なん」という音もいい。
さらさらとした感覚が身体を包み、幽体離脱しそうになる。気持ち良さで目玉が溶けて流れ出そうな錯覚に陥る。
ストロングゼロなど「ストロング系」のアルコール飲料は社会にとって危険である、と警鐘を鳴らすBuzzFeedの記事(*2)を前の晩に読んだが、サウナこそ無規制のドラッグだ。
酒もタバコも規制が厳しくなった2xxx年、快楽を求めた人々はサウナに入るようになり、サウナ人口が激増。
刺激を求めすぎ、ヒートショックで死ぬ人が増えるに違いない。200年前、80万の現代日本人がアルコール依存症になる(*3)と、誰が予想できただろうか?
鹿児島は5月上旬並みの暖かさだった。
もわっとした風に包まれながら、家路を急ぐ。
(*1)朝日新聞デジタル 2020年1月22日
(*2)Buzfeed 2020年1月21日
(*3)2003年、治療の必要な患者数の推計値(厚生労働省HPより)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?