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コトバガリとアゲアシトリ 【超短編小説】


いつも、ってナシだ。
いつも、って言わないでくれ。

こう言っては冗談みたいになってしまうけども、お前はいつも「いつも」って言う。

ドアの開け閉めがうるさいのも、
使ったハサミを仕舞い忘れるのも、
箸の先っぽを意地汚く舐めちゃうのも、
別に百発百中で毎回のことってわけじゃない。

いや十中八九にだって満たないのに、お前はすぐ「いつも」って言う。
お前が見ているときに限ってそうなっちゃう割合がやや多いってだけなのに。

ちゃんとできているケースも公平にカウントしてくれ。
お前が観測していない瞬間のことを無視しないでくれ。

着実に改善してきてるはずなんだから、
むしろ「進歩したね」くらい言ってくれてもいいはずだ。



あと、あいかわらず、って言わないでくれ。

おれは過去のどの時点のおれとも、一秒たりと同じおれだったことはない。
なのに昔のおれから全く変わってない、みたいな言い方をするのはやめてくれ。

はいはい今後もずっとこの調子なんでしょ? 仕方ない人ね、ってカンジで勝手に諦めた風に笑わないでくれ。

変化しないものなんてないから。
ちょっとややこしいこと言うけど、その事実だけは例外的に絶対変わらないから。

「不変の愛」だとか、「ずっと死ぬまでこのまま」とか、憧れないなあ。おれは嫌だね。



そうそう、それとさ。シアワセか、だなんて無闇に尋ねないでくれよ。

たぶんその問いについて能動的に考えてるときって、ホントのシアワセにはなれないから。
折角ふだん忘れてるんだから、いちいち思い出させないでくれると助かる。

いつのまにか「ああ今がそれだ」って無意識に認めちゃってる、そういう状態のことを言うはずなんだシアワセっていうのは。

いたずらに目指したり、訪れを待ったりしていちゃなれないんだ、「仕合わせ」っていうのは。

給仕のジに、合格のゴウ、ワセが送り仮名。
当て字で書くと本質がみえる。そう思わない? そうでもない?



――あいかわらずだね。



ほらまた言った! お前それ、口癖になっちゃってるよ。わざと? 天然?



――あいかわらずって言葉、あたし好きだな。



まじ? いい言葉には思えないけどなあ。
旧態依然。古歩自封。あいもかわらぬ残業地獄。はは。



――仕事大変なのに来てくれて、いつもありがとう。



え。あ、いや。来れない日も結構あるけど。



――たくさん励ましてくれていつもありがとう。色々話して聞かせてくれて、いつもありがとう。



お前、また「いつも」って言ってるよ。



――お花に水をやってくれて、ユキとホタルの写真も見せてくれて、着替えを持ってきてくれて、優しく身体を拭いてくれて、愚痴も泣き言もぜんぶ受け止めてくれて、



なに、どうしたの突然。



――ホントいつも悪いね。



おい。だから、いつもじゃねえし。
なんでいつもじゃないのに「いつも」って言うんだよ、い・・・、たびたび。しばしば。



――ね、シアワセか訊いて。



え?



――あたしが今シアワセかどうか、訊いてみて。



なんでだよ。いやだよ。



――自信があるから。







――考えても考えても、考えれば考えるほど、今がめちゃくちゃシアワセだから。



お前ふざけんなよ。



――あはは。ほんとなのに。



頼むから、急におかしなこと口走らないでくれ。



――ほんとなんだから怒らないで。



おれをあんまり不安がらせるな。
そういうところだぞ。



――あ。今、あいかわらずだ、って思ったでしょ。



思っ、てない。



――絶対思った。



いや・・・。



――あたしたち、最期までずっとあいかわらずがいいけどな。



いいわけねえだろ。だってお前、



――あいかわらずって言葉、あたし好き。



・・・。



――当て字で書くと本質がみえる。そう思わない?



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