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お金の価値と自分の価値

是が非でもしなければいけない話なのに、
どうしても真正面から話ができないのが
お金の交渉だ。

自分の仕事のスキルをどのくらいの価値に
見てくれるか、という建前とともに、
相手の懐具合を予測しながら、
見積りを立てる。

あまり余分に言い過ぎても欲張りのように
見えるし、かといって少なすぎれば生活が
できなくなる。こんなふうに心が揺れながら、
数字の端数を調整してみたりするのが
普通だろう。

かくいう私も、自分の仕事の価値を
お金に換算できない人間の一人である。

時給あたりで考えてみたり、
企画書や原稿そのものの相場を当たって
みたりと、結局、何か前例を探してきては、
その業務に当てはめることが多い。

なぜお金の話はそんなにしにくいのか。

たぶん、そこに人間としての情が入って
しまうからだと思う。
なくなってしまう不安。
あるのにないと思ってしまう不安。
そしてあることに対する不安。

結局どういう状況であろうと、
人間はその存在に一喜一憂する毎日だ。
連日、テレビをにぎわしているサラリーローン
のコマーシャルは、なんと明るくからっと
していることか。あの世界には“情”が
入り込む余地がなく、欲しいと思ったものは
手に入れるべきだと、社会全体がこぞって
推進しているキャンペーンみたいなものだ。

人間の欲望がなくなったら、資本主義社会は
確実に衰退していくだろう。どんな手だてを
使っても、人々の欲求を満たしていくしくみを
作らなければならないことも事実だ。

やっぱりベンツに乗りたい、ブランド物の
バッグが欲しい、海外旅行もしてみたい…。
積もり積もった欲望は、果てしなく続く
ネバーエンディングストーリーだ。

だから、もっとお金のしくみに非情になること
が必要だ。よくものを作る側が見積りを提出
することがあたりまえのようになっているが、
買いたいと思う人、つまりお客さんのほう
から“これで買いたいのだけれど”と
提示させてはどうだろうか。

“そんな無理言ったらあきまへんわ”“では、
こんなもんでどうです”“わかりました
今回は泣きましょ”という感じで。

要するに、見積りさせるのではなく、
商品やサービスを受ける側にこそ
お金の価値を提示してもらいたい
というのが私の願いだ。

そうすることで制作したりサービスを
提供する人たちは、自分たちの仕事が
社会からこのように評価されているという
自信になると思う。

原価計算のなかから導き出された数字は、
あくまでもものの価値の逆算であり、
世の中のお金はこうあるべきだ、
と企業側が勝手に決めた論理に過ぎない。
もっとお金にシビアになって、
すべてがオークションのように試されている
ようになったほうが、ものづくりにも
真剣さが増すと思われる。

同じものはふたつと作らない、
つねに新しい何かを生み出す。
クリエーターの仕事の楽しさと厳しさは
そこにあり、その苦悩こそが活力源と
なりうるのだ。

そんな業界の隅っこで、こそこそと、
しかし確実に自分のフィールドを見つけようと
考えている私にとっては、いつか見積り金額を
気にしないで仕事ができるようになりたい、
と切に願う毎日である。

その道のりははるか彼方か、
もう目の前なのか、自分の目では確認できない
ことが一番歯がゆい。

余分な贅肉や欲望を付けていく必要はないが、
どれだけ自分の仕事に価値を持たせるか、
を真剣に考えなければならない時期に来た
ことは確かだ。インターネットがあらゆる
既得権益を崩壊させていることは、
まだほんの序章に過ぎないかもしれない。

* * *

お金や仕事の評価について、この歳で悩むのは
決して珍しいことではないと思う。

自分の価値を見極めること以上に、
それを考えること自体が成長への一歩になる。
自分の信念を持ち、自分の仕事に対する価値を
高めようとする姿勢は肯定されるべきだ。
そして、その姿勢を持ち続けることが、
将来のジブンの可能性に繋がっていったのだ
と思う。

そもそも、お金の交渉や仕事の評価は
現実的な問題であり、柔軟性を持ちながらも、
自分の信念や価値観を貫かなくてはならない。
と同時に、相手の立場や状況も理解し、
適切な提案や交渉をすることも必要になる
ことも経験してきた。

お金の価値や仕事の評価は常に変化するもの
であり、その中で自分の立ち位置を見つける
努力を惜しまずにしてきたつもりだ。

しかし、その中で自分のフィールドを見つけ、
自分の仕事に価値を持たせることができるのは
ジブン自身だと思う。

過去の経験や状況にとらわれることなく、
常に新しい可能性を探求し、
挑戦し続けなければならない。
自分の信念や価値観を貫きながらも、
時には柔軟に変化に対応する余裕を持ちたい。

大切なのは、自分が何を大切にし、何を目指し
ているかを見失わないこと。自分の内なる声に
耳を傾け、勇気を持って進んでいくしかない。
その先に、きっと新たな可能性が待っている。

2002/05/23Thu
#あの頃のジブン |12


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