動きをみせる人たち
先週、取引先のビジネスセミナーに参加し、
ライフネット生命の会長兼CEOの
出口治明氏の講演を聴いた。
出口氏の関西なまりの言葉に重みがあったが、
中でも私が気になった言葉が、
「人材の流動化」だった。
日本の大学生の半分以上がメガバンクや証券
会社、生命保険会社などの金融機関に就職を
希望している。理由は「安定している」から。
このように人材が固定化し、農業や医療など、
今後、成長が期待されている分野に人材が
行かないことが問題だということだ。
ちなみに、アメリカの大学生はベンチャーや
NPOなどこれから成長すると期待されている
分野を希望する割合が多く、金融機関などは
20位以下の順位なのだそうだ。
アメリカは人口が増え続けている。
移民による若年層の流入は今後も増え続け、
日本の少子高齢化による“成熟化”とは違い、
成長することが義務づけられていることが
背景になっている。
大学を卒業後、就職して組織の一員になり、
定年まで約40年近くを過ごすことになる。
気の遠くなる年月だが、それが日本の
“終身雇用制度”であり、安定的に人生を
過ごすことができるという、ある意味、
世界に名だたる成功モデルと言えるだろう。
しかしある時を境に、この雇用形態が崩れ、
自己責任に基づく働き方の選択が求められる
ようになった。自己責任とは聞こえが良いが、
個人がこのルールに抵抗しようとするのは、
現実的ではない。
むしろ、幼い頃から個人の自由と自己責任を
押し付けられてきた世代、たぶん、現在の
30歳以下の人たちだと思うが、その流れに
乗っかってしまった人たちが多かったのでは
ないだろうか。
そして、これだけ社会問題化しているときに、
何が「人材の流動化」なんだと出口氏に文句を
言いたくなったが、話を聞いているうちに、
そういうことかと納得した。
それは、彼の人生そのものだった。
三重県美杉村から京都大学法学部へ進学し、
滑り止めだった日本生命に入社することに
なった出口さんは、結局、定年の少し前に
日本生命を辞めて、ライフネット生命とい
うベンチャー企業を立ち上げる。
これが人材の流動化
なんだと言いたかった訳だ。
人を特定の組織の中に固定化してしまうと、
そのまま何も波風を立てることなく時間を
過ごしてしまちがちだ。そして自分のなかに
はびこる既成概念、現在がベストだと考える
安定志向が蔓延り、自分自身を変えることは
容易ではないという。
必要なのは、
自分の環境を、ジブンで変化させること。
これは何も転職だけに限らない。
例えば、配置転換や担当変更など、ある意味、
強制的に、合理的にルールを変えることが、
個人や組織を活性化させるきっかけになると
いうことらしい。
かく言う私も、意識したことはなかったが、
これまでルール変更につねに挑み続けてきた。
なぜ、物怖じせずにその時に選択できたのか
ジブンでもまったく理由が分からないのだが
何かに突き動かされてきたような気がする。
その時に大切なのは、
流れには逆らわないこと。
独りの人間に
ジブンの運命をコントロールすることなんか
できないと分かっているから…
最後の質疑応答で、参加者の一人が「日本生命
の社内でベンチャーはできなかったのか」と
聞いた質問に対して出口さんは、
「社長の器以上のことは、組織ではできない」
と言い放った。
私たちはいつになったら、トップの創造力を
超える企画を打ち出すことができるだろうか。
* * *
最後の言葉を考えると
当時の私は調子に乗って
本気でトップになることを
考えていたのではないか。
そんな恐ろしいことを、と思うのは
その過程を見てきたジブンだからこそ
言えるのだと思う。
だが、自分の可能性を信じて進むことが
若い頃にいかに必要なことか!
歳を重ねれば重ねるほど
分かったようなふりをすることも
よく分かった。
いいじゃないか!
夢見ることは自由だ。
できるかできないかは
やってみないと分からない。
そうやって
ここから
10年以上の月日が流れた訳で
これから
愛おしいジブンを
じっくり見つめていこうと思う。
#あの時のジブン |01