ガン横の2、3分程度で読める短編ミステリー「困惑させる子供」後編

茂雄は以前全校生徒1300人程いるマンモス小学校に在籍し、ひとクラス40人の生徒を受け持っていた
それが今では1クラス3人足らずの廃校寸前の小学校に赴任しこのクラスを受け持つ事になるなんて思いもよらなかった
そのクラスで給食費が盗まれるという事件
なんとやりがいのない事件だ、昔は40人の生徒を操り支配していた茂雄
3人などちょろいもんだ
茂雄は唇を舐め、戦闘態勢に入った

「よーし!ホームルームを始める前にみんなに大事な話がある、みんな目を瞑れ〜」

さぁショータイムの始まりだ
生徒達は従順に静かに目を瞑る

「残念ながらうちのクラスの田伏の給食費が、盗まれるという忌まわしい事件が勃発した!
今正直に自分のやった罪を認めるなら先生目を瞑ろう、給食費を盗んだもの手を上げろ」

「・・・・」

まぁそりゃそうだ、こんな口上で正直に手をあげるやつなんていない

「もうすぐ卒業だってのに先生残念だよ、先生は君たちのこと信用してたのに」

「・・・・」

少し同情心をくすぐってみたが生徒達はピクリともしない
そうきたか〜、よし分かった奥の手を使おう
早くも茂雄は奥の手を出そうとしていた

「よし!分かった!君たちにはいい思い出だけを残してこの小学校から羽ばたいてもらいたい!だから先生はもう追求はしない!いいな!
じゃあ授業を始め・・」

「先生!犯人を割り出してください!」

給食費を盗まれた田伏が潤んだ目で茂雄に訴えた
ほーら来た!それでいいんだ!よし!お前の悔しさ俺が全部背負ってやる

「そうか田伏、小さい時から一緒だった2人の1人に裏切られたことがよっぽど悔しいか!じゃあ本気で尋問に行くとしようか!」

安達、加部東この2人のどちらかが悪
茂雄はだいたい検討はついていた
狙いは安達ただ1人だ

「加部東お前の親何やってる?」
「島で海産業営んでます」
「そうだな!立派にやってるよな!安達、お前の親何やってる?」
「家でゴロゴロしています」

決まりだ!早くも終了だ

「お前だな」
「私じゃない!」
「お前しかいないんだよ!」
「私じゃない!」

あくまでもシラを切るきでいる

「加部東!お前のお母さん何やってる?」
「お父さんのお手伝いをして一緒に働いてます」
「そうだな!共同経営だな!立派だよ、安達お前のお母さん何やってる?」
「家でゴロゴロしてます!」
「お前しかいないんだよ!なんだ娘がいて2人とも家でゴロゴロしてるって!!」
「私がやったという証拠はあるんですか?」

随分と立派な講釈を垂れてきやがる
茂雄は適当に推測だけでものを言っていた

「ないけど!!続柄で合点がいくだろ!」
「それじゃあ論理性に欠けています!私が犯人という仮説と事実を、点と線で結びイコールになってからでないとただの脅迫罪になってしまいます!」

こいつは海に囲まれた大自然ですくすくと育ってきた感性をしていない、親2人がゴロゴロしている環境でどうしてこんな講釈が垂れられるのだろう

「私が犯人という仮説は何ですか?」

安達が茂雄を追い込んでくる

「・・・それは、働きもせず家でゴロゴロしているだけの親が2人いる」
「それじゃあ事実は?」
「それは・・・収入がないということだよ!」
「それじゃあ仮説と事実が点と線で結ばれません!」

こいつには海鳥の声を聞き、波が奏でるアルファーファでも聞き、花を愛で、感性を豊かにする必要があるようだ

「先生は私の親のこと知ってるんですか?」
「んー家庭訪問の時挨拶した程度だな」
「ほらー聞いたものだけを真実と思いその裏にある目を向けようともしない、あなたは軽薄だ!」
「お前はお魚さんいっぱいいるーとかの感性養えなかったのか!!」

子供に詰問され我ながら情けない反論だ
尚も安達の詰問は続く

「先生は私の家が貧乏だからと決めつけていますが、ある程度裕福な加部東くんが刺激が欲しくてやったとも考えられますがね」

撹乱してきた!この子供撹乱してきた!
こいつは将来立派な弁護士にでもなるだろう

「それに加部東くんは私たちに経営不振の話もしていました」

確かに!そんな話聞いたことある
茂雄は急に白羽の矢を加部東に向けた

「加部東!安達が言うように、刺激が欲しくてお前がやったという線は考えられないか?」
「加部東くんがそんなことするはずない!」
「そうだな!加部東がそんなことするはずないな!なんだお前は!何がしたいんだ!?」
「先生!!!盲点がひとつあります!!実は先生が給料日前に金欠で自分が盗ったという線も考えられますがね〜」

茂雄は頭が混乱してきで何が何だか分からなくなっている

「そうだな!その線も考えられるよな!そうだな実は先生が給食費を盗りました!」
「先生がそんなことするはずない!!」
「どうしたいんだお前は!!」
「さぁ先生!!この事件イコールは出ましたか?」
「・・・残念ながら迷宮入りだ!!」

茂雄は子供に困惑され自分をすっかり見失っていた

「田伏!今回の給食費は最初から持って無くて、お前の虚像が生んだ空事件ということにしとこう!・・・それじゃあ授業を始めるぞ!」

茂雄は気を取り直しいつも通り授業を始めようとした時、安達が席を立った

「私がやりました!私が給食費を盗みました!!」

はぁ〜〜〜〜〜!

茂雄は目眩で目の前が真っ白になった
なんだこの得体の知れない時間は、味わった事のない恐怖は
とんでもない怪物をこの島は生んでしまった
自然に囲まれすぎるのも良し悪しだ
後味の悪い時間だけが過ぎていった・・・

子供に困惑される教師