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無関係な人からの剥き出しの狂気と対峙する

 とても希有な体験をしたので、記憶の新しいうちに書き留めておきたい(身バレしないように、色々と文面や台詞等は変えています)。


 なにがどうなって、そうなったのか、さっぱり分からないというか、本当にまったくもって意味不明なのだが、ある国の事業に関する抗議先として私のデスクの電話番号がSNSに書き込まれた。

 なぜSNSの書き込みに気づいたかというと、エゴサーチを繰り返していたわけではなく、担当している別キャンパスの講義から疲れ果てて戻ってきたら事務の方に「○△□○▽□という団体から電話がかかってきていますが、先生はご存じですか?」と言われて、検索して事情が分かったのだ。事務員さんも事前に検索をしていたようで、「なんだかやばそうな団体ですが、大丈夫ですか?」と心配して下さる。そのうえで「対応方針が決まるまで「ご不在です」ということにしておきますね」と。いや、本当に有能すぎる。

 SNSの抗議内容や呼びかけを見る限り、ある国の事業と、私が事務局を担当している学会が「深く繋がっている」と曲解されたようだ。どういう情報処理が書き込んだ方の脳内で変換されたのか連想することが不可能で、私ごときの知識を駆使してもさっぱり分からない。事実無根で、その事業に私は一切の関わりはないし、その事業に関して学会でなんらかの公的な活動を行っているわけでもない(会員が個人的に関わっている可能性はもちろん否定出来ない)。だが「抗議はこちらへ、みなさん電話して!!!」として私のデスクの電話番号が晒されている。

 謎の脳内変換も恐ろしいのだが、SNSの書き込みからはもっと恐ろしい狂気を感じた。賛同する書き込み達のコメントからは剥き出しの狂気を感じた。さらに恐ろしいことに、その情報の真偽を誰も確かめようとしないのだ。疑問をもつという事が一切ないのだ。書き込んだ方は「リーダー」のようで、そのリーダーの書き込みを盲目的に信じている。自分で情報の真偽を確認するという行為を思いつきもしないのだろう。情報リテラシーというレベルではなく、情報の真偽に関する概念とか、そういう根本的な人として備わっているべき何かが欠落している。

 某SNSが活動の中心のようで、(アカウントとパスワードを発掘して)超ひさしぶりにログインしてコメントを追いかけると、「きっと金銭的なバックを受けているに違いない」という疑いの書き込みが行われ、やがてそれが真実へと変わっていく。すげー。そんな大きな事業で学会にお金が流れてきたら、うちの学会、もっとお金もってますよ(涙)。この物価高の煽りを受けて、会費を値上げせざるを得ないかも、って議論をしているのに「国からこっそりお金をもらっているに違いない」と書き込まれている。ここまでくると、怖いを通り越して、興味深いとさえ思う。

 彼らには敵が必要なんですよ、という誰だかの言葉が思い浮かぶ。そうやって敵を作ることで、自分たちの正義感や自尊心を保っているのだろう。学会などは、そういう自尊心を満たすには格好の的だろう。とにもかくにも、実際に電話がかかってきているので、対応を考えねばならない。


 まず学会に報告を入れた。理事長と執行部、それから事務業務を委託している業者だ。話合いの結果、明らかなデマなので今後にかかってきた電話は、相手に「録音させて頂きますね」と断りをいれたうえで、全て録音する。そのうえで、あまりに酷い内容や、凄い件数でかかってくる場合は委託会社の契約している弁護士に相談する。そのうえで内容次第では警察に相談しましょう、となった。

 次に職場だ。事務や○○の皆様には、私がいる場合は「電話がかかってきたら「共用電話なので、お取り次ぎします」、相手が何か抗議を始めても「私達はその学会とは無関係なので、良く分からない。その学会の担当をしている先生に聞いて下さい」とした。全て事実で嘘は一切ない。私が不在の場合は、名前と電話番号を尋ねてください、といつも通りの対応で行くことをお願いした。つまりだ。かかってきたら電話に出ようという作戦だ。

 最後に、該当するSNSの投稿に対してガイドライン違反の「報告」を入れた。私だけでなく、学会関係でアカウントを持っている人に依頼して複数の「報告」を入れた。だが、これは完全に無意味で数日後に全て却下された(却下されるであろうことは想定していたので、何とも思わないが、ここで「報告」をしておいた方が弁護士や警察に相談した際に良いだろうと思ったのだ)。


 そして、実際にかかってきた電話に出て思ったのは、

「話の通じる相手ではない」「こちらの話を聞くつもりなど、そもそも一切ない」「そして電話をかけてきている人間も、その事業に一切関係がない」

 ということだ。剥き出しの狂気を、無関係の人間が、無関係の人間に対して、一方的に投げつけるという地獄、だった。

 ・・・・凄い体験をしたなと思う。あの手の書き込みをする人というのが、どういう類いの人達なのか垣間見ることが出来たように思う。今後の人生で二度と関わりがないことを祈るが、名前は覚えたので、私はこの電話をかけたきた人達を、一生をかけて呪い続けるだろう。地獄草紙の鶏地獄にでも落ちることを祈るかな。いや、そんなのじゃぬるいか。もっと酷い地獄に落ちれと祈ろう。 

 彼ら(彼女ら)のご高説は、あまりに長く、そしてその内容はネットの知識を囓って寄せ集めたもので、あまりにも浅い薄っぺらな知識しか持ち合わせていなかった。さらに説明が論理的でなく、話が何度も前後して、同じ事を何度も言う。つまりは論理も説明も何もかもがダメで、これならうちの息子の方がまだきちんと説明するだろうな、とさえ思う程であった。ただ、うちの息子より声はデカかったな。無駄に声が大きくて、音割れして、受話器を遠ざけたりした。

 SNSをチェックすると電話して抗議したという報告があがっていた。ヒーローの誕生である。吐き気がするなと思いながら、SNSをチェックして、警察に提出するためのスクリーンショットを撮っていた。しかしだ、やがて、ピタリと抗議の電話は止まった。というのも、SNSに別の一件が書き込まれ、全員の興味はそちらに映ったのだ。そちらにも抗議の電話番号が書かれている。あぁ、終わったなという感じだった。

 常に新しい刺激をリーダーは用意しなければならないのだろう。こうやって狂信的な団体というのは維持されているのか、と学んだ。リーダーは敵を用意する。信者はその敵を攻撃することで自尊心を満たすだけでなく、その戦果をSNSで報告することで地位をあげていく(もしくは、その報告を他の信者から褒められることで、さらに自尊心を満たすのか)。そんな風に狂信的な団体は維持されているのだろう。・・・・そんな気づき、一生いらなかったけど。 


 嵐のような○○日間が過ぎ去った結果、私は最終的に弁護士にも警察にも相談をしなかった。録音はあるし、スクリーンショットもとってあるし、とんでもない言葉を投げられたし、かなり精神的に参ったし、鶏地獄より酷い地獄に落ちてしまえ、とnoteに欠いてしまう程には病んだ。でも、これ以上相手をする時間が勿体ないように思ったのだ。ただ、今後のために、下記を記して残しておきたい。もしかすると、誰かの役に立つかも知れない。

1)リーダーは電話をかけてこない
 煽るだけ煽るが、リーダーは自らは電話をしてこなかった。役割がちがうのだろう。ロールプレイングなのだ。我々のような小物の時に登場してはいかんのだろう。出る時に出るのが大事なのだろう(そのまま、一生出てこない気もするけれど)。

2)電話先が大学だと思ってなかったようだ
 電話に出る際には、もちろん大学名と部署名を名乗るが、かなりの確立で大学だとは思わなかったようだ。私が承りましょうか?、というと安心したのか堰を切ったようにしゃべり出す。たぶん、学会がどういう組織なのか、どういう風に運営されているのか分かってないのだろう。あとは行政だと思い込んで電話してきたのもいた。○○省じゃねーよ、ここは、と心の中で何度も思う。ある電話はずっと○○省への文句を言い続けるので「ここは大学なので、○○省のことは○○省にお電話して下さいませんか?」といったら、暫く無言が続いたうえにガチャ切りされた。恐らく事前に用意したストーリーから外れてしまったのだろう(そこで電話を切るだけ、この人はマシだった)。

3)SNSに上がる報告数と、実際にかかってくる電話の数が違う
 これは、なんとなくそうだろうな、と納得してしまうのだが、電話をしていないのに「電話した!抗議した!」と報告するのが一定数いる模様だ。まぁ、そういうもんなんだろう。士気を高めるための儀式みたいなものかもしれない。

4)録音されていることを想定して、こちら側の言葉数を少なくする対応を決めていたが、あまりその必要がなかった
 こちらも録音するが、当然だけれども向こうも録音しているだろうと思っていた。録音音声がSNSに流されるであろうことを想定して、受け答えは極力少なく、なおかつ「誘いに乗らない」「笑い声は一切ださない」「本学会はその件と関係がない、ということ以外はなるべく喋らない」という方針で対応した。心がすり切れるかなと思ったが、実際には向こうが一方的に喋る(or 罵る)だけで、あまり受け答えが必要なかった。そもそもが、言葉のキャッチボールが出来る類いの人達ではなさそうだった。これは、今回の狂団体がたまたま「そういう系の人達」だったので救われただけかもしれない。言葉巧みに詐欺師のように、こちらの言説を取り出そうというのも居るだろう。なので、ラッキーだったな、とは思う。


 結果的に、対応を決めていくなかで一番心強かったのは委託業務の会社の方の「何か言われたらすぐに弊社契約の弁護士に相談しますので録音して下さい(もちろん費用はかかります)」だったなと思う。なんだろう、「警察に相談しましょう」よりも、よっぽど安心感があったかな。警察にこの手のことを相談しても動いてくれないだろうなと思っていたので、恐怖を感じていた状態から「証拠集めをしよう」と心がスイッチしたと思う。ネット事案に対する警察の頼りなさか、実害が起きないと何も動かない組織に対する絶大な固定観念か。

 とにもかくにも、こんなのは二度とゴメンだが、何かの役にたつかもしれないので、ここに記録として残して成仏させたい。無関係な私に対して、無関係な立場から呪いの言葉を吐いた、ノイジーマイノリティ達が鶏地獄より酷い地獄に落ちますようにと願いながら、記録を終えたい。

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