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ケーキにはフォークがふたつ

私には季節感というものがない。
暖かくなってきたと感じると薄着になり、寒くなってきたら厚着になる。
いや、桜を見ると新鮮な気持ちになるし、生い茂った緑を見ると蝉の鳴き声が聞こえてくる。金木犀が香ってきたら紅葉が美しくなるし、雪がしんしん降ればこたつに潜りたくもなる。
もちろん日本に生まれて春夏秋冬を感じないことはない。しかし、季節に関するイベントに積極的に参加してこなかったからか、今思えば、淡々と目の前にある日常を生きてきたんだろうなと実感する。

「フォークはふたつつけておきますね。」
手に持ったスマホにはpaypayの決済バーコードの画面がある。
何となくだった。苺のショートケーキとチョコケーキがひとつずつ食べたかった。一人で食べるとは言わずかわしていたところに店員さんが言ってきた。
「チキンはふたつ買うと割引になりますがいかがいたしますか?」
私はチキンを頼んでいたので、おすすめされたのだろうが、そんなに食べれないので断った。
飲み物ふたつ、ケーキもふたつ、チキンはひとつ買って店を出た。

少し酔いながら帰ってきた私はケーキをふたつ貪り食っていた。
ふと思ったけど、そういえば今日が12/23だったからからかなぁ。今年のクリスマス12/25は平日で、23,24が土日になっている。世の中ではこの二日間がクリスマスになるだろう。飲み物ふたつ、ケーキもふたつ、ならチキンもふたつ買うでしょう、まさか全てあなたが食べるわけないでしょう、とでも思われたのだろうか。

クリスマスには家族や友人、恋人と過ごすことが通例になってきているから、店員さんが気を遣ってくれたのかもしれない。買い物かごにはふたつずつ入ってるんだからシェアするんでしょうって。しかし、まさかの食いしん坊だったとはそんなこと恥ずかしくて言えない。
確かに、初対面の人に何の前触れもなくマイナスなことは言えないだろう。フォークはひとつでいいですね?とか。別にマイナスとか失礼な言葉でも無いけど、受け取り方によっては失礼に値するかもしれない。それか、生クリームとチョコだから、味が混ざるのが嫌な人用に配慮があったフォークだったのかもしれない。

ケーキにはフォークがふたつ。クリスマスを感じた。
季節感がない私でも、もしかしたらで様々なことを考えることが出来る。夏に海へ行かなくても、冬にクリスマスマーケットに行かなくても。

来年の春はお花見をしようかな。

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