気まぐれショートショート 社会科見学(ツノがある東館より)

「どうして西館には角がないんですか」
私が知りたい。

東館に角が生えたのは、私が広報部に配属されて間もなくのこと。
13階の南側壁面から、嫌でも目に付くほどの大きさの反り立つ角が生えた。
突然のことに誰も言葉が出なかった。

連日マスコミに囲まれた。
やがて、国交省の役人連中がすっ飛んできた。
建築基準法に関して数カ月にわたる調査が行われた。
しばらくすると、本社付近に住んでいる住民から
日当たりが悪くなったとクレームが来た。

そうして一連の角事件の対応に追われ
ようやく本来の業務に戻りつつあった最中の
社会科見学に来た子供の一言に
私含め社員一同、最後の心の糸をバッサリ切られたのである。

「部長、お話があります」
その言葉にもはや隠す動揺もないかという溜息とともに、
会議室に手招きされた。
ドアを閉めるなり、間髪入れずに部長から切り出す。

「君も退職の口なら、まず」
「部長、そうではなく。どうしたら西館にも角生えますかね?」
「お前、明日は休め」

(410文字)


先週は全くアイデアが出せずギブアップでした。すみません。

私が小さい頃、アシンメトリー(左右非対称)の概念がなく、アンバランスな気持ちが悪いものという感覚しかなかったのです。
大人になってから敢えてバランスを崩すという遊び心を知るわけでして、おそらくこの子供も、「東館にあるのだから西館にもあってしかるべき」という純粋な疑問だったのでしょうが、「逆や逆、無い方が普通やねん!」と突っ込むわけにもいきませんしね。大人って大変。

さて、何の話でしたっけか?

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