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【気まぐれショートショート】顔自動販売機

夜行バスもトラックも見かけない不気味で静かな高速を走っていた。
ふと目の間に深夜のサービスエリアの案内が見えた。と言っても、フードコートがあるようなメインのそれらの合間にあるせいぜいトイレと電話ボックスくらいしかない簡素なものである。

喉が渇いていた私は、車を止め、自販機のあかりを頼りに一歩また一歩歩み寄る。だがどうしたことだ、そこには「顔自動販売機」と書いてある。

がっかりしたものの、どうにもネーミングが気になってボタンを押した。普通の自販機と同じく缶が落ちてきた。開けるや否や中から煙が立ち込めてきた。

視界が煙に遮られたのも束の間、両親、祖父母、妻、子供、小学校の先生、初恋の同級生、目の前に懐かしい顔が次々と現れるではないか。

やがて煙は四散し、もとのサービスエリアが見えてきた。
私は気になって空になった缶の側面に書いてある成分表を見てしまった。
「主成分 走馬灯」
そうか、私はもうこの世にはいないのか。

(401字)


今週はなかなかに難しいお題でした。

企画概要はこちらから。いつもお世話になっております。

https://note.com/tarahakani/n/n2e51ecd051d9


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