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運動部とライチ☆光クラブ

意外に思われるかもしれないが、僕は高校生の頃ゴリゴリの運動部に所属していた。
僕はとても頭が悪かったため、偏差値が40前半の高校しか受かることが出来なかった。そんな環境の中で勉強も頑張らない、何も打ち込むことがない、そんな状況では、僕のような人間は堕落していく一方になってしまうのではないか?そのような考えのもと、その学校で一番活動が厳しかった、バレーボール部に僕は入部することを決めた。特段バレーボールが好きだったわけでもないし、運動も好きか嫌いかで言ったら嫌いな方なのだが、「誰かに管理されないとサボってしまうもんな…」「どうせやるなら中途半端ではない所でやろう…」そのような思いで僕は入部を決意するのだが、この時、自分がしたこの選択が良くも悪くも僕という、ひねくれた人間の人格を作り出してしまった大きな要因の一つになってしまったと考えている。

その部活は今ではかなり珍しいほどの軍国主義的なスタイルで、絶対的指導者である顧問の言う事を絶対に聞かなければいけない、楯突いてはいけないというスタイルの超スパルタ教育で、今現在、筋肉を痛めるだけで意味がないのでしてはいけないと言われている、うさぎ跳びを何か失敗する事にやらされていたし、強制的に坊主にさせられるし、夏服から冬服に変えるタイミングは部員全員で揃えなければいけないし、昼休みは同じ部活の生徒とご飯を食べなければいけないし、炭酸を飲んではいけないし、同じ服を着なければいけないし、恋愛をしてはいけないし、他にもルールが色々あるのだが、一言で言えば異常に気持ち悪い部活であった。

入部してから1ヶ月ほどは、ゲストのような扱いを受け、優しく扱われるのだが、それを超えると顧問の思想を刷り込むような人格矯正的な指導を受けるようになる。事あるごとに「お前の考えは甘い」とか、「社会に出たらやっていけない」などの人格否定をされる。そして一通り人格を否定した後に自分の考えを言わされる。しかし、ここでも考えを否定されてしまう。そして、顧問が望む答えが出るまで回答をさせられ、その答えが出た時に「そうだろう?お前もそう思うだろ?」みたいな事を言われる、自分が導き出した答えのように感じるので、「そうか!!これが答えなのか!!」と思ってしまうのだが、これは誘導されているに過ぎない、ただその当時の僕たちは、その顧問に誘導された意見を自分が導き出した意見のように感じていたし、その世界の中で、その考えが正しいと刷り込まれていたのだった。

思うに僕が通っていた高校は偏差値が低かったため、自主的に物事を考えられるような人間が少なかった。スポーツの強い高校は偏差値の高い高校が多い傾向にあるが、これは自主的に考えたり、効率の良い練習を自分の中で考えて動くことが出来るので、技能の習得が頭の悪い人間に比べて早いのだろう。だが僕たちはその能力にかけている。ならばいっその事、個性を伸ばすより、個性を均一化したほうが強いチームを作ることが出来るであろう。
顧問がこの学校で指導をしていく中で、このような結論にいたり最適化をした結果、この指導方法に行き着いたのかな?とも考えたが、この人がそんな事考えれるような知的な人物であるとも思えなかったので、未だに真相は分からない。

先ほども書いた通り、僕たちの部活は恋愛が禁止されていた。共学ではあったが、休み時間や放課後はほとんど同じ部活の人間と関わっていたため、僕たちは女性に対して飢えていたのだった。

高校一年生の時、大会が近かったためか、練習終わりに僕たちは顧問の指示の元マッサージを行った。
僕は3年生の先輩とペアを組まされ、股関節マッサージを行った。その先輩は身長188cmの高身長で中学生の時はメンズモデルをしていた経験もある、フィリピンハーフの顔立ちの整った人物だった。
僕がその先輩に股関節マッサージをされていると、先輩が僕の顔をジッと見つめてきて、こう言った。
「お前って、結構可愛い顔してんだな…」と
「え?」と僕が聞き返すと
先輩は僕の股間を思いっきり、揉みしだいてきたのだ。
「え?」と困惑する僕に先輩は微笑みながら「冗談だよ」
と言ってきたが、多分あれは冗談ではなかった。

絶対に社会に出たら女性に困ることがないであろう先輩が、女性の代用品として、顔面土砂崩れを求める世界線、抑圧されると人はこうなってしまうのだなと感じた。
この出来事が起こって、僕が唯一良かったことは、このエピソードをVTuberの鈴鹿詩子さんのBL体験談募集に匿名で送った所、配信で取り上げられ、とても盛り上がったという点である。僕の人生で他人が笑顔になってくれるのならば、これに越したことはない、あの時の僕も浮かばれるというものである。

少し脱線してしまったが、話を高校生の頃に戻す。
このような厳しい部活をしている中で、僕の唯一の心の癒やしは漫画であった。
部活は週7であったため、忙しい毎日ではあったが、頭の悪い学校だったので、幸いなことに勉強をする時間を作る必要がなく、普通の高校生が勉強にあてる時間を、僕は漫画を読むことに使うことが出来た。僕は別のトピックでも書いたが、中学生の頃に『ジョジョの奇妙な冒険』を読んだことから漫画にドハマリし、高校生になったらたくさんの漫画を読もうと考えていた。
そこで、いろいろな漫画を本屋で購入しては読むようになっていた、『魔人探偵脳噛ネウロ』『校舎のうらには天使が埋められている』『テラフォーマーズ』『帝一の國』おそらく僕が自分の小遣いで最初に買った漫画はこの4作品だったと思う。
僕はこの中で特に『帝一の國』に衝撃を受けた。ネットで知り合った漫画好きの人に面白いですよと言われて薦められたものの、今まで読んできた漫画のテイストと違い、あまり期待していなかったのだが、その予想を遥かに上回る内容の面白さに脱帽し、「この作者の他の作品も読んでみよう」と思い『帝一の國』の作者である「古屋兎丸」先生のWikipediaを覗いてみた。すると『ライチ☆光クラブ』という作品がこの人の代表作であるという事が分かったのだった。

「この『ライチ☆光クラブ』という作品を読んでみたい…」僕は近くの本屋に急いで買いに行った。
近所の本屋の「その他」と書かれた一番奥の本棚、そこに『ライチ☆光クラブ』は置かれていた。
「随分奥まった所にあるんだな…」そんな事を思いながら1冊1300円ほどする、当時の僕にとっては大金を出して、『ライチ☆光クラブ』を僕は購入し家に帰って読んだ。

「なんだこの漫画…」僕は衝撃を受けた。『帝一の國』とはまた違った独特な世界観、グロテスクな描写のオンパレードで今まで僕が読んできた少年漫画とは一線を画すようなストーリーと内容に僕は面食らってしまったが、途中で「あれ?これって俺達じゃん…」そう思った。

この漫画の内容をザックリ説明すると、中学2年生の男の子9人が、世界征服をするための殺戮ロボットを作っていく中で、絶対的指導者であるゼラという少年の言う事を聞くのだが、段々と疑心暗鬼になっていき、殺し合いを初めてしまうという内容である。

軍国主義的な価値観や指導者の言う事は絶対であるという点、指導者に立場の近い人間が自分よりも階級の低い人間に偉そうにするところなど、僕たちの部活では『ライチ☆光クラブ』で行われるような出来事が起こっているのだと、客観的に見て、自分たちがこのような異常な状態にあるという事を捉えることが出来たのだ。
殺し合うまではいかなかったが、普通に流血沙汰にはなったこともあったため、結構極限状態ではあったような気がしている。

僕は部活を辛いと思いつつ、辞める勇気が無かったため、辞めることは結局3年間無かったが、『ライチ☆光クラブ』を読んだことで「この世には僕の知らない漫画がたくさんある!もっと漫画を読みたい!」とたくさんの漫画を購入しだした。すると漫画を購入する金がなくなってしまったので、「お金を稼がなければ!」と考えた僕は当時LINEがやっていたLINE QというYahoo知恵袋のようなサービスでひたすら漫画の質問に答え続け、そのポイントを換金して漫画を買い続けた。部活が忙しすぎてバイトが出来なかったため、電車で通学している際に出来る、スマホで金を稼ぐという方法しか選択肢がなかったのだ。

休み時間と通学中にスマホで漫画の質問や漫画の紹介記事を書き、朝と放課後に部活をし、家に帰って漫画を読む変な高校生活をしばらく送りながら、ほぼ漫画と部活に時間を支配された学生生活を送っていた。

この時の僕は男子バレーボール部の新沼くんというような扱いで見られることが多く、よく部活とは関係のない先生から褒められるような事が多かった。だが決まって褒められる際は「坊主で活気があってドアも開けてくれて凄く態度が良い」みたいな事を言われるのだ。
凄く気持ち悪いなと正直感じていた「この人はサーカスで殴られながら調教された動物の芸を見て感動するタイプの人間なんだろうな…この人は僕個人を見ているんじゃなくて、男子バレーボール部という肩書でしか見ていないのだ、このドアを開けて待ってくれるというような事だって、指導の賜物としか思っていないんだろうけど、それってこの異常な環境をアナタも肯定しているってことでしょ?」みたいに考えていたので、だいぶあの時は捻くれていたし、今でも浅はかな人だったなと思っている。

だが唯一、僕を男子バレーボール部という肩書ではなく、個人で見てくれた先生がいた。その先生は高校に通わずに高卒認定試験を受け大学に合格をし、教員になった変わった経歴の先生だった。先生としては正直チャラチャラしていたし、問題のあるような発言は結構していたし、めちゃくちゃいい先生というわけではなかったと思うけど、その先生は僕が漫画を詳しいことを知ると、色々とその話を聞いてくれた、茶化すわけでもなく真剣に聞いてくれたし、僕が漫画を買うお金をスマホを使って捻出していることは、その先生にだけ伝えたのだが「凄いじゃん、え?それ凄くね?」と褒めてくれた。
男子バレーボール部の新沼くんという色眼鏡で見ないで、僕の事を接してくれたあの先生がいたから今僕はこうして個性的に生きて行けているし、自分の人生において初めて自分自身を評価してくれた瞬間だと感じている、先生は僕が卒業した時に、「アイツなんか将来的に大物になりそうな気がしたんだよな…サイン貰っとけばよかったかもな」と言っていたというのを卒業して1ヶ月後に聞いた。今のところまだまだ人に自慢できるような人間ではないが、先生がもう少し自慢できるような人間になれるよう活動を頑張りたいなと思っている。

あの時、『ライチ☆光クラブ』に出会っていたおかげで、僕の人生はいい方向に向かっていったのだと思う。『ライチ☆光クラブ』に出会っていない僕の人生は今とは違うものになっていたかもしれない、それかその世界線の僕にとっての『ライチ☆光クラブ』に出会って、同じ人生になっていたかもしれない、真相はわからないが、僕は高校一年生の時、一番仲が良かったが、その部活の洗脳教育に染まっていた先輩の誕生日プレゼントに『ライチ☆光クラブ』を渡した。
すると後日「嫌がらせ?」と言われてしまった。僕は『ライチ☆光クラブ』に救われたが、救われない人もいるようなので、タイミングなのかもしれないなと感じた瞬間だった。

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