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働きながら法政大学大学院キャリアデザイン学研究科に通って、実際どうだったか?

本文章の目的は、社会人大学院への入学を検討されている方への参考となることと、自分の中での考えの整理です。
詳細について質問やリクエストがございましたらコメントを頂けますと幸いです。
拙い文章になりますが、よろしくお願いいたします。



序章:自己紹介+本文の概要

※通学しての所感は第三章に記載してます。
そちらのみに興味がある方は第三章まで飛んでください。

初めまして、古川遼と申します。
まず文章の始めとして、簡単な自分の経歴を紹介させてください。

・2019年3月に京都大学総合人間学部を卒業
・2019年4月にソフトバンク株式会社(以後SB)に入社
- グループ人事という人事ガバナンスを主業務とする担当者として勤務
・2020年から、NPO法人どーもワークに協力させていただきながら、吃音の方に対する就労支援やコーチングを行う(自分が吃音を持っているバックグラウンドから)
・2022年10月にコーンフェリージャパン株式会社(人事コンサル)に転職
- 報酬制度メインのコンサルタントとして活動

そんな私ですが、2021年4月〜2023年3月の期間に法政大学大学院キャリアデザイン学研究科に通いましたので、そこで得たもの、失敗したこと、考えたことなどをつらつらと記述していきます。

第一章:入学の理由

※ストーリーを理解いただきやすいように個人的な話を記載しております。
興味がない方は第二章まで飛ばしてください。

まず入学の理由ですが、大きく以下の3点になります。
①海外の大学院に行きたかったが、大学時のGPAが足りず、成績をロンダリングする必要があったため。
②人事として会社、社会に貢献していく新しい方法を発見するため。
③コーチングやキャリア支援の型や理論をより理解するため。

それぞれの詳細を簡単にお伝えできればと思います。
少し遠回りしますが、私自身が吃音者であることから、「吃音者が生きやすい社会を作る」ということをライフテーマに、日々活動しております。
そのテーマを叶えるための一つのステップとして、イギリスの大学院で障害学を勉強したかったというところがあります。
しかし、大学時代に遊び呆けていた私の成績では、まずGPAで足切りをされてしまい。。。
そのことをSBの際の上司に相談したところ、働きながら日本の大学院で勉強するのはどうなのか?という提案を頂き、恥ずかしながら目から鱗でした。障害学の勉強は読書ベースでやっていたのみだったので、確かにまずは日本語で勉強した方がいいと120%納得し、日本で大学院を探し出しました。

そんな中、自分の興味に関連する日本の社会人大学院を探すと、他に早稲田大学院の社会科学研究科、筑波大学院カウンセリング学位プログラム等がありました。
しかしこれらの大学院は、すでに出願の締め切りが過ぎており、間に合わなかったというのが現実です。
法政は後期の募集などもあり、募集期間に余裕があったので個人的にとても助かりました。

法政の中でもキャリアデザインに決めた理由として、②③があります。
②については、本業の人事としての仕事の中で、人事としてのスキルや専門性を若くから身に着け、発揮するためには、仕事上の経験と並行してアカデミックな知識や知見を身につけることが自分の特性を鑑みても合っていると感じました。

③については、CoachAの資格やキャリアコンサルタントの国家資格は取ったものの、コーチングやキャリアカウンセリングは独自のものを実施していたので、自分のスキルアップと信頼性の担保を考えていました。
また、この②と③を同時に満たすことができるのは、ビジネスも教育も包含しているキャリアデザイン学科だと考え、進学することを決意しました。

入学試験としては、書類審査+面接の選考を突破し、無事入学できることになりました。
(もし入学試験/準備の部分が気になる人がいらっしゃれば、コメント/Facebookのメッセージをいただければ可能な限り回答します。)

第二章:通学のイメージ

※大学院を検討されている方に、より大学院生活をイメージしていただくための章です。
既にイメージが付いている方は飛ばしていただいて問題無いです。

①大学院生活のイメージ

まず、私の単位取得結果ですが、2年間で合計54単位を取得しました。
本当は30単位取得で良かったのですが、折角行ってるからにはとできる限り多く取りました。(それでも後2個くらい取りたかった授業はありますが)
修論や修論指導の単位を抜くと、15個の授業を受け、半期で3~4の授業を平日夜と、土曜日曜で取るという生活でした。
平日夜の授業は18:30~22:00で、オンラインの授業が多く、時間きっちりに行われる授業が多かったです。
ですので、授業後は軽く復習し、ご飯を食べ、お風呂に入り、寝るだけという感じで、他の平日や土日もほとんどの授業で出る課題と、予習復習に費やすといったスケジュールでした。
特に期末などのレポートが重なった時期は本当にやらないといけないことだらけで、目の前が真っ暗になったのを覚えています。
自分で望んだとはいえ、20代のこの元気な時期にもっと遊びたいという思いを正直我慢しながら机に向かっていました。(音楽が好きなのですが、フェス、ライブに行けないのが一番地獄でした)

一方で、この生活を乗り越えることができたのは、私が通っていた2021〜2022年はコロナ禍で、8割の授業がオンラインでの実施だったことと、一人暮らしで自分のみに時間を使うことができたことが大きかったと思います。
通学が無かったのは本当に有難く、休憩時間10分で夜ごはんを食べれたのも時間の有効活用ができた要因です。
また、子育てや介護をされながら通われている同級生、知人もいたのですが、本当に頭が上がりません。

②授業内容

次に授業の内容ですが、キャリアデザイン学科の授業は大きく基礎科目、ビジネスキャリアプログラム科目、キャリア教育発達プログラム科目、共通科目の4つに分かれます。
それぞれ大体以下のイメージです。

・基礎科目:調査方法などの研究を進めるために必要な基礎を学ぶ科目群
・ビジネスキャリアプログラム:組織マネジメントや人的資源管理、キャリア開発などの経営やビジネスに直結することを学ぶ科目群
・キャリア教育発達プログラム:キャリア理論や学校におけるキャリア教育など、キャリア発達の過程や教育に係ることを学ぶ科目群
・共通科目:上記2つにまたがるような科目群

私はビジネスもキャリア教育も両方に興味があったので、満遍なく取るようにしましたが、人によってはビジネスだけ取ったりといった形で興味に合わせて自由に選択することができます。
(イメージとして、ビジネスキャリアプログラムはビジネス上の、キャリア教育発達プログラムはビジネス以外(就職前や私生活、または人生全体)を対象とする感じです。)
個人的には、このビジネスとそれ以外の両方を学べるということがキャリアデザイン研究科の強みだと思います。
私はキャリア教育発達プログラムにおいて、マージナル大学や若年ホームレス、ジェンダーの捉え方など、本当に今まで考えたこともなかったような切り口から様々な議論をすることができ、自分の考え方、価値観が変わったように思います。

具体的な科目は以下のシラバスをお読みいただく方が分かりやすいと思いますので、URLを載せておきます。
(各大学はこういった形で HP上にシラバスを掲載しています。
どんな授業が誰によって行われるのか?はとても重要ですので、大学院進学を検討される際は一読されることをお勧めします。)

第三章:良かったこと、残念だったこと

最後に実際の通学してみての所感をお伝えします。
ここでは、良かったこと、残念だったことの詳細を記述していきます。

■良かったこと

書き切れないくらい多いのですが、ここではその中でも特に大きな3点に絞ってお伝えします。

良かったこと①:アカデミックな考え方が身に付いた

何を当たり前のことを言ってるねん、と思われる方が多いと思いますが、個人的にこの当たり前のことが一番大きな収穫です。
"アカデミックな考え方"という垢が付いた言い方をしていますが、これは日頃ビジネス的な思考方法(なるべく最短で、無駄無く、目標をスマートに達成するための思考方法)とは全くものです。
私が今回身につけた"アカデミックな考え方"を3つの要素に分解して整理します。

1.前提に対して疑問を持ち続けること
授業においても、修論指導においてもいつも言われ続けたのが、

「なぜそれが問題だと言えるのか?」
「なぜその対処法で問題が解決できるのか?」
「なぜその状態になると、その問題は解決できたと言えるのか?」

といった前提を問い直すような質問です。
この上記の質問は答えるのがとても難しいのですが、特に論文指導では、これを一対一で問い詰められ、答えになっていない答えを吐き続けるような環境でした。
(法政のキャリアデザインは原則修論生1人に付き、1人の担当教員がついてくださるので、とても贅沢だと思います。)
ここまで自分の設定した前提を問い直される機会は実生活ではなかなか無いと思います。
特にこの前提を問い直す考え方は、スピードが重視されるビジネスでは見落とされがちではないでしょうか?
ビジネスではスピードが重要ですが、少しづつ正しいものを積み上げていくアカデミックではスピード以上に正確性重要視されると思います。
ビジネスでは中々身につかないような、前提を問い直す質問を繰り返し、正しいものを少しつづ積み上げていく思考を経験できたことは、自分の思考の幅が広がった感覚があったため、良かったことの一つとして挙げました。

2.先人のしてきたことを振り返り、明確にされていないものを探すという思考の流れ
主に論文を書く時に痛感したものです。
論文は先行研究でされてきた膨大な研究を踏まえた上で、そこで明確にされてこなかった点を発見、批判し、明確にすることで社会を前進させるものだと私は思っています。
当たり前ですが、そこには先人達へのリスペクトが根底にあります。
論文を書く際には、リスペクトを持ちながら、先人達の行った研究を読み込み、繋ぎ合わせるような先行研究の検討という作業が非常に重要です。
先行研究を参照することで、自分のしたかったことがクリアになっていき、それが一つの論文のテーマとなる問いに結びついていきます。
このプロセスにあるような、先人を振り返るという行為は、常に将来のことを考え、前を向くビジネスでは重要視されてこなかった考え方だと思います。
これまでに先人がしてきた事を振り返り、そこに足りなかったものを考え、「なぜ足りなかったのか?」「自分はどうすればできるのか?」から始まる思考の流れを実際に経験できたのはビジネス上でも新しいアプローチの手法に繋がるのでは、と言った点から良かったと思います。
また、この時にも「なぜ先行研究ではされてこなかったのか?」「研究されていないことでどういった意義が損なわれているのか?」「なぜ自分の研究ではそれができるのか?」と言った質問は常に投げかけられます。
そういった質問に回答しながら、自分のしたいことを先人の知恵を借りながらより明確にしていく作業は正直とてもキツく、全く思考が進まない時も多々ありました。
しかし、そういった作業を続ける中で、時々恩寵のようなひらめきが生まれます。
その瞬間を味わうことができ、学問の楽しさに気がつくことができたことも良かったポイントだと思います。

3.言葉の定義を明確にすること
アカデミックな考え方の最後ですが、学問では言葉の定義にとてもこだわります。
それは学問が正確に紡ぎ紡がれないといけないものだからです。
自分が使っている言葉の定義が曖昧だと、その研究を参考にする次の人がその文章、引いては研究自体の意図するところを理解できず、研究の方向がズレる、間違えた結論を導き出す可能性があります。
なので、学問では「この言葉は何を意味しているのか?」に徹底的にこだわります。
私は「就労を通じた「吃音フリーな世界」の実現-吃音者のライフストーリーから読み解くそのプロセス-」という題名で論文を書いたのですが、その中で「苦悩」か「苦しみ」、「影響」か「作用」どっちの方が適切なのか?など、本当に色々突っ込まれた記憶があります。
自分が当然のように使っている言葉であっても、その受け取り方は人によって様々な可能性があります。
また、定義しないことにより、ミスリーディングや誤解を引き起こす恐れもあります。
自分の使っている言葉とそこにある前提としての意味を見直す習慣が付いたことは、適切なコミュニケーションを行うといった観点からもメリットがあったと思います。

他にも学問を集中的に学ぶことによって得ることができたアカデミックな知はまだまだあると思いますが、一旦ここまでとします。

良かったこと②:研究をできたこと

これも当たり前のことかもしれませんが、自分が長年持っていた疑問を明確にする研究活動ができ、一つの論文として形にまとめることができたことは人生の宝になったと思います。
元々吃音を持ったまま就労を始めた自分は、「こんなにも働きづらいのに、他の吃音の方はどうしているんだろう?」と言った疑問を常に持っていました。
しかし、それを吃音者の友達に聞いても、隠しながらやっているとか、それっぽい答えをされるだけで、なかなか自分としての結論を持つまでには至ることができていない状態でした。
しかし、今回修士論文を書くということを通して、そこに対してある一定の結論(しかも自分が想定していなかったような結論)を出すことができました。
この自分が疑問を持ったことを明確にしていくという行為を自発的にできたことは、自信にも繋がりますし、他の疑問を解消する時にも役立つと思います。(もちろん教授のご指導のお陰様ですが。)
なかなか修士論文を書くなどの目的がない状態で、自分の常に持っている疑問を自ら明確にしていくことは難しいのではないでしょうか。
そういったどうしても解消したい疑問を持たれた際は、社会人大学院の入学を検討されても良いと思います。

良かったこと③:キャリアカウンセリングの型や理論を理解できたこと

先ほど先人達の知恵という話をしましたが、やはり学問的な理論や知を実践者でもあり、第一線の研究者でもある先生方から学ぶことができたのはとても有意義でした。
コーチングやキャリアカウンセリングという対人関係の仕事は対人関係であるが故に、学ばれた理論がおざなりにされがちな感覚があります。(理論はいくつもありますので、あくまで自分が持っていた感覚です。)
しかし、これも対人であるが故に、コーチやカウンセリングを行う人がどれくらいの引き出しを持っているのか、またそれを裏付ける自信があるかというところは非常に重要であり、そこをキャリアデザインの授業では補強できたように感じています。
キャリアデザインの授業のいくつかでは、理論を学びながら実際にキャリアカウンセリングのロープレをしたりする授業が多くあります。
また、キャリアカウンセリングのプロの方が同級生にいらしゃったりもしました。
そういった環境下で、自分のカウンセリングやコーチングの技法を問い直し、新たにアップデートすることができたのは、自分のコーチ/カウンセラー人生において非常に有意義であったと考えます。

また、ここではキャリアに関する知の話を中心にしましたが、キャリアカウンセリング以外にも学ぶことができた知はたくさんあります。
それは、教育学、政治学、社会学、文化人類学など多岐に渡ります。
自分の知らなかった領域をこれだけ学ぶことができ、新たな視点で世界を見ることができるようになったのはキャリアデザイン学科だったからだと思います。

■残念だったこと

これは自分の中で反省すべき点なのですが、忙しさを理由に中途半端に授業や課題をこなしてしまっていた時期があったことです。
もちろん修士論文は本気で書きましたし、あれ以上のものは作れなかったと思いますが、時々の授業や課題の中には、仕事が忙しいからなど理由を付けて中途半端に終わってしまっていたものもあります。
学問が本分ではないので、仕事を言い訳に逃げやすい環境にあるというのが社会人大学院の難しいところだと思います。
しかし、それでも本気で自分と向き合い、自分の限界を超えることができるのが社会人大学院という環境です。
そう言った意味で、自分の限界を本当に超えることができたのか?というところで満点を付けれないのが個人的に残念だったところです。

■最後に:全体的な所感

最後ですが、本当に心から通って良かったなと思っています。
お金は200万弱くらいかかりましたが、サンクコストとかでは無く、心から通って良かったと思うことができています。
実際、大学院での学びや経験を通じて、新しく転職をすることもできました。
しかし、そんな実社会でのメリットよりも、大学院で学んだことや様々な人との交流を通して、世界を視る視点が増えた、そんな感覚を持つことができたことが、一番大きな得たものだと思います。
これからはまずはこの2年間を咀嚼しつつ、新しい仕事も頑張りつつ、仕事でもプライベートでも色んな挑戦をしていければと思っています。

もしご相談や質問、感想等があれば、以下が私のFacebookになっておりますので、いつでもご連絡をいただければと思います。
(個人でもコーチングをしておりますので、受けたい方は以下FBより申込いただけますと幸いです。)


最後に改めて、大学院生活を支えてくれた家族、友人、会社の同僚、先輩後輩、大学院の先生の皆様、研究協力者の皆様、本当にありがとうございました。
何卒引き続きよろしくお願いいたします!!

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