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今日から酒が出せるんですけれど

緊急事態何やらとか、マンボーとか。ようやく解除でお店で酒が飲める日がやってきたんですが、そこで色々耳にするのが

「残ってたお酒はもう飲めない。出せない。」という飲食店主の皆さんの声。結論から言うと

「出して下さい。」酒蔵・酒屋からのお願いです。

まず前回もそうでした。きんきゅう事態宣言が明けたらそれまで残ってた酒はもう出せない。と焼酎まで捨ててしまってる方がニュースにも出ていましたが、まず蒸留酒は焼酎初めウイスキーも全然OK。劣化なんて全然しません。宣言やら何やらが出て3カ月弱過ぎていますが何の問題もありません。そのまま今まで通りお客様にお出しして下さい。

日本酒は開封した時から劣化が始まり、瓶の半分くらいまで来ると、酒が空気に触れる面積が増えて特に劣化スピードが速くなる。とかいう知識をいわゆる資格を取るための試験でコレが正解みたいに言われていると聞いて驚きますが、よく考えてみてください。酒蔵でタンクに入っている状態でどれだけの面積が空気に触れているか。瓶詰めの際に火入れをするので、そこからは理論上真空の状態を保っていますので、そこからは確かにこの理屈はあっていますが、酒の味の変化を全て「劣化」と言うのは雑すぎます。味の変化を楽しむのも酒を飲む楽しみでもあります。必ずしも開封した瞬間が1番うまいとは限りません。3日目くらいから急激にうまくなる酒もいっぱいあります。

そもそも日本酒蔵と言うのは、通常10月頃から酒造りを始めて、桜の花の咲くころに甑倒し(こしきだおし。今季の酒造りの米を蒸す作業の終わりの事)皆造(かいぞう。今季の酒造りが終わる事)を迎えます。で、春から10月の間は酒を売っているだけで、造ってはいません。もちろん最近では空調を完備して四季醸造といって年中酒を作っている蔵もありますが、圧倒的に先にのべた形で1年が回っている蔵が多いです。で、大体秋ごろから造り始めるのが一番量が出る普通酒クラス。寒くなるに従って吟醸・大吟醸を仕込みます。ということは、9月頃と言うのは普通酒で言うと製造から1年近くたったお酒が流通しています。製造年月が書かれていますが、あれは瓶詰めした日であって、本当に製造した日では必ずしもありません。最近は今朝しぼりといって搾ったその日に瓶詰め出荷する酒もありますが、ごく一部。企画した酒だけと思って頂いていいでしょう。つまり製造から1年くらいたっている酒を出荷しているんです。大体。

ですので、酒を造る杜氏や、その下で働く皆さんも1年も経たないうちに味が落ちる酒を造ろうなんて思っていません。次の酒ができるまで美味しく飲んで下さいと願い造っています。ですので、この時期にはこれくらいの味になっているであろう。コレがウチの酒なんだから。と言う思いで造っています。それを劣化と一纏めにはしないで頂きたい。

もちろん店主の方が自信を持ってお出しする料理に、今まで開封して1週間程度なら素晴らしい相性だけど、それを越したら料理に合わない。とおっしゃるなら、こちらも味や考え方を押しつける事はしませんが、日が過ぎた。味が変わった。だけで廃棄にする事はやめてほしいのです。蔵人の思いを流してしまうのはやめてほしいのです。味が変わるのは当たり前。その変化を楽しんで頂きたいのです。1年2年熟成させた方がうまい日本酒なんてゴロゴロあります。常識的に生原酒を燗なんてしないのかもですが、1年くらい冷蔵庫で保管した純米の生原酒は燗酒にすると生原酒の味わいとはまた全然違ううまさがあって、そんな常識にとらわれていた時間がもったいないと思うはずです。

どうしても思っている味とはかけ離れてしまった。使えない。と思われたら煮物に使うとか、鍋の割下にと使い道はいっぱいあります。風呂に入れるのもこれからの時期体が温まりますよ。ですので、どうか廃棄すると言う手段は最終の最終にして頂きたいのです。

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