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人はなぜUMAと幽霊を見るのか~オカルト×心霊×現代社会『ダンダダン』~

UMAや幽霊を見たことがあるだろうか?

僕は、残念ながら一度も無い。一度は見てみたいと憧れ続けて来たが、無い。身の回りで見たことがあるという人も居ない。しかし、自分自身の幼少期から、UMAや幽霊の話題が途切れたことは無い。都市伝説やオカルト、怪談は、テレビを中心としたマスメディアや、イベントなどでも人気のジャンルとなっている。そうしたジャンルのネタに特化した語り手たちが、自分自身の経験や、他の人に聞いた話という体で、語り続けている。

マンガ「ダンダダン」に登場する高倉健(オカルン)と綾瀬桃(モモ)は、当たり前のようにUMAや幽霊を目撃する。何のきっかけも無い。オカルト好きのオカルンと、自称”エセ霊媒師”の祖母を持つモモは、モモの正義感が故のちょっとした行動で青春マンガよろしく運命的に出会い、言い合いの末に、モモはUFOの聖地として有名な廃病院に、オカルンは、これまた有名な心霊スポットであるトンネルに向かう。そして、それぞれに異星人と幽霊に出会うのである。彼らの歴史が事細かに描かれる訳ではないので、それぞれに「霊感」が身についたタイミングは分からない。実写化もされたマンガ「みんな!エスパーだよ!」では登場人物が超能力に目覚める条件が設定されていたが、オカルンもモモもいきなり異物に遭遇する。そして、彼らと霊媒師であるモモの祖母・綾瀬星子、そして、その後、出会うことになる同級生の白鳥愛羅(あいら)とモモの幼馴染である円城寺仁(ジジ)だけが、異星人や幽霊と遭遇し、戦うことになる。

そして、序盤のさり気ないシーンなので見逃している人も居るかもしれないが、モモの両親は何らかの理由で亡くなっている。オカルンの両親も今の所は描かれていない(オカルンは住んでいる家すら描写されない)。愛羅は幼少期に母親を失っている。ジジは、現在、連載中の話の中で、彼自身の過去が描かれているが、彼も家族の喪失を経験している。星子の家族については描かれていないが、モモの両親が亡くなっているということは、我が子を失っていることになる。

つまり、作中でUMAや幽霊に遭遇する人物は、何らかの形で身近な人の喪失を経験している。容易に埋めることのできないであろう大きな喪失を。

東日本大震災の後、多大な被害を受けた被災地である宮城や福島では、多くの人達が幽霊を目撃したと証言(※1)している。

取り返しのつかない、割り切ることの出来ない、決定的な喪失を、少しでも埋めるために、少しでも癒すために、彼ら・彼女らの脳内が見せるのがUMAであり、幽霊であるのかもしれない。

オカルト界で有名な矢追純一氏は、UFOが日本で話題となるきっかけの一つとなったテレビ番組「11PM」にスタッフとして参加し、UFOを番組内で取り上げた。その理由として、精神的に余裕が無いように見えた日本人に、空を見上げて欲しかったと語っている(※2)。

『ダンダダン』の中で、最初に登場するカニ型幽霊は、連続少女殺人事件の被害者が地縛霊となり、ターボババアと合体したものだった。あいらを執拗に狙う幽霊「アクロバティックさらさら」も、死にかかった愛羅を復活させるためにオーラを渡すシーンで生きていた時の壮絶で悲しい過去が描かれる。

幽霊になる人にも理由があり、幽霊やUMAを見る人にも理由がある。

『ダンダダン』が連載を開始し、話題となった2021年。その背景には、コロナ禍の現状も関係しているのかもしれない。喪失を抱える中で、少しでも前を向くために。


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※1:石巻のタクシー運転手は、なぜ幽霊を見たのか? 工藤優花さんが語る被災地の「グレーゾーン」 | ハフポスト https://www.huffingtonpost.jp/2016/03/07/yuka-kudo_n_9398868.html

※2:“UFOを流行らせた男” 矢追純一81歳「空を見上げてほしかった」 | 文春オンライン https://bunshun.jp/articles/-/1784

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※こちらは、毎週日曜21:00~Zoomにて開催しているオンラインイベント
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