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「忘れえぬあの本」day5「からすだんなのおよめとり」

ボロボロになるまで読んだ本、もう一つは「からすだんなのおよめとり」です。これも、新しく買いなおしました。 訳者は石井桃子さんです。

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アラスカ・エスキモーの童話集みたいなもので、この「エスキモー」という言葉も「シナ」同様、今は使用に注意が必要な言葉で、今は民族のことを「イヌイット」と呼ぶようになっています。
名前が何であっても、その民族とその文化は太古の昔から続いている。「童話集」は、その集積のようなものかもしれませんね。私はこの中で「てばたき山」というのが好きでした。 

渡り鳥が、目的地に行くためにどうしても通らなければならない難所のお話で、切り立った岩壁が並行して2つあり、渡り鳥は隊列を組み、この間を抜けて渡っていきます。ある一定の間隔でそれらが手と手を合わせるようにバチンと閉まるので、鳥たちの隊列は一気に抜けていかなければなりません。初めて渡りを経験する若鳥たちには、難所中の難所。もし隊列から遅れると、岩壁が動き出し、挟まって命を落としてしまうからです。

現実的に考えると、「山が動く」はありえないことではあります。また、もしそうだとして、なぜそんな危険なところをわざわざ通るのか。そういうことを、童話は何も説明してくれません。ただ「そこを通る」こと、「遅れると挟まれる」ことだけが示されて物語が進みます。
今ならなんとなくわかる。2つの岩壁の間を通るのは、その岩壁の間は、壁のおかげで風が穏やかだったり、壁の中を通れば身を隠せたりして、他を通るより安全なのでしょう。「難所」であると同時に、他より安全なルートでもあった可能性があります。
また、壁が動く、ということはないかもしれませんが、一定の間隔で突風が吹くとか、そういうことであおられて、岩壁にぶつかって命を落とす鳥たちは本当にいたのかもしれません。そこに住む人々は、それを「手ばたき」と言い伝えて童話にし、厳しい吹雪の日などに隊列を組んで行進するときは、「お前たちも手ばたき山で命を落とす若鳥にならないように、しっかりついて来いよ」と教えていたのかもしれませんね。

子どもの頃は、そんなことなど理解して読んでいたわけではありません。でも、 心の奥深くに何かひっかかりがあったのでしょう。 単純だけど印象深い挿絵も、すぐに頭に浮かびます。後に「心の地図」という映画を見たときに、カヌーに乗るイヌイットの描写があり、「あっ、『からすだんなのおよめとり』の挿絵と同じだ!」とうれしくなったのを思い出します。

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