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黄金の太陽 開かれし封印・失われし時代

読者の皆さんは「ゲームを購入するきっかけ」と聞かれたとき、何を思い浮かべるだろうか?
例えば雑誌やゲーム系サイトといったメディアによる広告、知り合いやインフルエンサーからの口コミ、店頭でPVやパッケージを見て印象に残った、辺りが主な理由だろうか?
自分にとって黄金の太陽との出会いは、やや特殊なパターンかもしれない。

きっかけはニコニコ動画に投稿されていたRPGのBGMをテーマごとにまとめた動画だった。その動画にはDQ、FF、ポケモン、テイルズ、ペルソナといった有名タイトルや、世間にはあまり知られていないマイナータイトルから幅広く選別されていたのだが、その中に妙に印象に残った曲があった。それが「黄金の太陽 開かれし封印」の通常戦闘曲であった。
作曲者は「桜庭統」氏。テイルズオブシリーズやDARK SOULS三部作の作曲を手掛けたゲーム音楽の巨匠の一人である。

そんな桜庭氏特有のアップテンポでヒロイックな戦闘曲とクオリティの高い音質、ある意味それには不釣り合いな、明らかに携帯機とわかる粗目のゲーム画面が妙に印象に残り、機会があればいつかプレイしたいと思っていた。

そして最近、龍が如く8とFF7リバースという大作を立て続けにプレイしたことにより、若干胃もたれ気味になっていたのもあって、お手軽な携帯機のRPGとしてずっと気になっていた今作をプレイすることにした。
ちなみに前編の「開かれし封印」と後編の「失われし時代」、合わせて50時間以上プレイしているので、あまり胃もたれは解決していない。

概要

改めて黄金の太陽について紹介する。
黄金の太陽はゲームボーイアドバンスで発売されたRPGで前編の「開かれし封印」が2001年8月1日、後編の「失われし時代」が2002年6月28日に発売された。GBAの発売日が2001年3月21日なので、ハードが発売されてからかなり早いタイミングでの発売である。

開発を担当したのはキャメロット。もともとはセガの出資を受け「株式会社ソニック」としてセガの名作S.RPGである「シャイニングフォース」シリーズを手掛けていた。
その後、他機種参入のため「株式会社キャメロット」を設立、セガと関係を継続しつつPSにも参入、初代「みんなのGOLF」の開発を手掛ける。さらにその後「株式会社ソニック」と合併、任天堂ハードにも参入し、黄金の太陽の他にも「マリオゴルフ」や「マリオテニス」の開発も手掛け、現在でも一線で活躍している。

とまあ、この記事を書くにあたって軽く調べたのだが、厳しいゲーム業界を巧みに生き抜いた、いい意味でしたたかな企業という印象を受ける。
ちなみに社長の高橋宏之氏と副社長の高橋秀五氏は兄弟であり、PSに参入した際には宏之氏自身が「株式会社ソニック」の社長に就任したまま弟の秀五氏を「株式会社キャメロット」の社長に据えるという、戦国武将の真田家のようなムーブを行っている。90年代のゲーム業界はまさに群雄割拠、血を絶やさないためのリスクヘッジは当たり前というわけである。

ゲームの特徴

今作の内容を簡潔に言い表すなら、「中世ファンタジー世界を舞台とした、剣と魔法の王道RPG」である。
無口な主人公、4人の仲間、ターン制のバトル、ワールドマップを歩き街で情報を収集し、ダンジョンを攻略するという流れなど、80~90年代に雨後の筍の如く発売された王道のJRPGを踏襲した内容であり、非常に取っつきやすい。特に「失われし時代」はドラゴンクエスト3の影響が見られる。

また、この時代のRPGとしては珍しく、ある程度戦闘の演出をカットできるので、テンポも悪くない。

音質やグラフィックなど個々の要素のクオリティも高い。画面が粗いとは前述したが、あくまでTVサイズのモニターで見た場合の話であり、当時の携帯機としては十分なクオリティのグラフィックである。
もともと今作は王道RPGが不足していた当時のGBAプレイヤーのために制作されたという経緯があり、GBA初期の作品でありながらそのポテンシャルをかなり高いレベルで引き出しているとのこと。

ゲームバランスはやや優しめであり、雑魚戦で苦戦することはほとんどないが、一部のボス戦はそこそこ歯ごたえがある。ただ、一部のジン(精霊のようなもの)の解放攻撃が強く、後半はダメージ軽減系のジンと敵の行動を封じるジンを繰り返し解放していけば、ほぼ負ける要素はなくなるなど、やや練りこみ不足に感じる。

戦闘と比較すると、ダンジョンの謎解きはかなり歯ごたえがある。主人公達は「エナジー」という魔法のようなものを使い様々な現象を起こすことでダンジョンの仕掛けを解いていくのだが、特に後半のダンジョンの仕掛けは複数のエナジーを組み合わせる必要もあり、一筋縄ではいかない。幸い、大掛かりな仕掛けのある部屋ではエンカウントがなく、謎解きに集中できるように配慮されている。
ただし、通常のエンカウント率はやや高いように感じる。これは、ダンジョン攻略のため行ったり来たりを繰り返すので、実際以上にエンカウント率が高く感じるためだと思う。

購入のきっかけとなったBGMのクオリティは非常に高く、「開かれし封印」の通常戦闘曲の他、「開かれし封印」のラストダンジョンに当たるヴィーナス灯台の曲、「失われし時代」の後半フィールド曲などが特に印象的だった。

戦闘の特徴しては、「ジン」と「召喚」という要素が挙げられる。ジンは属性ごとに存在する精霊であり、キャラクターに装備させることができる。装備したジンの属性の組み合わせによって、キャラの「クラス」が変わる。
召喚は装備したジンを解放することでジンをスタンバイ状態にすることができ、スタンバイ状態のジンの数によって召喚獣を召喚することができる。召喚に使用したジンはリカバリー状態となり、しばらく装備することも召喚に使うことも出来ない。
戦闘の状況に合わせ、どのジンを解放しそのタイミングで召喚を行うかなど、なかなか戦略性の高い戦闘システムだが、前述したように戦闘の難易度はそこまで高くないので、適当にプレイしてもなんとかなるレベルである。
ただ、ラスボスや隠しボスになるとさすがにそれなりの戦略は要求される。特に失われし時代の隠しボスは、プレイヤーが装備しているジンを強制的にリカバリー状態にするという技を使ってくるため、しっかりと戦略を練らないと勝利は困難である。

総じて評するなら、当時のGBAのRPGとしては全体的なクオリティの高い良作であり、安心してプレイできる作品である。反面、今作ならではという要素に乏しく、GBA初期のRPGという部分を除けば、取り立てて特徴のないゲームと言うこともできる。そのため、本来ならたいして印象に残らないゲームになる可能性があったのだが、ある一点がやたらと印象的であり、ある意味忘れられないゲームとなった。その一点とはズバリ、テキストである。

RPGとテキスト

少なくとも、90年代まではRPGにおいてテキストの持つ役割は非常に大きかった。当時のマシンスペックでは、グラフィック能力には限界があり、プレイヤーに情報を与えるためにはテキストの力に頼らざるを得なかったからだ。
そのため、テキストの出来はストーリーの出来に直結し、例えストーリーの構成そのものが優れていてもテキストが微妙だと、高い評価を得ることは難しかった。
この傾向は、RPGにおいては少なくとも「FF7」でフルポリゴンのキャラクターが全身を使った「演技」を行い、プレイヤーに情報を視覚的に「見せる」ようになるまで主流であった。

黄金の太陽は「王道RPG」だが、これは「FF7」以前のテキストによる表現をメインとしたクラシカルなRPGとほぼ同義である。そのため、ことストーリーの評価において今作のテキストの持つ役割は非常に大きいのだが…なんというか非常にクセのあるテキストなのだ。

具体的な特徴をあげると、まるで機械翻訳したように唐突に出てくる英語、やたらと同じことを二度繰り返す、キャラの口調が安定しない、言いたいことはわかるが言葉のチョイスがおかしい等である。
以下にいくつか例をあげる。

イワン「まさかガルシアまでが海へダイブするなんて!」
開かれし封印終盤で、失われし時代の主人公ガルシアが仲間のシバを追ってヴィーナス灯台から飛び降りた際のセリフ。驚きのあまりか唐突に英語をしゃべっている。当然だが普段はこんな話し方ではない。

ジャスミン「うるさいぞ、シバ…。」
失われし時代の仲間であるジャスミンが、開かれし封印の主人公ロビンとの仲をからかわれた際のセリフ。照れ隠しにしてはドスが効きすぎているように思う。ちなみにジャスミンは勝ち気で天真爛漫な性格のキャラである。

メアリィ「いまらくにしてさしあげますわ」
開かれし封印の仲間のメアリィが敵にとどめを刺す際のセリフ…ではなく病人を解放する際のセリフ。言いたいことはわかるが言葉のチョイスがおかしい例で、まるで息の根を止めることで「らくにしてさしあげ」ようとしているように聞こえる。

メアリィ「ドドンパ あなたはこころのそこまでくさってますわ」
メアリィからもう一つ。盗賊の首領であるドドンパが主人公一行を罠にはめようとしたことを察して。ちなみにメアリィは上品で清楚なキャラであるが
上記の様な発言をした結果、ファンからは腹黒キャラとして愛されているようである。

ピカード「舵はキミがとれよガルシア!」
失われし時代の仲間のピカードが船が手に入った際に発したセリフ。なんてことのないセリフだが、ガルシアは15歳までに海を知らずに育ち、しかも水難事故で2回死にかけている。メタな視点で言えば、プレイヤーに船の操作をゆだねるためのセリフなのだが。

サテュロス「そうよな」
開かれし封印の仇敵、サテュロスが終盤のシリアスなシーンで唐突に発したセリフ。「そうだな」の誤植のように思えるが、一応日本語の言い回しとして存在する言葉でもあり、真相は不明。この一言のせいでサテュロスの愛称が「そうよな」になってしまったのは、言うまでもない。

と、こんな感じのテキストがゲーム全編において頻出する。正直テキストが気になってストーリーが頭に入ってこないレベルである。

ちなみに上記の様なテキストのクセは「高橋語」とファンからは呼ばれているようで、高橋宏之氏がシナリオを手掛けたゲームでは良く見られるとのこと。
ただし、自分がかつてプレイした「シャイニング・フォース 神々の遺産」には上記の様なクセは見られなかったように思う。ライトノベル作家の和智正喜氏との合作なので、そのおかげだろうか?

開かれし封印と失われし時代

テキスト以外の大きな特徴として、当時としては珍しい前後作であるということが挙げられる。ストーリーと主人公以外は、前編と後編でゲーム的な違いはないが、前編の終盤から後編は開始するので、しっかりと楽しむためには両方をプレイする必要がある。

前編は錬金術の封印を目的としており、大陸が舞台となる。
後編は錬金術の解放を目的としており、船を使い外海まで冒険の舞台が広がる。

後編の終盤では前編の主人公一行が仲間になるが、前編のデータを引き継ぐことでレベルや手に入れたジンを引き継ぐことができる。
引継ぎ方法はGBAを二台使った通信ケーブルかパスワードなのだが、今プレイするならパスワード一択だろう。
ただし、このパスワードが異常に長い。とくに全ての要素を引き継げるゴールド引継ぎは、かのドラクエ2以上に長いパスワードを入力しなければならない。ぶっちゃけレベルとジンさえ引き継げば問題ないので、ブロンズ引継ぎでも充分後編を楽しむことができる。

総評

RPGにとってテキストがいかに重要であるかを再認識した作品である。ゲームとしての出来は決して悪くなく、GBAのRPGというくくりで言えば間違いなく良作レベルの作品であるだけに、惜しいと感じる。
ただ、これでテキストの出来が無難なものであれば、特に印象に残らないよくある良作で終わったかもしれない。このクセのあるテキスト無くして本作を語ることが出来ないのもまた事実であるように思う。それが良いか悪いかは別にして。現代では「ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online」にて配信されているので、プレイするのは容易である。気になった方は是非。



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