半熟英雄 ああ、世界よ半熟なれ…!! 半人前ゆえの可能性

前回の記事では、日本では数少ないリアルタイムストラテジー(RTS)の成功例として、「伝説のオウガバトル」を紹介させていただいたが、実は数か月前に旧スクウェア(現スクウェア・エニックス)より、同ジャンルのゲームとして「半熟英雄 ああ、世界よ半熟なれ…!!」がスーパーファミコン(SFC)にて発売され、同じく高い評価を受けている。
だが作風は全く異なっており、重厚な世界観とシナリオで硬派な印象の強い「伝説のオウガバトル」と比べ、今作はシナリオのノリが非常に軽い。全編を通してギャグやパロディが大量に仕込んであり、楽屋ネタやメタフィクションネタも非常に多い。そんな本作だが、ゲームとしての完成度は高く、長らくファンに愛されるゲームとなっている。今回は、そんな「半熟英雄 ああ、世界よ半熟なれ…!!」について紹介していきたいと思う。例によってネタバレもあるので、未プレイの方はそのことを留意していただきたい。


概要

まず初めに、半熟英雄シリーズについて軽くまとめておきたい。そもそも今作、「半熟英雄 ああ、世界よ半熟なれ…!!」は半熟英雄シリーズの2作目に当たり、シリーズ初代は1988年にファミコンより発売された「半熟英雄」である。その後、今作を経てPlayStation2(PS2)で2003年に「半熟英雄対3D」が、2005年に「半熟英雄4 〜7人の半熟英雄〜」が発売。また2005年にはニンテンドーDSにて外伝作品「エッグモンスターHERO」が発売された。
旧スクウェア作品としては、サガシリーズや聖剣伝説シリーズより歴史が古く、今作に登場した「エッグモンスター」はのちにファイナルファンタジー(FF)シリーズに輸入され、同シリーズの顔の一つとなったなど、旧スクウェアにおいてはそれなりの存在感を示している。
シリーズの特徴としては、リアルタイムで進行するウォーシミュレーションパート、個性的なエッグモンスターたち、そして全編コメディタッチで描かれたギャグ・パロディ満載のストーリーといった所だろう。
今作は、そんな半熟英雄シリーズのなかでも特に評価の高い一作である。

ストーリー

今作のストーリーは、前作からの続きとなる。前作において大陸の再統一を果たした主人公だが、その反動で私生活はだらけきっており、幼児退行し自分の名前さえ書けないありさまだった。そんなある日、「完熟なる者」たちが王国に戦いを挑んできた。完熟軍の先兵、「完熟クイーン」に居城であるアルマムーン城以外のすべての城を奪われた主人公。再び大陸の統一を果たすために戦いに日々に身を投じることになる…とういうもの。一見シリアスな印象を受けるかもしれないが、そこはコメディタッチに定評のある同シリーズだけあって、終始コミカルなノリで展開する。

まず、今作のストーリーパートは、主に劇場を模した舞台上で展開する。当然観客はプレイヤー(とモブ兵士)である。劇中のキャラも舞台を意識しているらしく、司会者が出てきたり照明に呼びかけたりと、あくまで舞台劇であることをプレイヤーに印象付ける。終盤になると、さすがにシリアスなシーンも出てくるが、劇中で死亡したキャラも黒子に引きずられて退場するなど、悲壮なシーンの余韻を残さない、というか自らぶち壊していくので、プレイして気が滅入るシーンは全くと言っていいほど存在しない。そのため、コメディを受入れられるのであれば、意外にも万人受けしやすいストーリーと言える。逆に、戦記物らしいシリアスなストーリーを求めるのならば、今作は合わないと思われる。

また、終盤では完璧を自負する「完熟軍」と半人前の「半熟軍」の対比が描かれており、意外にも深いテーマ性を内包している。なぜ完璧なはずの「完熟軍」が半人前の「半熟軍」に敗北したのか、その顛末はぜひゲームをプレイして確かめてほしい。

システム

次にゲームシステムについて解説する。まず前提として、今作は戦闘パートと内政パートにわかれている。ステージ最初は戦闘パートから開始し、ある程度時間がたてば内政パートへ移行、以後はこの流れを繰り返す。最終的に敵軍の城をすべて落とし、その後出現するボスを倒せば、ステージクリアとなる。戦闘パートがリアルタイムに進むことを除けば、シミュレーションゲームとしては比較的オーソドックスな流れと言える。

戦闘パート

各々のパートについても解説しよう。まず戦闘パートだが、最初に先発隊となる将軍を3人選択する。この3人と主人公を含めた4人でステージの攻略を開始する。ちなみに選ばれなかった将軍は、1か月ごとに3人ずつ増援として現れるが、どの将軍が増援として出現するかはランダムなので、先発隊はできるだけ強力な将軍を選んでおきたい。
ステージを開始すると、選んだ3人の将軍と主人公で敵の城を落とすために進軍する。ステージ開始直後は、本拠地となる「アルマムーン城」以外の城はすべて占領されているので、できるだけ速やかに城を落としたい。もっとも、敵も黙っているわけもなく、迎撃のための将軍を差し向けたり、城に援軍を送り防御を固めようとする。
フィールドで将軍と将軍がぶつかる、あるいはどちらかの軍が城に攻め込むと戦闘開始となる。戦闘は将軍と6人の兵士からなるユニット同士で行われ、タイミングよくボタンを連打することで多少有利となる。とは言え将軍の戦闘力や兵士の数を覆すほどではなく、あくまで同程度の戦闘力や兵数同士での戦闘が有利になる程度である。
そうなると、単純に戦闘力と兵数が多い方が有利となるわけだが、それを覆す要素も存在する。それが今作の目玉となる「エッグモンスター」と「きりふだ」、そして「おくのて」である。

エッグモンスター

「エッグモンスター」とは、その名の通りエッグから生まれるモンスターであり、一般の将軍や兵士とは比較にならない戦闘力を持っている。エッグ持ちの将軍は限られており、中には戦力にならないハズレモンスターもいるが、基本的にはエッグを持ってない将軍には出したら勝ちと思ってもらって差し支えない。また、エッグを持ってない将軍が「エッグモンスター」を召喚する前にエッグ持ち将軍を倒すと、使い捨ての「いっぱつエッグ」が入手できる。
特筆すべきは、多種多様な「エッグモンスター」の個性的なデザインだろう。以下、いくつか例を示す。

・伝説の剣の名を冠すが、剣のコスプレをしたおっさんにしか見えない「エクスカリバー」。
・命令をしても「わしゃ死んでもうごかん!」と本当に死ぬまで一切動かないウゴカザル(言うまでもなく、完全なハズレモンスター)
・ラーメンに乗ってる巨大ななると、その名も「なると」
・攻撃のたびに「最近の若いもんは…」と説教をしてくる
老害ドラゴン「シカルドラゴン」
人間にドラゴンが乗ってる「にんげんライダー」。
・最強のエッグモンスター「ハデス」のパチモンで、しょうもないダジャレを言って自滅する「ハデデス」

以上はほんの一例である。一応なかにはシリアスなモンスターもいるが、作風が作風なだけに、シリアスなモンスターは逆に浮いており印象に残りづらい。
ちなみに、どのエッグモンスターが召喚されるかは、エッグの種類と半熟値と呼ばれる部隊全体で共用するレベルによってある程度判別可能であり、それによって将軍の使い勝手が変わってくる。
ワンダー・スーパー・カラフル・イビルの基本的な4種類のエッグの特徴を大まかに説明すると、
・ワンダーエッグは序盤から中盤にかけて優秀なモンスターを召喚できるが、終盤に出てくる「ちきゅうちゃん」はクセが強く使いづらい。
・スーパーエッグはゲーム全編に渡って強力なモンスターを召喚できるが、中盤の一時期が使いづらい。
・カラフルエッグは全体的にクセが強く、ゲーム全編に渡って使いづらい。
・イビルエッグは序盤から中盤は使いづらいが、終盤は優秀なモンスターを召喚できる。
といった所。ほかにも、
・3種類のモンスターから召喚対象を選べる「エラベルエッグ」
・使い捨てだが、強力なモンスターを召喚しやすい「いっぱつエッグ」
・スロットをまわし、ランダムで召喚できる「スロットエッグ」
・敵が召喚したモンスターを召喚できる「まねっこエッグ」
・その他、特定のモンスターを召喚できる「○○エッグ(○○には召喚できるモンスターの名が入る)」などがある。
種類が多くてややこしく感じるかもしれないが、基本4種を除けば戦力となるのは「エラベルエッグ」と「いっぱつエッグ」の所持者に限られているので、そこを押さえておけば問題ない。

きりふだ

次に「きりふだ」について。「きりふだ」は一般的なRPGにおける使い捨てのアイテムのようなものであり、将軍が城から出陣する際に3つまで持たせることができる。効果は様々で、敵を直接攻撃するものやデバフを与えるもの、味方のHPとエッグの使用回数を回復するものなどがある。
「きりふだ」は内政パートで承認から購入するほか、フィールドに出現する屋台や、洞窟探索時にランダムで購入することができる。
エッグを持ってない将軍がエッグ持ち将軍に対抗するための方法の一つがこの「きりふだ」で、特に敵のHPを半減される「クースカン」を2度使ったのちに、適当なダメージタイプの切り札を使うと、大抵の将軍は耐えきることが出来ないので強力である。

おくのて

最後に「おくのて」について。「おくのて」は敵から城に攻められた際に、エッグを持ってない将軍が迎え撃った時のみに使用可能なコマンドである。コマンドを選ぶと、ランダムで3種類の「おくのて」が出現し、その中から選んだ「おくのて」で敵に攻撃をしかける。「おくのて」にはマイナス効果を持つものも多いが、将軍のHPが0にならない限りは一方的に攻撃可能なため、運よく強力な効果の「おくのて」が連続で出現した場合は、劣勢を一気に挽回できる。また、内政パートの「築城」コマンドで、城レベルを上げるほど「おくのて」の効果が上がり、より勝率が高くなる。
特にに「おくのて」の一つ「だいじんアタック」は、出現確率こそ低いものの、「だいじん ファイナル クラーーーッシュ!!」の掛け声とともに、どんなに強力なエッグモンスターや将軍でも問答無用で一撃で屠るまさに最強の「おくのて」である。最初からお前が戦えよ…

フィールド探索

これまでは主に戦闘面について解説したが、フィールド探索要素についても解説したい。
戦闘フィールドには城以外にも、「洞窟」「温泉」「あたし♥の家」がある。
「洞窟」「温泉」に将軍を派遣すると、ランダムイベントが発生する。「温泉」は基本的にプラスのイベントしか発生しないが、「洞窟」はマイナスイベントも発生し、最悪の場合は探索に派遣した将軍を失う可能性もある。逆に言えば、使えない将軍を厄介者払いできるということでもある。むしろゲーム後半はこちらがメインの目的となるかもしれない。
「あたし♥の家」は壊れたエッグを修理することが出来る。エッグモンスターが敵に撃破された場合はエッグが壊れるため、「あたし」に修理してもらわなければ、再び使用することが出来ない。特にゲーム後半は敵の攻撃も激しくなり、エッグモンスターが倒されることも珍しくないため、利用する機会も増えるだろう。

内政パート

戦闘パートである程度時間が経つと、内政パートに移行する。
内政パートに移行すると、まずランダムイベントが発生し、その後「月イチコマンド」で内製を行うことが出来る。
内政には先に説明した、きりふだを購入する「商人」や城レベルを上げる「築城」の他に、エッグの使用回数を回復する「卵の回復」、兵士を1人1ゴールドで雇うことが出来る「兵士募集」、オーディションを行い3人の候補者の中からランダムで一人の将軍を雇う「将軍募集」、不要な将軍を解雇する「将軍解雇」がある。
そのなかでも、戦力に直結する優秀な将軍を雇える可能性のある「将軍募集」は特に重要と言える。後半になるとお金は余りがちなため、優秀な将軍を雇えるまでひたすら「解雇」と「募集」を繰り返す将軍ガチャは、このゲームのプレイ経験者なら誰もが行ったのではないだろうか?

キャラクター

次に、今作をプレイして特に印象に残ったキャラクターを紹介したい。

主人公

アルマムーンの王子であり、今作の主人公。セリフやデフォルト名はなく、プレイヤーの分身と言える。シナリオでは散々情けない姿を見せるが、戦闘面では優秀で、高いステータスにエラベルエッグ持ちと部隊の主軸として活躍する。増援部隊は彼の居城に出現するため、その意味でも積極的に前線で使いたい。ただし、彼がやられるとゲームオーバーのため、無理はさせすぎないように。

だいじん

その名の通り、先代の王の頃よりアルマムーン国に仕える大臣。主人公が喋らないので、物語の進行役は基本的にこの人が務める。主人公の行動に頭を痛めながらも、最後まで見捨てることなく付き従う忠臣。若いころは剣の達人だったらしく、おくのて「だいじんアタック」でその片鱗がうかがえる。

ゼウス

最初からアルマムーンに所属している3人の将軍のうちの一人。高いステータスにワンダーエッグ持ちと、長期間に渡り部隊の主軸として活躍する。最終話近くになるとワンダーエッグが使いづらくなるので、その頃は先発隊から落ちる可能性はあるが、それでも優秀な将軍と言える。

ヴィーナス

初期3将軍のうちの一人。ゼウスにわずかに及ばないものの高いステータスにスーパーエッグ持ち。さらに卵のレベル補正が+3あるので、同時期の他の将軍より強力なモンスターを召喚できる。最初から最後まで息切れすることなく部隊のエースを張れる強力な将軍である。

ココット

初期3将軍のうちの一人。癖の強いカラフルエッグ持ちで、ステータスもそこそこと他の二人と比較するといまいちな印象が強い。一応卵レベル補正+3に騎馬兵とそれなりに優秀なため、序盤は役に立つ。

アルテミス

将軍の一人。序盤から中盤のエース候補。最速1話の将軍募集で雇える可能性がある。ステータスはそこそこだが、特筆すべきはレベル補正+3のワンダーエッグ持ちであること。高いレベル補正のおかげでゼウスよりも強力なモンスターを召喚できる。中盤の山場である4話・5話は彼女がいるかいないかで難易度がかなり変わってくる。ぜひ早めに雇いたい。

アポロン

将軍の一人。最速3話と序盤で雇える可能性がある。ゼウスを超える高いステータスにレベル補正+1のスーパーエッグ持ちと、余裕で最後まで使える強力な将軍。是が非でも雇っておこう。

ポセイドン

将軍の一人。卵こそ持っていないが、最高クラスのステータスの持ち主。首尾よく雇えたら、以後防衛戦の要となる。反面、卵レベル補正は-3と最低レベルのため、召喚バトルは苦手。

ランプータン

将軍の一人。味方にしてもいまいち頼りないが、敵に回すと厄介な将軍の一人。彼が持っている「かぼちゃエッグ」から召喚される「ランプキン」は、敵のHPを半減される技と、敵味方全てのステータスを1にする凶悪な技を持っている。彼に先制されると、壮絶な泥仕合を強制させられるため、精神衛生上非常によろしくない。自軍の配下にした将軍は、敵として出現しないため、できれば配下として雇っておきたい。

ブラウニー

将軍の一人。最弱の将軍として名高い。能力値は最低クラス、卵持ちだがそのエッグは最弱のモンスターしか召喚出来ない「くさってるエッグ」、そのくせ賃金はそこそこかかるという、どうしようもない将軍。別に雇う必要は全くないのだが、なぜか手元に置きたくなる不思議な魅力がある。

オレガノ

将軍の一人。最強のイビルエッグ使い。全体的に微妙な能力値の多いイビルエッグ使いだが、彼は能力値も最高クラスである。終盤戦ではエースとしての活躍が見込めるため、ぜひ雇いたい。

第10話に出てくる将軍たち。

第10話で敵として出てくる将軍は、FFシリーズとロマンシング・サガからゲスト出演した将軍たちで、一度撃破すると将軍募集で雇える可能性がある。能力はいずれも最高クラスで、特にフリオニール・レオンハルト・カイン・リディアは文句なく強い。グレイはやや劣るものの、事実上最強のカラフルエッグ使い。首尾よく雇えたら、終盤戦での大活躍が見込めるだろう。

ちなみに

今作の特徴の一つとして、命が非常に軽いことが挙げられる。上記にて印象に残った将軍たちを紹介してきたが、彼らは実に簡単に死ぬ。敵に負けた場合は当然として、洞窟探索のランダムイベントや、月一イベントの謀反、さらに命と引き替えに敵部隊を全滅する特攻用の「きりふだ」も存在する。そして一度死んだ将軍は、最速だと同じ月の将軍募集であっさりと復活する。月初めに謀反で討たれた将軍が、その月の将軍募集でしれっと復活するのは、もはやギャグ以外の何物でもない。
また、本作のボス戦は撤退可能だが、撤退時にはそれまでに与えたダメージのいくらかが回復する仕様となっている。だが撤退せずそのまま味方部隊が全滅すると、ダメージが回復することなく蓄積する。そのため、玉砕前提で使えない将軍を特攻させるのは意外と理にかなっている。反面、特定の将軍を狙って雇うのは面倒なので、優秀な将軍は慎重に運用すべきである。

総評

本作が発売された1992年は、ドラゴンクエストⅤ、ファイナルファンタジーⅤ、ロマンシング サ・ガ、ストリートファイターⅡ、スーパーマリオカート、真・女神転生など、後年にも影響を与えた多くの名作が発売された豊作の年である。そのため今作はややマイナーな印象があるが、ゲームとしてのクオリティは高く、現代でも多くのファンが存在する。
現代でもスマートフォンのアプリとして配信されているので、興味がある方は一度プレイし見てはいかがだろうか?
ただ、今回の記事の内容はSFC版をベースとしているため、アプリ版とは差異があるかもしれないことは、あらかじめ断っておきたい。

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