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サンサーラ・ナーガ2

ゲーマーの皆さんなら、なんとなく気になっていたけど、なんとなく触れる機会がなく時間が過ぎ去ってしまったゲームが一つや二つあるのではないだろうか?
今回取り上げる「サンサーラ・ナーガ2」は自分にとってまさにそんなタイトルだった。

監督押井守、キャラクターデザイン桜玉吉というビッグネームのインパクトに加え、主人公が成長せず竜を育成するという特徴的なシステム的、川井憲次氏による印象的な音楽などに興味をひかれ、いつかプレイしたいと思いながらも、なかなか機会を作ることが出来なかった。

そしてつい先日、アルトネリコ2をクリアし、また他にプレイしたいゲームもなかったこと、気になる新作の発売までまだ時間があったことでようやくプレイすることが出来た。

その感想を早速記事にしていきたい。

概要

サンサーラ・ナーガ2とは、1994年7月15日にスーパーファミコンで発売されたビデオゲームである。ジャンルはRPGで発売元はビクターエンターテイメント。

前作である1は1990年3月23日にファミコンで発売された。その独特の世界観とゲーム性で好評を博したようで、続編がスーパーファミコンで作られることになったと思われる。
また、押井守・桜玉吉・川井憲次といった主要スタッフは全て前作から関わっている。

物語

竜使いギルド「竜苑」の前で卵を抱いて捨てられていた赤ん坊である主人公。竜苑に拾われ育てられた主人公だが卵は一向に孵らなかった。
人々は主人公を嘲笑っていたが、天才竜使いの少女「アムリタ」だけは主人公を理解し、心を通わせるようになった。
ところがある日、アムリタは突如竜苑に火を放ち、逃亡していった。
直後、主人公の卵がついに孵る。生まれたのは、1000年に一度だけ孵ると言われる、生まれながらにして人語を解する真っ白な竜。
竜苑は主人公に、孵ったばかりの白竜とともにアムリタを追う使命を与えた。

主人公の旅立ちの経緯としては上記のような感じである。
特徴的なのは、世界が塔のような階層構造となっており、一つの世界をクリアするごとに次の世界に上っていくこと、一度クリアした世界には二度と戻れないこと、そして一度クリアした世界は消滅することである。

つまり、最初こそ竜苑の言われるがままにアムリタを追う主人公だが、最初の世界をクリアした時点で竜苑そのものが消滅しているため、ストーリー上は無理にアムリタを追う必要がなくなる。

この事実が明かされてからは、なぜアムリタが裏切ったのか?なぜ竜が生まれてくるのか?竜とはなんなのか?と言った世界の謎を解き明かすことが旅の目的になってくる。

そんな今作のストーリーを牽引しているのがヒロインであるアムリタ。彼女のゲーム中での登場時間は決して多くない。直接会う機会は作中2回程度しかなく、回想シーンを含めても登場時間は1時間にも満たない。
今作の優れているところは、その短い登場時間で彼女の魅力を最大限に引き出していること。

直接会う機会こそ少ないが、ゲーム中に立ち寄る街では様々な人々が彼女が行ったことの影響を語り、ゲーム全体を通して常にその存在を感じることが出来る。
そんな彼女のメッセージからは厳しいながらも主人公に対する思いやりに溢れている。中盤のある神殿では主人公の名前をロックを解除するキーとして設定するなど、まるで主人公に自分を追ってこいと言わんばかりである。

そして終盤語られるアムリタの真意、彼女との再会からの怒涛の展開、ラストバトルを経てのエンディングは今作のクライマックスであり、エンディング後のある仕掛けも含めて特に印象的だった。
決して派手な演出に頼っているわけではない。むしろ同年代のゲームとしてはかなり「地味」なグラフィックだが、計算されたテキストとゲームシステムを活用した演出により、今作のストーリーを印象的なものに仕上げている、まさに職人技的な、ゲームならではのストーリー体験を得られる一作と言えるだろう。

システム

独特の世界観が印象的な本作だが、システムも特徴的なものとなっている。

まず、今作のパーティーは主人公と3匹の竜という組み合わせとなっている。パーティー唯一の人間である主人公は、戦闘で一切成長しない。一応階層をクリアするごとにHPのみ上昇していくが、その他の基礎的なパラメーターは最初から最後まで一切変わらない。これは、「人間はそう簡単に成長しない」という押井守氏の考えが反映されてのもの。

とは言え、ゲームを進めるにしたがって敵は強くなっていくのだから、なんとか対抗しなければならない。パラメーターが成長しないならば、装備品を新調していくしかないのだが、困ったことに今作の装備品は使用回数に応じて消耗していく。具体的には、武器は敵を攻撃した回数で、防具は敵から攻撃を受けた回数で消耗していき、最終的には壊れてしまう。壊れた武器防具を修理する手段は存在しない。そのため、常に予備の武具をそろえておく必要がある。

後述するが、今作の戦闘バランスは全体的に厳しいものがある。そのため、必然的に武器防具の消耗も激しくなる。序盤はともかく、中盤以降に主人公の鎧が壊れようものなら、一気にゲームオーバーも見えてくる。ちなみに今作は主人公が戦闘不能になった時点でゲームオーバーである。この点は良く言えば緊張感がある、悪く言えば面倒くさいシステムと言え、好みが分かれると思う。

主人公以外のパーティーである3匹の竜だが、最初は主人公の相棒となる白竜のみがパーティーメンバーとなる。しばらく冒険が進むと、白竜が卵を産み、双子の竜が仲間になる。
双子の竜は赤竜・蒼竜・緑竜の3種類のうちから、好きな組み合わせで選ぶことが出来る。
それぞれ、

  • 赤竜・多彩なブレス(攻撃魔法)を覚える魔法使いタイプ

  • 蒼竜・攻撃力・防御力に優れた戦士タイプ

  • 緑竜・マントラ(回復・補助魔法)を覚え、攻撃力もそこそこの僧侶タイプ

となっている。

主人公が戦闘で成長しない以上、3匹の竜が今作の成長要素を一手に引き受けることとなる。
特に双子の竜は、仲間になった直後こそ頼りないが、その後はすくすくと成長していき、後半では主人公や白竜を超えるほどの戦闘力を発揮する。
双子の竜の成長は、全体的に単調な今作の戦闘において数少ない楽しみであり、主人公が成長しないのも相まってより竜の成長の印象が強くなる。
竜使いという主人公の設定を、うまくシステムに落とし込んでいると言え、またこのシステムが、終盤のアムリタの言葉に強い説得力を与えている。
この、システムとシナリオが相互に補完することで得られる独特の高揚感こそが、まさにゲームでしか味わえない、ゲームの醍醐味の一つと言えるだろう。

はらたま

わざわざ一つ項目を設けてまで書くことか?とも思ったが、なんとなく書いておきたい気がしたので。
はらたまとは、サンサーラ・ナーガ2の世界に登場する立ち食いそばチェーンのことで、全世界に64店舗存在する。
始めて訪れた店で注文するとスタンプがもらえ、階層ごとの全店舗でスタンプを集めると景品がもらえる。
また、店によっては回復ポイントやセーブポイントも存在し、旅人にとって憩いの場となっている。

このはらたま、前作にも登場したほか、押井守氏の代表作の一つである映画「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」にも登場していた(ただしこちらは牛丼チェーン店)。
いわば一種のスターシステムなのだが、ゲーム中での使われ方が印象的で、多くのプレイヤーの思い出にも残っているようだ。

気になった点

今作をプレイしてもっとも気になったのは、全体的なテンポの悪さ。これはシナリオ面とシステム面両方に存在する。

シナリオ面では、お使いイベントの多さが最初から最後まで目立つ。
今作の世界が階層構造なのは先に述べた通りだが、そのため1つの世界はそれほど広くはない。その決して広くない世界で、なんだかんだ理由をつけて行ったり来たりのお使いイベントがかなり多い。
例えば双子の竜が産まれたのち、ギルドに届け出を出すイベントがあるのだが、ギルドの建物内を受け付け・書類の記入・届け出などで右往左往させられる。しかもイベント中に定時を過ぎてしまい職員が仕事をしなくなるので、一泊しないことにはイベントが進行しない。まさにお役所仕事。作中のNPCも愚痴っているが、今作のイベントの大半はこんな感じである。
RPGと言えばお使いイベント、という印象は特にオールドゲーマーなら少なからず持っているかもしれないが、実際のところ1994年の当時でも露骨なお使いイベントはすでに使い古された手法であった。

次に戦闘面についてだが、今作の雑魚は全体的にタフで、中盤以降はパーティー全員で集中攻撃しても雑魚一体を一ターンで殺しきれない。当然多くの雑魚は徒党を組んでくるため、一回の雑魚戦を終えるだけでも10ターン近くかかることも珍しくない。
さらに厄介なことに、今作のエンカウント率はかなり高く、戦闘後に数歩歩いてまた戦闘、ということが結構な頻度で起こる。
ここに前述した武器防具の消耗が加わるため、一回の雑魚戦での消耗はけっこう激しく、しかも高いエンカウント率も相まってかなりストレスのたまる仕様となっている。
幸いにも逃走の成功確率は高めなので、面倒な雑魚戦は逃走するのが正解である。

ちなみに今作のクリア時間はおよそ20時間ほどだが、上記の仕様で水増ししている印象が結構強い。おそらく、シナリオ本編だけを切り取ったら10時間程度のボリュームと思われる。まあ、本編だけがゲームの全てじゃないと言われればそうなのだが…

もっとも、お使いイベントやエンカウント率でボリュームを誤魔化す手法は、当時のRPGでは少なからず見られた傾向である。
技術力や表現力が限られた当時は、いかにプレイヤーに長く楽しんでもらうか?と考えた時に上記の方法を採用することは、決して珍しくない。
DQやFFが高い評価を得たのも、当時のRPGとしては露骨な時間稼ぎがあまり見られなかったことも、少なからず影響しているのではないかと思う次第である。

総評

良くも悪くもSFC時代のB級RPGと言った感じである。
全体的なテンポの悪さは当時のRPGとしても厳しいものがあるし、戦闘バランスもいいとは言えない。派手な演出はなくグラフィックも地味である。
だが、独特の設定と世界観、その世界観をうまく表現したシステム、印象的なシナリオなど、見るべきところもまた多い。
決して派手ではない、だがその中で自分たちの持ち味を生かすべく、できる範囲でやれることは全てやった、そんな気骨を感じる一作である。

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