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白いメモ帳

久々にペンを握った。
ペンといっても、実際に握っているわけではない。今時わざわざアナログで書き物をする理由もない。だから正確には、「パソコンの前に座り、メモ帳を開いた」という方が妥当であろう。
どうしてこんなことをしているのかといえば、私がよく訪れるサイトの一つが、近く小説のコンテストをやるというので、物は試しと思って書き始めようとしたわけである。

しかしながら、特にあてもなくメモ帳を開いただけだから、当然アイデアなど何もない。そもそも、小説を書くのは得意ではない。過去に何度か筆を執ったことはあるが、全く納得いく出来にならずに、インターネットという大海の藻屑にすらなることなく、ゴミ箱フォルダに移動させたものが幾つかあるだけだ。小説そのものよりは、むしろ宣伝文やキャッチコピー、あるいはフレーバー・テキストを作る方が、性に合っているとまで思い始めた。

そんな調子だから、かれこれ30分は経つが、いまだに白紙のメモ帳と作業用に流している配信だけがディスプレイに映し出されている。もし私に編集者がいて、「進捗どうですか」とでも尋ねられようものなら、WIPと題した0KBのテキストファイルを送りつけるよりほかない。
変わったことといえば、左手の配置がWASDからホームポジションに移動した、それだけである。

ふと、静まり返った部屋にストーブが燃料を飲み込む音が響く。今は火がついていないのにどうしてそんな動作をするのかは知らないが、私は一旦ペンを置いて―ハイカラに言うなら、アウェイ・フロム・キーボードして灯油を補充しに行くことにした。

外は思ったより寒くなかったので、灯油をタンクに入れる動作は全くの滞りなく終わった。休日だというのに住宅地は相も変わらず不気味なほど静まり返っていた。尤も、騒がしいのが苦手な私としては嬉しい限りである。
灯油が少し手についてしまったが、外に出たからにはどちらにしろ手を洗うので大した問題ではないだろう。

手を洗い、部屋に戻って、パソコンのロックを解除する。スリープを解除したディスプレイは、私を愕然とさせた。
―なんということだ!私の書いている小説は未だ白紙じゃないか!

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