あきらめても
私の息子はADHDなんですが、不注意型というものに分類されるようで、とにかく忘れ物、なくし物が多いです。
使ったものを、元の場所に戻すことがなかなかできません。
これについて、私は息子がADHDだとわかった時に、ほっとしたのを覚えています。
息子の努力が足りなかったんじゃない、脳の作りのせいなんだ、もう怒らなくてすむ。
心底ほっとしたのと同時に、忘れ物、なくし物について、私はあきらめたのです。
私にできる事といえば、毎晩毎朝、薬は飲んだの? 宿題の○付けはしたの? 今日は、明日は何を学校に持っていくんだっけ?
とひたすら声かけをするくらいだと思っていました。
大丈夫、用意してる、持ってるよ、いってきます!
と息子が飛び出した後の玄関には、しっかり準備して靴を履くまではきちんと手に持っていたはずの絵の具セットが置き去りにされてた…
なんてことは日常茶飯事でした。
なので、私は息子の忘れ物、なくし物に対して、慣れきってしまってました。
これでも、一年生の頃に比べたら、ずっとしっかりしてきましたし、何でも自分でできるようになりました。
日々確実に成長している、というのもしっかり見ているので、息子の忘れ物やなくし物について、そこまで気にしていなかったんですね。
だって、脳の作りのせいだからと諦めていたんですから。
ところがですね。
新しく息子の担任になった先生が、忘れ物に厳しいのです。
その上、何でも思ったことをズバズバ言うタイプの先生で、忘れ物やなくし物以外の事でも、その発言に私の息子は度々衝撃を受けて帰ってくるようになりまして。
息子は、不注意ですけど記憶力はとてもよくて、ちゃんと集中して聞いた話はしっかり覚えて帰ってきて、なんでも事細かに私たち親に説明してくれるのです。
それを聞くにつれ、担任の先生とは、息子とも私たち両親とも、相性がよくないなと常々感じていましたが、とうとう、「もう学校行きたくない」と息子が泣きべそをかきながら帰ってきたんです。
相性はよくないな、と思いつつも、それまでは私は担任の先生に対して悪い印象を持っていなかったのですが…
やはり私も母親なんですね。
その瞬間、めらっと怒りがわきまして…。
聞かされた話自体はたいしたことないんです。
息子よ、そんなことでめそめそしてどうする、という程度の先生の発言なんですが、そういうものが二ヶ月の間に積み重なって、我が子が学校へ行く意欲をなくしている…!
子供のやる気や意欲を失わせるなんて、小学校の教師が一番やったらだめなことなんじゃないか!
と、珍しく激怒したんです(笑)
でもね、直接担任の先生に文句を言っても、何の意味もないなとわかっているんです。
私よりだいぶ年上の担任の先生は、すでに完成された価値観と、確固たる自我をお持ちです。
自信を持って教師として邁進してるんだな、というのが感じられていたのでね。
それでも一応、教頭先生に相談させてもらったのですが、その後も担任の先生の発言などはやはり変わらず。
それどころかむしろフルスロットルでもう絶好調(笑)
ほんの数日で、私や夫を唖然とさせる発言の数々がもう、息子の口を通して出るわ出るわ…
それで私、また激怒したんですよね(笑)
で、息子に言ったんです。
「息子! お母さんはね、息子がどんなにお利口さんなのかちゃんと知ってるよ!
その息子に向かって、こんなこと言うなんて、お母さん許せないよ!
だからさ、もうこれ以上むかつくこと言われないように、なるべく関わらないようにしよう?
そのために、お母さんもがんばるから、息子もがんばって、忘れ物もなくし物もしないようにしようね!!」
息子も、目をうるうるさせながら、
「うん、僕がんばる!」
と。
二人で決意を新たにしたあと、私はとってもすっきりして、上機嫌で夕飯づくりを再開したんですが…
あれ? と
忘れ物、なくし物にたいしてそこまで気にしてなかったし、劇的に改善することなんてたいして期待していなかった私が、ここにきて、忘れ物をゼロにしようと奮起してる??
え? もしかして、先生このためにわざと悪役に……?
なーんてね!
絶対そんなことないんですが(笑)
でも、私は本当に心から感動したんです。
諦める、という言葉を私は嫌いじゃない、むしろ好きな言葉です。
諦めることで道が見つかることもありますし、心をお大きくふさいでいるブロックを外すことができる場合も多いからです。
でも、諦めたからといって、可能性を閉ざす必要はないんだなと、先生のおかげでわかったんですから。
そんな方向に意識が向くと、今度は担任の先生に対して、尊敬の念まで湧いてきたんですよ。
だって、保護者に怒鳴り込まれたりしてもおかしくない発言だってたくさんしてるんですよ。
わたしが教頭先生にチクったように、これまでさんざん保護者からクレームが来てると思うんですよね。
でも、何もこたえてないんです!
ちょっとくらい上司に注意されても、揺らがないんですよ!
誰に何を言われても、どんなに人に嫌われても、決して自分を変えないし、曲げない。
何があっても、自分が思ったことを言うし、言いたいことを言う。
すごくないですか?
なかなかできることじゃないですよ。
いつもいつでも、自分と相性のいい人との出会いばかりではありません。
苦手な人と同じグループで仕事をしなくちゃいけなくなったり、一年間同じクラスで過ごさないといけなくなったり、そんなこともあります。
でも、それを「不運」だとか、「不幸」なことだと思う必要はないんじゃないかな、と思います。
そうなってしまったことは、仕方がないと諦めて、じゃあそこからどんな景色が見れるんだろうと、きょろきょろしていろんな角度から物事を見てみたら?
人生、何がどう転がって未来につながっていくのか、わからないんですから。
どんな環境でも、自分がそこから何を感じていくのかは、自分次第です。
その経験、その出会いに、意味があったのかどうか、それを決めるのは自分自身ですもんね。
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