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世界フラワーデー


街中が花で溢れている。

都会の街角の、忘れ去られた茶屋の木格子越しに外を眺めながら、彼らはしめしめ、といった様子で茶をすすった。


「困りごとがある」


と、エダハナが発言したのは数ヶ月前の定例会議のことだ。年齢、性別さまざまな会員たちが一様に隅っこの席を見る。いつも気難しい顔で浅く腰掛けているエダハナが発言するのは、かなり珍しかった。

年齢不詳の会長がゆったりした口調で尋ねる。

「エダハナ君。なにかな?」

「花が売れん」

眼鏡の奥にしかめ面が作られた。そういえばエダハナは花屋だったな、と皆がそのとき思い出した。

「花か〜」

会長は穏やかにニコニコしている。

「じゃあ、花で街を征服しちゃおっか」

会員たちは皆、会長のこの顔を見るたびに、幼少期の頃のワクワクを思い出す。


規格外で売り物にならない花の引き取り手を、会長の"ちょっと言えないツテ"を使ってリサーチし、そのリストに指示書を添えて、花々を送った。
花を送った人たちの中で指示書に則って動いた人々は、組織メンバーによって求人中の様々な企業へ紹介された。表には募集を出していない、優良企業ばかりだ。

時間というのは、可能性だ。
費用はプロジェクトに賛同した人たちによってほぼ3/1に抑えられた。それでも発生する出費は会費を使って建て替えられ、後に、人材が紹介された企業から支払われた人材紹介料によってバックされた。


そうしてあとは、花を売るだけだった。


人間は、つくづく社会的動物だ。と、エダハナはニュースを見ながら思った。共感し、同調し、和を乱さぬようにする。それがたとえ、根拠のないブームだったとしてもだ。


街中が花で溢れている。
SNSでは早くも、花を二次利用する"ていねいな暮らし"が話題になっている。


どこかのニュースが報道した。

「街ゆく人々が花を買う現象が頻発した素敵な偶然を記念し、世界フラワー連盟は本日を"世界フラワーデー"といたします」


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