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中鉢教授という男 ​

このnoteには小説版STEINS;GATEのネタバレが含まれています。

シュタインズゲートには紅莉栖の父親である中鉢教授もとい牧瀬章一という人物がいる。作中で彼は、タイムマシンを本気で作ろうとしているトンデモ科学者として扱われており、彼自身も自分を否定する周りの人間に対し敵意を剥き出している。
シュタインズゲート本編では彼はあまり登場しなかったが、小説版では紅莉栖視点なのもあり、彼がどういう人間だったのか、その片鱗を見る事が出来た。
今回は小説版を読んで中鉢教授がタイムマシンについてどういう考えを持っていたのか、何故彼はあそこまで周囲に敵意を剥き出していたのかについての仮説を書いていく。


そもそも中鉢教授がタイムマシンを完成されていたら彼はそのタイムマシンを使って過去を改変するだろうか?僕は迷わず彼は、タイムマシンを使って自分の都合の良いように過去を改変すると思う。
タイムマシンをトンデモ科学と馬鹿にしてきた人間全てを、タイムマシンを使う事によってその存在もろとも消し去ろうとするだろう。


しかしタイムマシンには過去改変と同時に因果関係が変わった事によるバタフライ効果も付きまとう。
タイムマシンを理解し、研究している人間なら、そのバタフライ効果の計り知れないリスクも承知なはずだ。しかし彼は周りの人間、それこそ自身の娘を退けてまで、タイムマシンにのめり込んでいる。
自分が愛して止まない物を散々馬鹿にされたのなら、その馬鹿にした人間を憎み、そしてそれ以外の人間に対しても「自分の事を馬鹿にしているのではないか」と疑心暗鬼に陥ってしまうのも無理もない。


しかし彼のタイムマシンへの思い込み具合から察するに、そのバタフライ効果のリスクは取っ払い、ただタイムマシンを完成させたい、タイムマシンでタイムトラベルしたいという思想に支配されていて、躊躇しているようには見えなかった。自身の娘さえも、天才と謳われている程の頭脳を持っていて、そこへの嫉妬からとは言えど、電話越しで直接「お前の存在を消してやる!」と言っているのだから、もはや自分を裏切らないものはタイムマシンだけだと信じて疑っていなかったのだと思う。


中鉢教授をそういう人間に変えてしまった原因は他にもあると思う。それはタイムマシンに対する万物感だ。
「タイムマシンが完成すれば全てを思い通りに出来る」そういった考えがなければ、自身の娘に対して「タイムマシンを使ってお前の存在を消してやる!」などと考えるはずもない。
彼の敵意は、自身の威厳を馬鹿にされただけでなく、タイムマシンが完成すれば、全てを無かった事に出来るという願望が彼をそうさせてしまったのだろう。

本編で彼が紅莉栖に対して一瞬たりとも優しさを見出した事はなかった。しかし、彼女は実の娘だ。そして小説で彼は過去に、秋葉幸高と鈴羽との会話で「流石は我が娘だ!」と自分の娘の事を誇らしげに語っている。
元から彼女に対して憎しみを募らせていたのなら、彼女の優秀さをそこで讃えたりしないだろう。彼が過去に行った鈴羽と出会い、タイムマシンの研究をしている鈴羽に出会う。そしてタイムマシンと出会った事で、紅莉栖に対する印象は「素晴らしい娘から」「タイムマシンを否定する人間」という憎しみに変わっていったのだ。

未来を平和な世界へと変えるべくタイムトラベルしてきた鈴羽が当時研究していた、タイムマシンに中鉢教授が出会い、そのタイムマシンが彼と紅莉栖との間に絶壁の溝を作ってしまっただから、この小説を読んでいた僕は、なんとも言えない気持ちになった。

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