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はじめは、ビー玉だった。

【連載】あれこれと、あーと  Vol.1

幼い頃、夜市に行くと真っ先にやったのが「宝石すくい」。

ビニールプールに浮かべられた、チープなおもちゃたち。煌びやかなビー玉やアクリルアイスが水の中でジャラジャラとひしめき合って、それらが夜市のギラつく光に照らされると、眩いばかりの輝きをみせる。その様は、幼い少女の心を射止めるにはじゅうぶん魅力的だ。

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母にねだったのか、なけなしのお小遣いから捻出したのかは覚えてないけど、帰る頃にはてのひらいっぱいにビー玉。ニコニコ顔の私。大人たちは「どうすんの、そんなに」「また無駄なもの買って…」などと口を出してくるけど、私は全く後悔なんてしてなかった。使い道は決まっていたから。

家にあった六角形のプラスチック容器を綺麗に洗い、冷たい水をそっと注ぐ。大切にとっておいたオーロラ色紙を千切って浮かべて、夜市のビー玉を沈めた。こぼさないよう注意しつつ、自室の本棚の上にそっと置くと、なんともいえず満ち足りた気分になった。

水のゆらめきで歪に輝くビー玉や色紙たちは、いつまでも眺めていられるほど綺麗だ。私だけの美しい水甕。これが、自分の部屋を彩ることに快感を覚えた瞬間だった。

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「空間を飾る」こと。その行動と心はどこからくるのか。

疲れて帰ってきた時、好きなものに迎えられたらホッとするし、友人を呼ぶと、心なしか誇らしい気持ちになる。大切なものや好きなものがそばに在るということは、思いのほか良いものだと気付くのだ。家を飾るということは、そんなところからはじまるのだと思う。

十数年が経ち、当然のことながらビー玉を沈めた甕はもうなくなった。でもあの時、はじめて自分の空間を彩るために、工夫しながら飾り立てた時の高揚感やときめきは今でも忘れない。

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