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イトペへの手紙

はじめに

MMORPGとして展開されているドラクエのナンバリングタイトル「ドラゴンクエストX オンライン」。
2012年のサービス開始から8年以上続いているこのゲームでは、長年のアップデートのなかで様々なクエスト(ストーリー)が追加されてきたのだけれど、色んな場面で懐かしの旧作キャラがゲスト出演することがある。
インスタンスダンジョンにはドラクエ4からトルネコとミネア、ドラクエ6のテリーが出張してきているし、季節限定でベラ(ドラクエ5)やアギロ(ドラクエ9)に出会えるイベントもある。
そんな歴代キャラたちの中で別格の扱いを受けているのがドラクエ3初出のキャラクター、カンダタだ。
インスタンスダンジョンに現れる他、なんと専用のストーリークエストまであるのだ。
しかも単に登場するだけでなく、最後にはプレイヤーと同じパーティに入ってボス戦で共闘するという破格の扱い。
このクエストを遊んでいるとき、僕はある記憶が蘇ってきた。

F小学校夏休みのプールにて

「なぁ、カンダタが仲間になるって知ってる?」

同じクラスのイトペがそんなことを言い出した1988年8月。ドラゴンクエスト3が発売されるやいなや大人気となってから半年後のプールサイド。
僕らは小学三年生で、夏休みに解放されている学校のプールは社交場だった。

「俺の上のほうのアニキの友達が知り合いから聞いた話らしいんだけど…」

休憩時間のプールサイドでイトペが話し始めたそんな又聞きの又聞きのようなウワサ話はこうだった。

「その知り合いの人ってのがコンピューターの天才でさ。プログラムをハッキングしてわかったらしいんだけど、カンダタを仲間にすることができるんだって。でも文字数の制限があるからカンダタじゃなくて『カンタタ』になっちゃうらしいけど」

「コンピューターの天才」「プログラムをハッキング」という、いかにも小学生な素敵ワードに頭がクラクラしてくるけど、この際そこは無視していただきたい。
「文字数の制限のせいでカンタタ」という点は、本名がノブヒトだったために「ノフヒト」でのプレイをせざるを得なかったイトペの心の叫びでもあったと思っていただきたい。
プールから拾ってきたオセロ状の塩素で水切りをしながら、イトペが続ける。
「ランシールの洞窟ってあるじゃん?あそこで一人になったままシャンパーニの塔にいって、そのままカンダタを倒すと仲間になるんだってさ」

いまにすれば、これは後の世で「ランシールバグ」と呼ばれているものが間違った形で伝わっていること、そしてシャンパーニの塔でのカンダタ一戦目が実はスルーできる仕様であることがあまり知られていなかった為に、そのような間違ったウワサが生まれたのだとわかる。
実際のランシールバグにそのような仕様はないし、タイトル画面まで容量を削ってシンプルなものにしたドラクエ3にカンダタの仲間データなんてものが入る隙間なんてあるはずがない。
しかしながら当時の僕らは小学三年生。裏ワザの情報は大技林を待つより他なかったし、裏ワザについて「どうしてそういう現象が起こるのか?」を考えることもしなかった。インターネットが普及するのはずっと後のことだ。

プールの休憩時間は終わり、もうプールに入れる。
しかし僕はもう、プールなんてどうでもよくなっていた。僕の心は既に「そして伝説へ」動きだしていた。
「なあ、お昼ご飯食べたら俺んち集合でさっきの裏ワザ試そうぜ!」

お昼ご飯の焼きそばをかっこんで、イトペともう一人のクラスメイト、マッスーを待つ。
夏休みの心霊特集を組んでいたテレビを見ながら待つこと30分、自転車を走らせてイトペとマッスーがやってきた。
手にはもちろん、ドラクエ3のカードリッジを握りしめていた。イトペのカードリッジにはマジックでデカデカと「いとう」と書いてあった。

さっそく裏ワザを試すことにしたのはいいけど、いくつか問題があった。
そもそも裏ワザの発生条件がいまひとつあやふやなこと。そしてランシールまで到達していて、尚且つカンダタをスルーしているセーブデータが必要なこと。
普通にプレイしていれば、シャンパーニの塔のイベントをスルーすることはまずあり得ない。もちろん僕らの持ち寄ったカードリッジにも、その様な状態のデータはなかった。
0から進めるという手もあったが、それは絶望的な時間がかかることを意味していた。現在のRTAでは3時間をゆうに切っているけれど、当時の僕らにそんな知識もスキルもなかったし、ロマリアに行くまでに日が暮れるのは明らかだった。
「とりあえず、ランシールで一人になった状態で外に出れるのか、それを確かめてみよう」
誰が言ったかは覚えていないが、そんな話にまとまった。
ちょうど僕のデータがいざランシール、というところにいたので、そのデータで試すことになった。

ランシールに到着し、神官と話す。
一人になった状態でのルーラは当然使えない。
ああでもない、こうでもないといろいろ試しているうちに、戦闘終了後にパーティが先頭の戦士だけになった。
「あれ?勇者は?他の仲間は?」
ドラクエ3を遊んでいた方はご存知であろうけれど、ドラクエ3では勇者は基本的にパーティから外せない。
外すことが出来るようになるのはクリア後のお楽しみであり、冒険途中で勇者がいなくなることは、美味しんぼで山岡士郎が化学調味料を使うのと同様、あり得ないことである。
通常あり得ないことが起こった、すなわち裏ワザが起きている、という興奮もあったが、それ以上に残りのパーティ、そして勇者がどこに行ったのか不安になった。
バシルーラのことを考えれば、ルイーダの酒場に戻っているのでは?と思い、アリアハンに向かう。
「ここはルイーダの店。旅人たちが仲間をもとめて集まる出会いと別れの酒場よ。どんな仲間がおのぞみかしら?」
消えた僧侶と魔法使いは確かにそこにいた。だがしかし勇者がいない。
ランシールに戻ってみても、勇者はいない。
意味がわからなくなりロマリアのお城の王座に行ってみるも、もちろんそこにも勇者はいない。
「勇者消えちゃったじゃん!!カンダタどころじゃないじゃん!!」
あとは皆さんの想像通り、大ゲンカになってしまった。
「もう絶交だ!一生口きかないからな!」といってその日は別れたものの、ほんの一週間後に仲直りをすることになる。
何故ならばイトペから借りていたファイナルファンタジー2のセーブデータを、誤って僕が上書きしてしまったからだ。
等価交換なセーブデータの破壊により、国交は正常化したのである。

それから件の裏ワザを試すことはついぞ無かったけれど、いまでこそイトペに言いたい。

「ついにカンダタが仲間になるよ」と。

ドラクエ10でのカンダタ共闘は、当時の僕らの夢が一つ叶ったと言えるではないだろうか。
おそらくイトペもマッスーもドラクエ10をやってはいないだろう。
そもそも僕自身もドラクエ10を休止して久しい。
しかし同窓会で会うことがあったら、カンダタの話から30年越しの冒険の旅に誘ってみよう。
僕たちの伝説はまだ始まっていないのだ。

#ゲーム #ドラクエ #ファミコン



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