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DUO 3.0の例文を暗唱すべきではないと考える理由+真の暗唱用手本の探し方

DUOという英単語帳があるらしい。

ガリレオ自身の語学学習において、基本的に単語帳というものは無縁の存在なので、今まで漠然と名前は耳にしたことがあっても、手に取ったことすらなかったのだが、Skypeレッスンの生徒が自己学習で使っていると聞いて、この度 Amazonで調べてみた。

しかし、試し読みで見られる凡例のページに載っている例文を一瞥しただけで、「これを暗唱に使うべきではない」と判断するに至った。

米国の大学教授3名を含む15名のネイティヴと共に完成させた「暗記する価値のある英文」です。

などと銘打っているが、次の例文を凡例に挙げて憚らない言語感覚には問題があると考える:

I don't think those pants look good on you. Try these on. They're really in now!

言語の使用場面を弁えよ

仮に、上の例文を暗唱できたとしよう。しかし、それで意気揚々と(?)、人に対して口にしたとしたら、英語は話せるようになったとしても話す相手がいなくなる。

これは要するに、服選び中の相手に面と向かって「そっちは似合わないから、こっちにしなよ!」などというのは押し付けがましく失礼であり、以前解説した【相手の領域に土足で踏み込まないアングロ・サクソン文化】の重大な侵害となる発言ということである。(ノンネイティヴの話す英語が「アングロ・サクソン文化」を遵守すべきか?という議論はあろうが、いずれにせよダイレクトに服装が似合わないと言い放つことを是とする文化はなかろう。)

ことばには血が通っている。

どんな場面で、どういう関係の相手に、どのような目的で口に出す文なのか?—すなわち、言語の使用場面を思い描くことを抜きにして、ことばを学ぶことはできない。

学習用の例文に「自然さ」は不要?

以下のような反論をする者もあろう:

「暗唱用例文」といったところで、実際の英会話では丸暗記した文をそのまま話すわけではない。これらは単語やイディオムを覚えるきっかけにしか過ぎず、「例文が自然じゃない」などと目くじらを立てるのはおかしい。

サッカーの試合で実際にリフティングをする機会はなくても、リフティングの練習はボールの扱いに習熟するのに有効だし、‘This is a pen.’が不自然なのはわかるけど、‘This is ~’の文法を習うための例として使っているだけなので問題ない(学習が進めば修正していける)。

まず、このようなことを言う輩に限って、リフティングのような練習(→ DUOを n周しました!)に終始して試合に出るためしがなく、より実践的な戦術的知識(英語で言えば、it is true that... の先には butなどの逆接表現を予測する、など)にも習熟していないことが多い。

また、「では ‘This is ~’で始まる、より自然な英文を作ってみよ」と言うと、結局より良い例が思い浮かばず、暗記した ‘This is a pen.’に引っ張られてしまう人も少なくないのではなかろうか。

現実の話として、学校教科書でさえ、言語の使用場面に配慮した工夫が施され、‘This is a pen.’のような例文は旧時代の産物となっている。それにも関わらず、学習者の側が前前前世の思考から進歩を遂げないのであれば、どんなに教材が工夫されたとして、効果は知れたものだろう。

さらに、DUOの例文は「きっかけ」に過ぎず、様々な場面で実例に出会うことで記憶が定着していく…という点を正しいと考えるにしても、最初のきっかけ自体が歪んだものである場合の弊害を見過ごして良いことにはならない。

DUOの宣伝文句通り、1文の中にターゲットとなる単語や表現をちりばめることにより効率的な学習が可能になることが目論まれているとしたところで、後で自然な使用場面とのズレをいちいち修正していかなければならないのだとしたら、「効率」とやらも差し引きマイナスに終わってしまうだけであろう。

学習理論の知見に逆行

そもそも、「重要単語・熟語を少ない例文に凝縮→最小の努力で最大の効果!」という一見もっともらしい囁きが、認知科学に基づく学習理論の研究成果と全く逆行していることにも注意を要する。

第一に、Nation (2006)によると、内容を理解しながら読むためには、全体の 98%の語彙を知っている必要があると示唆されている。

これに対し、DUOは 1つの例文に学習目標となる単語・熟語を複数盛り込んでいる。ということは当然、学習者は毎回ほとんど知らない表現から成る例文に直面することになり、「効率」という割には学習の負担が莫大なものとなる。今回の記事を書くにあたり検索をしてみると、DUOには挫折者も少なくないそうであるが、無理もないことであろうと想像がつく。

加えて、Kirschner et al. (2006)では learningは ‘a change in long-term memory’と定義されており、現代の学習理論は「新しい知識は長期記憶に蓄えられた知識と結びつくことで獲得される」と示唆している。ここで重要かつボトルネックとなるのが working memoryで、新しい知識を一度に大量に詰め込もうとしたところで、working memoryの処理能力は(鍛えられるとしても)限られている。「効率よく一気に単語・熟語を覚えよう」と息巻いたとしても、望むような効果が実際に得られる可能性は決して高いものではないと言えよう。

真の「暗唱用手本」とは?

国語の授業で、いわゆる「名文」と呼ばれる文(章)を暗唱させられることがある:

隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった。
—『山月記』(中島敦)

いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
—『源氏物語・桐壺』(紫式部)

山路を登りながら、かう考へた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。
—『草枕』(夏目漱石)

中高生の頃は「こんなものを覚えて何になる」と考えてしまうものですが、洗練された日本語表現として、日本語母語話者の言語感覚の根幹を伝統的に養ってきた名文たちと言って良いでしょう。

外国語学習においても、【暗唱】するだけ何度も手本をさらうならば、やはり名文を用意するのが好ましいのです。

『英語達人塾』の第6章「暗唱」で紹介されているような、Bertrand Russellや W. Somerset Maughamなどの文章は当然格調高いですが、そこまで行かなくとも、『英語で楽しむ英国ファンタジー』の中で扱われている

・『ハリー・ポッター』シリーズ
・『メアリー・ポピンズ』
・『チャーリーとチョコレート工場』
・『ピーター・パン』
・『不思議の国のアリス』/『鏡の国のアリス』

などにも、暗唱に値する名文がたくさんあります。ディズニー映画の名台詞などから始めても良いでしょう。

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DUO 3.0を使って語彙を拡張したいという段階の学習者ならば、多読学習にも漕ぎ出していけるだけの実力のベースはついているはずである。

「学び」に「効率」を求めるほどに失敗する。

たった1つの単語を覚えるために、丸1冊読んだって構わない。実際に得られる効果は、決して「単語1個」にはとどまらないのだから。

あくまでも1サンプルに過ぎませんが、そのように学んできて、一度も DUOに触れることもなく、ささやかながら IELTS overall 8.0の成果をあげた実証がここにいます。

もちろん最終的に自分の学習をデザインするのは自分自身ですが、参考にしてもらえればと思います。

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