その姿は勇敢か CL準々決勝2ndLeg アトレティコvsシティ(H) 2022.4.13
運命を決する2ndレグ。
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●スタメン
・アトレティコ
オブラク
ジョレンテ / サヴィッチ / フェリペ / ヘイニウド / ロディ
コケ / コンドグビア / ルマル
グリーズマン / フェリックス
ジョレンテが右大外。中盤はルマルが先発。ポジトラで重要な役割を果たす。
・シティ
エデルソン
ウォーカー / ストーンズ / ラポルト / カンセロ
ロドリ / ギュンドアン / デブライネ
ベルナルド・シルバ / フォーデン / マフレズ
ウォーカーが出場停止明けでスタメン復帰。
ルベン・ディアスはベンチ入り。3トップは左からベルナルド・シルバ、フォーデン、マフレズ。
●前半
・5-4-1撤退
前半のアトレティコは5-4-1でセット。
5-4-1プレス
フェリックスがCB2枚の方向限定。彼はここを非常に良くやっていた。100点をあげていいタスク遂行だったと言っていい。本当にチームのために動ける選手になった。それが自分の利益になると理解できる選手になった。
後ろはフェリックスの限定に連動して前へ前へ出てくる。主にコケがロドリに向かって出てきて、その次をコンドグビア。浮く方のIHは最終ラインに任せて強気にプッシュ。一定の効果のある前プレ。ギリギリのバランス。
降りてくるトップに対してCB、サヴィッチやフェリペが受け渡さずについてくる。新しいアトレティコの守備だ。あの日から続く文脈の先。ヘイニウドが後方カバーをやってくれると信じて。ヘイニウドは大外のマフレズにロディがつけなかった場合、CB(サヴィッチとフェリペ)が前に飛び出た場合の両方のカバーを全部やる。重い守備タスクだったが、それが出来る選手。
撤退。
こちらも同様。ロドリを消すためにコケ、コンドグビアが前進。降りて受けにくるIHとトップ(フォーデン)にCBがついて出てくる。アトレティコらしくない、新しい守備だ。後方に余りを残さない強気な設定。前半24分のフェリペの一枚目のイエローカードは擁護のポイントがなさそうに見えたが、”後方に余りがない”環境でプレーしている事は指摘しておきたい。
いつもと違う環境で、CBは自分の飛び出たスペースの責任を自分で負っている、ストレスのかかる試合であった。ここでフェリペが”外されるくらいならファールで”と考えてしまった事は理解したいポイント。まあイエローの場面では後方人数足りてるんだけどね。
・リスクの負い方、ネガトラは根性
ボールを奪ってからは速い展開で攻撃。この試合はフェリックスだけでなく、ルマルも保持のポイントになれる。良い日のルマルだった。あとはコケの異常運動量で足りないところを補完する中盤の働きは見ていて気持ち良かった。
それと、この日はCHにコンドグビアがいた事がプラスに。彼の大外へのロングボールの質はこのレベルの試合でも十分に通用。正直無理かなと思っていた。申し訳ない。ユナイテッド戦と同様に、前向きのプッシュでボールを奪い、大外のWBへロングボールを送る、という役割は彼に適任。見事に遂行していた。コンドグビアが良かったのもあるがそれ以上に、コンドグビアのところでボールを回収できる試合にできた事が良かった事かなと。
速い攻撃に人数をかける分、この日、ボールロスト時は胃が痛くなるようなリスクを負った。3つほどのシーンを
1つ目。
GKエデルソンがハイボールをキャッチ。
マフレズへボールを送ると、中央でギュンドアンとデブライネがフリーで待っている。簡単に3対3をゴール前で作られそうな危険な配置。
2つ目。
同じくGKのキャッチから。
ギュンドアンにボールを渡すとアトレティコはコケまでもがPA内へアタックしており、びっくりするほど中盤がガラ空き。後方4枚残っていたので事なきを得た。速い展開で攻撃が完結しているので、最終ラインの枚数は余っていたりする。
3つ目。
右大外でジョレンテがボールを持っており、PA内の人数で圧倒的にアトレティコが優勢。クロスを送り込むが、ウォーカーで引っかかり、セカンドボールを拾ったマフレズから中央へ。
洒落にならないレベルでガラ空きだが、ここはクロスをミスったジョレンテがターボエンジン搭載のネガトラダッシュでデブライネを止めた。色んな意味でびっくりした。
全体的には人数をかけて相手PAに侵入していたアトレティコ。当然、5-4-1で構えたところから相手PAまで走っているので走行距離がえらい事になっていた。苦しむために選んだ戦法と言ってもいい。アトレティコにしか出来ない手段を取った。これがシメオネのやり方。
・シティのプラン変更
25分頃からシティの構築が変わる。
フォーデンとベルナルド・シルバの位置を入れ替えた。ベルナルドはIHのギュンドアン、デブライネのタスクと同じタスクをこなすような位置になり、物理的にCBがついて行くのが難しくなった。
これをゼロトップと言います。アトレティコはCB3枚が無力化され、WBはウイング(フォーデンとマフレズ)でピン。ラインを下げられたくないアトレティコCBの立ち位置がふわついたところでカンセロがウイングの外側、ウォーカーが内側を抜けてきてチャンスメイクした。アトレティコのCBがマンツーのように目の前の選手を捕まえるなら、捕まえきれないところまで降りていくと。凄いサッカーだ。信じられない。どうやって止めるんだ
シティのこの配置変更以降、アトレティコはルマル周辺でプレス回避する事も難しくなっていき、勢いが弱まった。シティのIHの立ち位置が少し低くなったからかなと。どうしたらいいんでしょうねアトレティコは。
●前半終了
まずは0-0で。苦しい180分の戦いも残り45分まで来た。あとは仕留めるだけ。そのための選択肢もベンチに多数残し、最後の戦いに向かう。この45分を待っていた。アトレティコの死に様を見せる時。
●後半
選手交代なしで後半。
結果的に、前半の29.7%に対して後半は52.7%、アトレティコがボールを握った。アトレティコの保持が安定した以上に、シティに保持を許さないという後半になった。
アトレティコが奪回を頑張ったのはもちろんある。主に中盤。
実際は、それ以上にシティの選手達の身体が動かず、徐々に支配を失っていった。前半はあまり感じなかったが、リバプール戦の影響でコンディション差があった。ここでこの180分間の戦いで初めて、アトレティコが優勢になる。
後半のアトレティコの非保持。
フェリックスと同列にコケが飛び出す。2人で両CBに圧力をかけながらロドリを使う選択肢も消す。3枚しかいなくなる中盤にロディが参加して4-4-2配置。待ってましたよ、これを。この配置で戦ってほしかったんだよ。玉砕覚悟。強気の4-4-2。
シティはボールを受けに来る選手の可動域が狭くなってしまっている。明らかに疲労。
この試合だけではない、様々な要素の先の事象ではあるが、SBやGKのところで選択肢がなくなりキックを選択。アトレティコはこのロングボールをCBが競り勝ち、中盤が必死に走り回り回収、人数をかけてサイドを攻略。非常に疲れるが、効果的な方法で徐々に徐々にシティゴールに迫る。
そこからは、ユナイテッド戦から続く流れ。中盤が前向きでボールをカットし、素早く攻撃に繋げる。ここで輝くのはもちろんフェリックスである。ここで輝くために、彼は守備を頑張っているのだ。
この日も対面するストーンズ相手に上質な駆け引きを繰り返し、ボールが出てくれば、というシーンをいくつも作っていたが、残念ながら効果的にボールが出てこなかった。このへんはチームの改善ポイントかもね。フェリックスの生かし方。
55分あたりからはさらにヘイニウドまで高い位置を取り、ロディと一緒にサイド攻略を狙う形でチャンスメイク。何故かこの日はヘイニウドとロディのコンビネーションが効いていた。何があったんだ。
そしてこの時間帯も、サイドを押し込むのにコンドグビアのキックが効いていた。
大きい展開でジョレンテを使う。あと一歩。もうちょっと。
ここから、シティはトラブル連発。
65分にデブライネ→スターリング
73分にはウォーカー→アケ
キーマン2人を負傷で欠いた。特にウォーカーの不在は、アトレティコ側もカラスコに替わっている大外の対応に手を焼きそうな箇所。
アトレティコの選手交代は69分。3枚替え。
カラスコ、デ・パウル、コレアを入れる。
交代はロディ、グリーズマン、そしてコケ。
こうなった(73分のウォーカー→アケも反映)
ロディの個人技ではどうにもならなかった左大外をカラスコが。
グリーズマンのタスクをコレアが。
デ・パウルは縦パスを刺す。コケは鬼神の如く走り回った。それでもまだやれそうだったが、ここで交代。
直後の70分には3,4人に囲まれそうなところをフェリックスが解決して最後はデ・パウル。もうちょっと。
・シティの選択肢は
79分にシティはベルナルド・シルバに替えてフェルナンジーニョが出てくる。この選択肢を持ってるのは本当に大きい。結局フェルナンジーニョは至る所に顔を出して常に邪魔だった。
・アトレティコの選択肢は
アトレティコは82分にストライカー投入。スアレスかクーニャ、と思ったら両方出てきた。交代はルマル、そしてフェリックス。フェリックスは最後まで見たい気持ちもあったが。シメオネはストライカーに懸けた。フェリックスにはシメオネに"お前は最後まで替えない"と思われる選手になってほしいな。
終盤はアトレティコに退場者も出たが、クーニャに決定機が来た。惜しかった。ロスタイムにもカラスコのFK、最後は+12分、コレアのシュートがエデルソンに止められ、万策尽きた。もうちょっと。届かなかった。
●試合結果
惜しかった。マンチェスター・シティの喉元にナイフを突きつけるくらいの事は出来たが、目的は達成できなかった。一点が遠かった。
マンチェスター・シティは本当に強い。凄いチーム。リバプール戦を言い訳にしてくれればラッキー、と淡い期待を抱いていたがもちろんそんな事はなく。しっかりと準備してしっかりと遂行してきた。素晴らしいサッカー。世界中の目標。色んな選択肢があって全部ハイレベル。全員上手い。全員替えが効かないのに、全員替えがいる。
だけどサッカーの頂点は一つの種類だけじゃないぜ、という事を見せるに足るサッカーを、アトレティコも出来たと思う。以下にまとめる。
■フェラン・トーレスに払った授業料
3CBの前向きの対応。ここ数試合で何度も誉めてきた点。この試合もサヴィッチ、フェリペ共によく出来ていた。感動した。
元々アトレティコのCBは横にも前にも飛び出さない設計になっているし、チーム全体がCBをPA前から動かされないために機能する。詳しくはこちらの記事をどうぞ
ただ、バルサ戦でフェラン・トーレスに好き放題やられた部分、3トップの中央に自由にボールを引き出された部分を、最近の試合で見事に改善している。詳しくはこちらの記事を(宣伝ばっかり)
この箇所は、フェラン・トーレスが元々所属していたシティ相手でも見事に対応出来た。高い授業料を払った。あの屈辱の惨敗は、無駄なんかじゃない。腹を立てて切り捨てるのではなく、ちゃんと見てきたからわかった事。あの試合の文脈は、この大一番に続いている。それを、おれのレビューを読んでくれている皆と一緒に確認できたね。
前へ前へと圧力をかけるプレスは機能していたと同時に、綱渡りの生命線でもあった。ここでCBが出て来れないとライン間を使われて簡単に局面がひっくり返る。再度指摘するが前半24分にフェリペがデブライネに突っ掛けてイエローをもらった場面。神経質なほどに強く寄せた気持ちは痛いほど理解できる。後方を放棄して前方に飛び出す対応はそれくらいギリギリの、綱渡りのプッシュだった。そのメンタルを考えたら批判する気は起きない。皆もフェリペに対して、そういう気持ちであって欲しいな。
■カイル・ウォーカーのネガトラ
2ndレグは出場してきた右SBカイル・ウォーカー。やはりとんでもないタレントであった。後ろ向きの対応がめちゃめちゃに上手い。そして強い。
CBストーンズの背後に回ってボールを受けようとするフェリックスを何度もシャットアウトしながらロディへのハイボールも完封。地上戦でも勝ち目無し。恐れ入った。彼のネガトラがあって、シティのサッカーは完成する。
■煮詰めきれなかった崩しのフェーズ
このレベルの相手に突き詰める事が出来なかったのは最後の崩しのフェーズ。特にフェリックスへボールを入れるところの質が伴わなかった。
フェリックス自身は味方の前向きに合わせて最終ラインで駆け引きし、ボールを引き出す動きを多用していたが、なかなかボールが出てこない。このレベルの相手に何度もやり直しながらタイミングを探る事は難しく、ピタッとボールを止めて前を向いた瞬間フェリックスへ。という形を作りたかったが、なかなか適わなかった。ここは今後の課題。ラリーガではそれとなくボールを入れて得点に繋げられている部分。先季はスアレスがどうにかしてくれていた部分。
■シメオネの180分のプラン
シティに、シーズン38試合の成績でアトレティコが勝つのは不可能だ。今のメンバーで何度繰り返しても100回に一度も勝ち点で上回るのは無理。90分の一発勝負で勝つのもたぶん無理。ギリギリ出来て引き分け。しかし、ホーム&アウェーの180分間でならば、上回る方法はありそうだった。つくづくシメオネは180分戦が上手いんだなあと思った。
どこまでがプランで、どこからが偶発なのかは検証の余地もないが、書き出してみる
・1stレグはドローで抜けたかった
まずはここ。5-5-0の配置を敷いてでも遂行しようとした条件だった。最初の90分を0-0で抜ける事。1-1は難しいと判断した。なりふり構わない無失点狙い。結果的に1点取られても仕方ない。0-0が叶わなくても1-1を目指さず、0-2を避ける。これが最初に置いたプラン。結果はご存じの通り、達成目前だったが、0-1での通過となる。
・ホームの2ndレグならば、1得点できる自信があった
自信があった、というか"取れるなら2ndレグしかないな"という話ではある。こちらも遂行目前まではいった。目前では駄目なんだが。惜しかったね。
・シティのコンディション
2ndレグ後半、180分戦の残り45分。シティの強度は明らかに落ちた。シティの保持って全体感が必要だし、疲れるよね。頭もクリアじゃないと厳しい。この日の後半は明らかに本調子ではなく。
まさかとは思うがシメオネはリバプール戦後、中2日、ワンダでの試合を見越していた?そんなわけないよね。いや、シメオネならやりかねない。
2ndレグ後半、アトレティコはシティのスピード、距離感に対して慣れもあったように思う。トランジションの中でも適切な距離で圧力をかけた。それでも奪われないのがシティの理不尽なところなんだが、この日はどうにかなったので。もうちょっとだった。本当に。
■アトレティコはどこへ逝く
25節オサスナ戦から辿り着いたここまで、様々な事を改善出来た約2ヶ月。興味深かったし、純粋に楽しかった。幸せであり、レビューのやり甲斐もある日々だった。充実していた。
アトレティコのレビューに関して、自分の我慢の効く限りなるべく批判的な指摘を我慢しながら書いている。たまに溢れ出すけど。
それはその試合、その事象に流されずに、このチームの方向性、目的、そして精神性を大切にしたいから。その日は表面化しなくとも、シメオネが達成しようとしているチームの姿を想像したいから。というか好きだからです、アトレティコが。そしてサッカーが。
そしてアトレティコの積み重ねが、文脈が、こんな試合で結実するところを書き記したいから。この日はたくさん見られた。積み重ね。文脈。全部これまで見てきたプレーだった。奇策でも何でもない。もちろん偶然なんかじゃない。文脈通り。おれの知っている、21-22シーズンのアトレティコのサッカーで、マンチェスター・シティに挑んだ。だから、勝ってほしかった。悔しいね。
でも、間違いではなかった。エクトル・エレーラシステムを通じて生み出したチームの新しいシナジーは、マンチェスター・シティをびっくりさせたぞ。惜しかった。あと一歩。あとちょっとだった。準決勝でマドリーダービー、見たかったな
アトレティコ・マドリーはCLを去る。ベスト8。マンチェスター・シティに敗戦。妥当であろう、順当であろう。ただし運命に抗った。アトレティコらしい戦いだった。ここで散る。アトレティコ・マドリーは、どこへゆく。
しかしこれだけは断言する。
最後までその姿は、アトレティコ・マドリーは勇敢であった。
4/13
ワンダ・メトロポリターノ
アトレティコ 0-0 シティ
(2戦合計0-1)
●ピックアップ選手
コケ
厳しい時こそ、苦しい試合こそ、自分が動く。足りないところは頑張りで埋める。必要なところは必ず顔を出す。今日もまさにカピタンだった。君こそがアトレティコ。最高のプレーだ。
フェリックス
可能性を示した。単独のボールキープと前進で突破口を生んだ。シティ相手でも。ワールドクラスまであと少し。
ルマル
1stレグとの違いは彼の存在だった。ロングボールを収めて攻撃の軸に。保持のポイントを作れたが、それを生かした崩しの形とまではいかなかった。
ジョレンテ
人知を超えたスピードで、ウォーカーとはまた違った形でネガトラの魔神となった。自分のミスを自分の走力で帳消しにするプレー、めちゃくちゃに好きです。強敵との戦い続きで大外の守備にもかなり自信がついている様子。というか彼は自分より足が遅い相手を舐めてかかるくらいで丁度良い。でもフォーデンに後ろから余裕で追いついたのはさすがに乾いた笑いが出た
クーニャ
終盤投入されて最大の決定機を作った。見事なプレーだったが、決めるために出てきた。惜しかった。
コレア
縦のスピードが必要だった終盤、グリーズマンに替わって出場。最終ラインの背後を狙う得意のプレーで決定機を演出した。チームに必要な仕事を果たした。
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