何故ボールを欲したか 4節 アトレティコvsソシエダ(A) 2022.9.3
アウェーでソシエダと戦う。
今季のソシエダは2勝1敗でここまでアトレティコと同じ成績。
vsカディス(A) 1-0
vsバルサ(H) 1-4
vsエルチェ(A) 1-0
苦手なバルサに負けたが、先季から選手を入れ替えながらここまでは好スタートを切っている印象。相変わらずボールが持てるチーム。
前回対戦は先季の最終節。割と最近。
●スタメン
・アトレティコ
オブラク
ヒメネス / ヴィツェル / ヘイニウド
コケ / デ・パウル / サウル / ジョレンテ / カラスコ
フェリックス / モラタ
モリーナが引き続き出場停止で、この日も右はジョレンテ。左はカラスコになったがサウルもスタメン。嬉しい。
前線は4戦連続でこの2人。まずは固定するという考え方は割と意外だが、見守っていこう。
ルマル、クーニャが怪我でメンバー外
・ソシエダ
レミーロ
ゴロサベル / スベルディア / ル・ノルマン / ムニョス
スピメンディ / メリーノ / ブライス・メンデス / ダビド・シルバ
セルロート / ショー
久保は今季初めてスタメンから外れた。
再加入となったセルロートが早速スタメン。ソシエダのやり方はわかっている選手なので問題なくプレーするでしょう。良いスピードを見せているモハメド・アリ=ショーは前節に続きスタメン。上位勢相手に通用するかどうか
なんだか良い色で表現出来たアトレティコの2nd
●前半
・ボールの行方は
やっている事は違えど、互いに”ボールを持ちたい”という意志を感じる前半戦。ソシエダはボールを持ってプレーしたい。アトレティコは回数は少ないにしても保持して押し込む時間は作りたい、という。アトレティコはメンツ的にもそんな気持ちが見える。
ソシエダの保持。
2CB+スビメンディで進む。スビメンディは間受けも出来るしCB間サリーする事もある。捕まえどころの難しいビルドアップ。まあだからこそソシエダはラリーガトップクラスのボール保持チームなわけだが。
ソシエダは4-3-1-2のシステムの都合上、大外の高い位置は可能な限りSBに取ってほしいチームである。開幕戦はこの高い位置を2トップの片割れの久保が速いタイミングで取りに行って前進をサポートしていた。
この日の前線は明確にFWが2枚、という組み合わせのため、そういうポイントの作り方はなかった。
SBに高い位置を取ってほしい、というのはSBをビルドアップに参加させる事は出来ない、という意味でもある。参加しちゃうともうFWしか前にいなくなる。ある意味ではアトレティコもそうなんだけど。
そんなこんなで、ソシエダは2CB+1もビルドアップに同数をぶつけられるとメリーノが降りてきて前進に参加する。という形を取る。
SBが参加する形を避けたいので、メリーノが参加。彼は異常体力オバケで、元々は上手いなぁという印象だったが先季後半くらいからコケっぽいなと思い始めてきた。色んなエリアに顔出しすぎ。
この日のアトレティコのプレスは2トップ+デ・パウルで同数をぶつける形が基本。効果的なのかどうかあんまりわからんが担当をキッチリ決めてフェリックスはスベルディアに、モラタはスビメンディに、デ・パウルはル・ノルマンに。という形。後半の話でも出てくるが個人的にはあんまり好きじゃない
ソシエダはメリーノがビルドアップに参加すると、ボールの出しどころが速いくさびのパスになる事が多く(中盤から人がいなくなるので)、セルロートがこれをあまり収められなかったなという前半。シルバには巧みに前を向かれる場面もあったが、この付近はアトレティコの中盤の選手が群がっており、なかなかボールが入らなかった。シルバ周辺の話も後半にも出てくる。
逆にアトレティコが使われたくなかったエリアはこの辺。
このシーンではボールを持つソシエダCBの前が空いている状況で右SBゴロサベルが高い位置を取れている。
サウルがボールに向かって前進しようとする背後。ここにブライス・メンデスが入り込んでくる。セルタ時代からの彼の得意な位置。ソシエダ側がヘイニウドに対して2対1を作るような侵入で、アトレティコは嫌な形。カラスコは大外対応中で、ヴィツェルが釣り出されるのも出来れば避けたい。
そしてソシエダは後方ビルドアップに参加するメリーノが逆側(右側)から進んでいる間に敵陣PAまで飛び込んでくる。このダイナミックさは良いですね。
アトレティコのボール保持に対しては、ソシエダも前3枚で同数をぶつける。
2トップはそれぞれ対面するHVを見ながら、ヴィツェルに対してシルバがプレッシャー。ここからのクリーンな配球を止める。ヴィツェルがこのポジションをやる限りはこの対応は付き物な気がするが。"ヴィツェルに強くいく"の一択でボールが循環しなくなる状況はこれで3試合連続である。まあエルモソがいれば解決するかも、とか色々あるが、バランスの考え方はシメオネの中でもまだ未確定部分な気がしている。
結果アトレティコは前半38.3%しかボールを持てなかったので、ソシエダの狙いはハマっていたと言っていい。アトレティコは最終ラインからIHのレイオフを使ってコケが前向き、という形を割と作れていたのは褒めておく。それが決定打になるようには見えないが。レイオフを受けるのがヴィツェル、とかになるとワクワクしてくるんだが。
あとはブライス・メンデスが前向きにヘイニウドに寄せてくるパターンでサウルが上手にその背後を使った場面があったくらい。逆に他の選手になぜこれが出来ないのか。
・ロングボールが作る試合展開
低い位置からビルドアップで進めない、そしてソシエダにボールを持たれる時間が圧倒的に長い、となるとアトレティコは必然的にFW目掛けて蹴っ飛ばす事が増える。
特にモラタ狙い。アトレティコの2トップ、モラタ&フェリックスはロングボールを収めるのが上手く、相手選手と入れ替わって一気に背後を狙うのも上手い。そして2人でカウンターを完結させる理不尽さもあるとあって、ソシエダはボール保持を狙う以上はこのロングボールが飛んでくるのは百も承知、そしてこれを対策出来ないとゲームプランも何もない、という事でここをとんでもないハードコンタクトで止めにいく。実際29分の場面ではソシエダは最終ライン4枚揃えていたにも関わらずロングボールからジョレンテ→フェリックス、最後はモラタでゴールまで行った(フェリックスのハンドで取り消し)
ハードコンタクトもある程度は仕方のない事だが、ル・ノルマンは普通にモラタの顔蹴ってますけど、みたいな場面もあり序盤からお互いにヒートアップ。ラリーガらしいやられたらやり返すみたいな展開になり、前半からカードが飛び交った。
ソシエダは保持、アトレティコは速い攻撃(カウンターというより、速い攻撃)、という狙いがせめぎ合った45分間。得点はあんまり関係ないCKから、しかも開始5分。アトレティコはオフサイドで取り消された29分のシーンに、レミーロのパラドンがあった38分のヒメネスのミドルもあり、この内容でも前半で試合を決められそうな説得力があったのもまた、事実。面白いですね。これがサッカー。
●前半終了
前半を1-0で折り返した。ソシエダはボールを持って効果的に前進したいが、FWへのボールの入れ方が安定せずになかなか狙った攻撃は出ていない印象。
ボールを保持したそうなメンツのアトレティコは全く保持出来ないものの、まあ長短のカウンターでゴールまで迫れる理不尽さはこのチームの良い面が出ている。むしろ客観的に見てなんでこんなチームがボールを保持したがっているのか、みたいなアトレティコビルドアップ起源論のような話に発展しそうな試合展開。
●後半
ソシエダは早速新加入のサディークを投入。交代したセルロートはあまりゲーム勘が整っていなそうなプレーだった。まだまだここからでしょう。
アトレティコも交代を使う。サウル→コンドグビア。イエローもらってるしとりあえず一枚替える。
仕組みを変えたのはアトレティコの方。非保持をいじった。
ジョレンテが前進して相手左SBの位置にプレスする。ショーをヒメネスに任せて高い位置を取った。
ボールサイドで数的優位を作らせないようにしよう、という発想だったのだろうか。何故シメオネがこの試合でソシエダからボールを取り上げる事にこんなに固執したのかがいまいち理解出来ていない。先制したしもう少しのんびりプレーしても良いように見えていた。
ソシエダは後半からサディークが入った事が良い方向に作用している。まずボールを収める、というか1stタッチで前を向いてゴール方向へ向かってくるのがシンプルに怖い。ヘイニウドは良く対応していたが、それでもラインを押し下げられる。この噛み合わせの変化が、尚更WBを前進させる非保持と相性が悪い。心配しながら見ていたが同点ゴールはそのままの形で生まれてしまう。詳細を見ていく。
・アトレティコの変化から生まれたソシエダの脱出ルート
まずここまで書いた通り、ル・ノルマンがボールを持つとジョレンテがムニョスのところまで前進。配置でハメようと試みる。
まずここで、アトレティコ側に一つ迷いがある。それは"ダビド・シルバの止め方がわからない"という点。
前半からライン間でボールを引き出され、放置も出来ないしどこに顔を出すかもわからないし、という状況だったが、サディークの存在でアトレティコのライン間に広いスペースが出来ると、前半のようにシルバ周辺に何となく人がいて誰かがとりあえず視野に入れている、という状況を作れなくなってくる。
そしてアトレティコのプレス構造が、どうにもソシエダと相性が悪い。相性が悪いと何度も書くが本当に変なバランス感覚だった。気持ち悪い感じ。
まず、ル・ノルマンに対してデ・パウルが正面から距離を詰める。このデ・パウルの背後で、メリーノのボールの引き出し方が非常に上手い。アトレティコの中盤はコケがある程度高い位置、コンドグビアは後方待機、という役割分担をしており、ジョレンテが高い位置にいる。シンプルに中央のフィルターが効かない。人が足りない。となると、メリーノの前向きがシンプルにリスクを生む。誰がどこまで前に圧力をかけるかフワついた。
シルバが広く空いたエリアを使う。メリーノ→シルバのパスルートをこんなにクリーンに開けては駄目だろう。
ジョレンテのマークから解放されたショーは喜んで大外でボールを引き出した。
ジョレンテが前進する守備構造は、右CBのヒメネスがショーに大外まで引きずり出される事とセットだ。ここの許容はどのように設定されていたのか。この2試合のヒメネスのアジリティには不安が残っていたと断言する。明らかにクイックネスが足りていない。普段ならクロスをあげられたヒメネスにキツい一言をかけたいところだが、この日の対応は理解に苦しむ。ヒメネスが可哀想だった。
そしてPA内にCBを3枚残さなければならないか否かとは別の話として、サディークに対して競り合うのがヴィツェルとヘイニウドでは駄目だろう。
・後半のプランの是非
非保持の形を自分達から変えて展開を変える、という考え方はシメオネの戦術の基本的な部分であり、今さら否定する気も歯向かうつもりもないが、この日の設定はどうだったのか。デ・パウルの背後をメリーノに使われたのはこの失点シーンの前にも何度かあった。シルバのライン間もそう。狙いそのものはシメオネに聞いてみない事にはわからないが、個人的には失敗したと思う。
この失点後、アトレティコはグリーズマンを投入する関係でデ・パウルを下げた。これで後半開始からやった非保持の形は一旦終わりになる。中盤がスカスカな形は継続し、後ろのリスクをだいぶ負っていたのでヒヤヒヤする形だったが、やるならこのくらいアグレッシブな方がいい、のか?
ここからはお互いに選手を入れ替えながら。
ソシエダは久保がシルバの仕事を引き継ぎサディークにプレゼントパスを用意するなど躍動。一方アトレティコはグリーズマンのところでようやく時間が作れるようになり、ジョレンテが大外を駆動、ロングボールを信じられないほど足下にピタリと収めるコレアの存在などでゴールに迫る。80分にはコレアに真ん中の仕事を任せたフェリックスが大外でボールを引き取って一気に前進。コレアへのスルーパスで決定機を演出する。
終盤にはオブラクが負傷交代、ロスタイムにもチャンスを迎えるが変な笛で点にならないなど、色々あったが両者痛み分け。配置変更と選手交代で双方が勝利の可能性を準備した後半となった。
●試合結果
興味深い試合となった。まず前半からシメオネは執拗にソシエダからボールを取り上げようとプレスの形を模索した。これは、今季はどんな相手にもボールを握らせるつもりはない、という意思表示なのか、この日ソシエダにはボールを持たせてはならない、という考えだったのか。
個人的にはプレシーズンからここまで、アトレティコは"この形なら相手にボールを持って押し込まれても怖くないな"という感覚で見ているので、なぜか撤退せずにその配置のまま前線から強くプレスに行く形はけっこう違和感がある。どういう考えがあるのか、あるいはまだ何かを確認している最中で、この試合の結果とは別の何かを見ているのか。
後半にはさらに前からの圧力を強め、その結果逆にメリーノ、シルバがプレーしやすくなってしまった感もあった。サディークの投入で広く空いたライン間を使われ、ソシエダのやりたい攻撃をさせてしまう時間もあった。結局アトレティコのボール保持の回復はグリーズマンの投入による。必死にボールを取りに行っていた時間は何だったのか。
終盤のトランジションゲームでフェリックスとコレア、そしてジョレンテが攻撃で特徴を出せたのは良かったが、そこに至る試合のプロセスは果たしてチームが望んでいるものだったか、は疑問が残った。
もう一つ疑問が残ったのはジャッジに対するリアクションである。
序盤から試合のポイントになったのは"アトレティコのクリアボールを2トップが収められるか"の箇所であった。ソシエダはここを防げばずっとボールを持ってプレー出来る。アトレティコは後方の広大なスペースを使えれば2,3人で得点までいける。押し込まれている事がプラスになる可能性さえある。
両者そんな事は百も承知。この球際は非常に強いコンタクトになる。序盤からル・ノルマンがモラタに対してかなり強めにいっていて、ここで笛が鳴らなかった事をいつまでも引きずってずっとネガティブだったのはアトレティコの方。別にファールをもらってマイボールになるならいいんだが、背中を押されながらでもそのボールは収められるだろうというものまで全部頭を抑えて倒れ込むモラタに割と辟易した。そもそも後半に入ってからはそんなにファール上等なコンタクトはなかったし、コレアはロングボールを一発で足下に止めてましたが。結果論だが試合がぶつ切りになって助かっていたのはソシエダの方だった。
苦言で終わってしまったが、これで開幕4試合を2勝1分1敗、全勝のマドリーとは5ポイント差となった。
なんとなく目の前の試合よりも全体感、バランスの模索、実験をしているように感じながら見ている。シメオネはあまりそういうアプローチをしないので半信半疑だが。逆にこれがこのチームの最高のパフォーマンス。全力で目の前のポイントを取りに行った試合です。と言われたらちょっと嫌かもしれない。
さて、チームはCLに向かう。まずはホームでポルト戦。
9/3
レアレ・アレーナ
ソシエダ 1-1 アトレティコ
得点者
【ソシエダ】'55 サディーク
【アトレティコ】’5 モラタ
●ピックアッププレー
CBヴィツェルの対応を2つ、ピックアップする。どちらも良い対応だった場面。
この日のソシエダ2トップは本編で書いた通り、セルロートがヘイニウド付近で縦パスを受けられるポジションを取り、ショーは左サイドで縦に勝負しようとしてくる。アトレティコはヒメネスがPA幅付近で晒されるのを嫌ってジョレンテが対応しているのだが、固定のマークマンを持たないヴィツェル付近にプラス1が飛び込んでくる。主にシルバ。ここに不安はあった。場合によっては非保持の懸念点になり兼ねなかったが、ヴィツェルの対応の感覚は本職のCB並みかそれ以上に良く、左右両方へ良いアクションをした。
まずは右。40分のヒメネスがショーに背後を取られた際の対応。
ショーはいたる所でトップスピードで突っ込んでくる。大外でジョレンテの背中を取ろうとする場面もあったが、この時はシンプルにヒメネスの背後へロブパスをもらった。このボールにヴィツェルは迷わず飛んでいって先にボールに触った。良い判断とダッシュ力を持っている。
左。43分に中盤でボールがふわついた場面。浮き球のパスでヘイニウドがセルロートに入れ替わられて、ヴィツェルは飛び出すか留まるかの対応を迫られた場面。
飛び出さず留まって味方の戻りを待つ選択。結果的にはジョレンテが人外のスピードで戻って大外のカバーに間に合っている。まあ人外は人外なんだがジョレンテがやると見慣れている。
この場面、ヴィツェルが早めに飛び出していたらショーではなくシルバへの横パスを選択され、ピンチになっていたと思われる。好判断でピンチの目を摘んだ。
●ピックアップ選手
ヘイニウド
見慣れてしまった感はあるが、わけのわからない対人性能でほぼシャットアウト。サディークに高さで上をいかれた失点シーンは仕方ない
フェリックス
序盤から相手のファール覚悟の強いコンタクトに苦しめられ続けたが最後まで集中力を保ち、コレアへのスルーパスで決定機を用意、ロスタイムにも試合を決める一撃を狙って枠内シュートを打っていった。最後までダッシュ力を維持した事も高く評価したい。
ヒメネス
3つほどの得点機を決めきれず。特に38分のミドルシュートはスーパーセーブに阻まれた。徳を積もう。