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世界の中心にピンを刺して 11節バルサvsマドリー 2023.10.28

さてローリングストーンズ。255度目のエル・クラシコ。
バルサは24ポイント、マドリーは25ポイントで迎えた11節。
一試合未消化のアトレティコが22ポイントで追っているが、25ポイントにジローナが鎮座するのが今季の変わった景色。
しかしいつでもこの対戦は世界の頂点である必要がある。そして求められるのは勝利のみ。




●スタメン

・バルサ
テアシュテーゲン
カンセロ / アラウホ / クリステンセン / イニゴ・マルティネス / バルデ
ギュンドアン / ガビ / フェルミン・ロペス
フェラン・トーレス / フェリックス

怪我人が戻り始めてクンデ、レヴァンドフスキ、ハフィーニャなどはベンチに入った。
カンセロ、イニゴ・マルティネス、ギュンドアン、フェルミン・ロペス、フェリックスはクラシコ初出場。

・マドリー
ケパ
カルバハル / リュディガー / アラバ / メンディ
チュアメニ / クロース / バルベルデ / ベリンガム
ヴィニシウス / ロドリゴ

最近のメンバーを踏襲。左SBはメンディ。
ケパ、ベリンガムがクラシコ初出場となる。





●前半

・配置優位で取った先制点
開始からボールを持ったのは普段と違う配置で試合に入ったバルサの方。6分にギュンドアンの先制点に繋げた。

この日は後方3枚。マドリーは事前に決めていた対応としてバルベルデのランデヴー。バルサの左サイドにはバルベルデがバルデ、フェリックスにカルバハルがマンツー気味に対応していく。
問題はマドリーの中盤残り3枚の対応の決め方で、主にベリンガムは左大外で前のアラウホを見つつ縦のパスコースを警戒していたが、中盤並列のガビ、ギュンドアンを捕まえきれず、結果的にフェルミン・ロペスがライン間でフリーになる事に成功する。

マドリーはチュアメニとクロースが2CHを捕まえに前向きになるが、普段のマドリーからすると少し前に向きすぎ。左SBのメンディがWBとしてかなり高い位置に出てくるカンセロにピンをされる事でフェルミンのプレーエリアを確保された。フェルミンはフェラン・トーレスとのコンタクトが良く、先制点のシーンもこの2人で打開している。ギュンドアンの得点自体はマドリーにはやや不運な面はあったが、この開始のゲームバランスはチャビの狙い通りで、ホームのバルサが配置優位を持ってリードを奪った。


・バルサの守備対応
バルサの守備。マドリーはいつものクロースを出口とした左からのビルドアップが中心となる。

バルサはバルデが最終ラインに落ちて4枚。マドリーは右の大外を誰が取るか(カルバハル&バルベルデ&ロドリゴ)が状況によってコロコロ変わるのでとりあえず最終ラインに入っておく。
一方でマドリーの左サイドに対しては人を基準に。クロースにはフェルミン、どこにいるかわからないメンディには同じくどこにいるかわからないカンセロ、そしてベリンガムにはガビが対応していく。ガビはかなり燃えていた。いつもだが。
フェラン・トーレスとフェリックスが最終ラインまで圧力を掛け、GKケパにロングボールを選択させればマドリーは前線でボールを納めるようなソリューションがなく、バルサがボールを回収していった。

中盤ではとにかくガビが躍動。ある程度ボールの入るタイミングを予測できれば基本的に全て飛び込み、狙いを定めて何度もボールを奪っていった。16分にはマドリーのプレス回避を狙ってクロースからボール奪取。フェルミンのポスト直撃のシュートに繋げている。前半の試合展開を先導したのは間違いなくガビの存在であった。
また、バルサはオープンな環境になるとジョアン・フェリックスがロングボールの受け手となり、だいぶアバウトに飛んできても相手が1枚ならほぼ確実にマイボールに納めて前進をサポートした。レイオフが上手いフェラン・トーレスとのコンビはマドリーのプレスバランスを崩していき、バルサは自分達がペースを握っている実感を掴んでいった。


・フェルミン・ロペスへの対応変更
マドリーは先制点以降中盤のバランスを変更。フェルミンを自由にしては流れを変えられないと判断し、クロースがこの対応を担当する。

ガビのマークをベリンガムに任せて、クロースは一つ低いポジションに。これでフェラン・トーレスへのくさびも同時に警戒できるようになったが、当然バルサの3CBへ同数で当たれなくなる。設計だったのかノリだったのかは不明だが、ヴィニシウスはアラウホを担当していたのでロドリゴが2人(クリステンセン&イニゴ)を見張る必要があり、主にイニゴ・マルティネスのフリーを許容していった。
イニゴはここから試合終了まで常にフリーでドライブし放題だったが何かを生む事は決してなかったので、意識的に放置されていた可能性が高い。このレベルに値しない選手と見られていたのだろう。クンデ真ん中、クリステンセン左だったらまた違う試合だったのかもしれない。

マドリーは相変わらずヴィニシウスがアラウホにシャットアウトされ、ボールを奪われるとフェリックスとフェラン・トーレスがゴール方向へ突進。28分にはフェリックスがリュディガーの股を抜くドリブルで決定機。カルバハルのスーパーリカバリーで事なきを得たが、カウンター局面でもチャンスを作れるバルサは気分良くプレーしていき、チャビも調子に乗ってヴィニシウスとコミュニケーションを取っていた。
この時間帯ヴィニシウスは割と簡単にひっくり返るシーンが多かったが、ここで笛が鳴るかどうかの確認は試合の行方を左右する重要なファクターであり、前半のうちに執拗に確認する事自体はマドリーからすると当然の作業。ただ、あまりにも笛が鳴らずにフラストレーションを溜め、ピンチを招く事にもなった。

バルサはフェリックス&バルデの2人でタッチライン際から侵入しチャンスメイクするなど。そしてバランスを変更した中盤ではフェルミン・ロペスがクロースを背負ったまま何度もターンを決めて振り回し、マドリーの前向きの守備を阻害し続けていった。クロースはどうしても苦手な仕事をさせられる事になっていったが、それ以上に前半のフェルミンは今季ベストのパフォーマンスだったと言える。彼もまた、衝撃のクラシコデビューだったのである。ここまでは。



●前半終了

マドリーが前半作れたシュートシーンは38分のクロース→カルバハルのロングボールくらいで、バルサが圧倒した。
両チームが設定した局所において、
"アラウホvsヴィニシウス"
"ガビvsベリンガム"
"カンセロvsメンディ"
"フェルミンvsクロース"
"フェリックス&バルデvsカルバハル&バルベルデ"
のどこを取ってもバルサが優位性を保った。

バルサ視点で言えば、それでも取れた得点は奇襲の1点のみで、その原因をレヴァンドフスキの不在に求めるのならばそこまで。あとはマドリーが選手を入れ替えてくる後半に、前半持てた優位性をいくつ保持し、どこを修正するのか。
マドリーから見ると早々に失点したものの同じやられ方をしないようにクロースのポジションを修正しペースを押し戻す。スコアをタイに戻すところまでは至らないものの1点差のままで前半を終えたのは悪くない結果であり、これを選手・監督ともに"悪くない"と思えるところがマドリーである。



●後半

・カマヴィンガの投入が意味する事
バルサ側に変更点がない事を確認し、マドリーは52分にカマヴィンガ投入。
その前にCKからイニゴ、アラウホの決定機があったがケパが止めている。これが決まっていると試合が終わっていた可能性があったが、ケパの大仕事だった。
リードされているマドリーは点を取るしかない。前半の改善以降はバルサの侵入を許さなくなっていた守備組織に穴を空けてでも、ボールを握る事を選択していく。カマヴィンガは左SBだが、ボール保持局面での仕事はクロース、バルベルデ、ベリンガムと変わらない。ボールを持って前進していく作業の中心キャラとして、時には右のハーフスペースまで侵入して攻撃をリードしていく。保持して相手を押し込めていればマドリーの配置はなんでもいい。

56:30のマドリーの配置

なんだこれは
ピボーテとしてもインテリオールとしてもプレーできるカマヴィンガの存在が、マドリーに至る所でのプラス1を生んでいく事になる。
もちろんマイナス面もある。メンディは攻撃ではプレス回避以外特に何もしない選手だが、対人守備能力だけを切り取れば世界トップクラスのSBである。この日の前半もニコニコしながら人知れずカンセロを内でも外でも止め続けており、自由人カンセロを自由にしないというタスクを完遂していた。
カマヴィンガは守備が得意な選手ではないが、そもそも左SBの位置にいる時間が60%程度しかなく、いたとしてもカンセロの突破を止めるには心許ない。後半だけで3度は決定機を作られており、アンチェロッティがこのリスクを許容した事がマドリーの最初の選択であった。

それでもバルサはアラウホを中心に、肝心のヴィニシウスの突破を止め続け、ボールを奪うとフェリックスが陣地奪回する時間を作る、という2点で試合の優位を明け渡さない。しかし、バルサの61分の選手交代はフェラン・トーレス→レヴァンドフスキであった。この無意味な選手交代を見て、マドリーは次の選択に移る。

・マドリーの攻撃シフト
バルサに配置変更の意思がない事を確認し、マドリーが形を変える。モドリッチとホセルを入れて、クロースとロドリゴを下げた。

この交代でようやくバルベルデを高い位置に動かし、モドリッチが右後方を支援。まずポジトラの基準だったフェリックスの位置を押し込む事を優先し、右から侵入していく。ホセルは中央で勝率ほぼ100%のポストプレーを繰り出し、バルサの最終ラインを押し下げた。また、彼がファーへ逃げる事でアラウホがヴィニシウスのマークに集中する環境からの解放を狙っている。
左サイドから得点が生まれる事はなかったが、カンセロも最終ラインまで押し込むことでヴィニシウスvsアラウホの1vs1から、ヴィニシウス&カマヴィンガvsアラウホ&カンセロの2vs2の局面を作っていき、ピッチ上の景色は一変した。

・ベリンガムの矛
その流れで生まれた68分の同点ゴールは、あくまでも偶発的なスーパーゴールであるが、バルサの11人を陣地深くまで押し込み、ミドルシュートを振り抜く環境を作り出したのはマドリー側が生んだ環境である。結末はスーパーゴールだが、マドリーの選手が何かする環境はマドリー側が意図を持って作り出したもの。そしてマドリーに加入する選手というのは、ここで答えを出せる者である。ベリンガムは自分がなぜこのユニフォームを着るのかを毎週証明し続けている。


・効果を生まない突貫修理
バルサの修理は中盤中央。ボール保持時間が短くなりゲームから消えていったフェルミン・ロペスに替えてロメウを中央に入れた。
その結果としてガビとギュンドアンが守備タスクから解放されるかというと、もちろんそんなはずはなく。バルサはレヴァンドフスキを除く10人が自陣に閉じ込められ、ギュンドアンは得意分野ではないトランジション局面でバルベルデを追いかける必要があり、前半のクロースのように苦しむ事になったのはバルサ側の自業自得であった。

次なる工事はハフィーニャとヤマルの投入。交代はフェリックスとカンセロだったので、3人(+レヴァンドフスキ)で攻めてきてくれというメッセージとなった。左に置かれたヤマルが得点への可能性を示したのは僥倖なのか、選択肢の少なさの証明なのか。
ベリンガム、バルベルデというトランジション強者にモドリッチが関わる中盤でマドリーは保持時間を手離さず、3:1くらいの頻度で得点機を作れる実感を持って最終盤へと向かう。ポストプレー、セカンドボールへの反応で仕事をしたホセルの存在も、ジワジワとバルサの攻撃機会を奪っていった。それまでほぼ粗を見せなかったクリステンセンとイニゴ・マルティネスに突然対応の緩さを感じさせたホセルの存在はもしかすると決勝ゴールの伏線だったのかもしれない。ロメウも思いっきり怪しかったので、バルサからすると"怪我人がね、、、"という話で終わりにしたい時間帯だった。ただし、これはクラシコである。

・決勝点を生んだのは
この試合、90分通じてよく走っていたのはバルサのバルデ、マドリーはバルベルデであった。決勝点に繋がったのはその2人の駆けっこをバルベルデが制したところから。最後までよく走った。この試合一切のミスも見せなかったカルバハルから後半の流れを生んだモドリッチにパスが通り、この日バルサのトランジションをリードしていたガビのマークを振り切って攻撃開始。速攻は決まらずバルサは守備ブロックを整えたが、クリステンセンはホセルを警戒し、一度ヴィニシウスの対応を助けに右サイドまで移動していたロメウは、最も警戒するべきベリンガムのマークを離した。

カルバハルのクロスは思った高さに飛んでいないし、モドリッチのトラップも狙ったものではなかったが、決勝点に至る流れはあくまでもこの試合を象徴した。



●試合結果

今季最初のエル・クラシコはアウェーのマドリーが逆転勝利。
確かな技術と奇襲で試合を優位に進めたのはバルサの方であった。しかし6分に先制されて以降、ペースを押し戻す事ができないにも関わらず0-1の時間を受け入れたマドリーはあまりにも強かだった。取られたもんは"しょうがない"。展開を変えるのは"今じゃない"という共通認識は、まるで機械のように不気味だった。
後半、マドリーは早々とリスクを負う決断を下す。カマヴィンガの投入はボールを保持し得点を奪いに行く意思表示であり、カンセロのドリブル突破を"しょうがない"と諦める潔さがあった。カンセロは内に外にと3度の決定機演出。決まっていれば試合は終わっていた。賭けに勝ったのはアンチェロッティだ。

アンチェロッティは、バランス感覚に優れ、リスク計算が精密である。カマヴィンガ投入のプラスとマイナスの管理が正確であり、モドリッチとホセルの投入は勝負を決めた。
マドリー側のリスク管理が正確なのは、普段からやっているからだろう。選手達が味方の得意なプレーと苦手なプレーへの理解が深い。そしてカマヴィンガを過剰にサポートするのではなく、別の箇所で優位を産めばいいという勇気もチームに共通するものだった。これが勝者のメンタリティなのでしょう。"メンディいなくなっちゃった。カマヴィンガすごい抜かれる。ライン下げよう"ではこの試合には勝てなかった。

チャビの選手交代策は、怪我人がいて選択肢が少なかった事に理由を求めるのだろう。しかしこの3バックでどこまで逃げ切れるかの設計は大雑把で、頂点からフェラン・トーレスがいなくなる事で1stディフェンス、ライン間のポストプレー、カウンターの走力を全て手離し、結果的にフェリックスのスピードを生かす機会もなくなった。60分にレヴァンドフスキを入れた理由が"レヴァンドフスキを30分起用する事"以外に思いつかず、戦術的な理由は感じない。無策で配置変更の手段も持っていない事をマドリーに自己紹介するくらいなら限界までフェラン・トーレスを走らせるべきだった。マドリーの決断を遅らせるだけでも、多少の効果はあったはずだ。結果マドリーは92分の得点に"間に合っている"
プレス回避と後方からのビルドアップが上手く機能しない事は、チャビバルサの定番になりつつある。ボール保持の時間が減ると単純にフェルミン・ロペスの質を生かす機会とカンセロがピッチにいる理由を失っていき、前半あれだけピッチを支配したギュンドアンは最終的にはバルベルデと駆けっこさせられている。

マドリーの得点はベリンガムのクオリティに拠った。この得点のためにベリンガムはマドリードに来た。強烈なミドルシュートと最後まで失う事のなかった走力、得点への執念は、彼を試合から消し続けたガビを2度だけ絶望させた。この得点を決める事こそが世界最高峰であり、ベリンガムは自分の位置情報こそが世界の中心であると証明し続ける。


4月の再戦は優勝の行方を決める戦いになる可能性も高い。個人的にはその頃アトレティコが独走していることを望むが。ジローナを含めたラリーガ首位争いは混沌としていく。次のビッグマッチは12月3日、アトレティコvsバルサだ。


10/28
モンジュイック
バルサ 1-2 マドリー
得点者
【バルサ】’6 ギュンドアン
【マドリー】’68 ’90+2 ベリンガム


●ピックアップ選手

ベリンガム(マドリー)
2発。圧倒的なタレントで今季早くも10点目。
衝撃はまだまだ止まらない。

バルベルデ(マドリー)
大盛りの守備タスクを抱えながら最後まで質を落とさなかった。いつもピッチに置いておきたい選手。

モドリッチ(マドリー)
63分からの出場で右サイドからの侵入を牽引しビッグマッチで意地を見せた。

カマヴィンガ(マドリー)
後半の展開を動かした立役者。こういう選手になったのもこれまでのアンチェロッティの起用法の結果であり、ここもまだ通過点である。

カルバハル(マドリー)
結果的にはメンディ+カマヴィンガの仕事を一人でやっているくらいの仕事量だった。周囲のサポートを信じて我慢の時間を牽引した。キャプテンマークにも違和感がなくなっている。

ガビ(バルサ)
2CHから前へ後ろへ飛び出して何度もボール奪取。ベリンガム相手で燃えていた。あらためてこのチームの中心である事を示した。

フェルミン・ロペス(バルサ)
クロースを手玉に取る超抜パフォーマンス。
前半の趨勢を左右するクラシコデビューを飾った。

フェリックス(バルサ)
単独でボールを納める技術でチームの押し上げをリード。重要な仕事を担当した。リュディガーの股を取った決定機はハイライト。

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