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サッリの作る新たな保持型チーム〜ラツィオのスカウティングレポート〜

どうもスカウティングレポートが書きたくて仕方ないマンです。依頼待ってます。

ラツィオを分析していこう。
見た試合。

1.4 vsレッチェ(A) ●1-2
1.8 vsエンポリ(H) △1-1
1.15 vsサッスオーロ(A) ○2-0
1.19 vsボローニャ(国王杯) ○1-0
1.24 vsミラン(H) ○4-0
1.29 vsフィオレンティーナ(H) △1-1
2.2 vsユベントス(国王杯) ●0-1
2.6 vsヴェローナ(A) △1-1

年明けから見始めたがミラン戦がありコパイタリアでもユベントス戦がありと見どころの多い時期だった。
チームはサッリ監督の就任2季目。1年目の先季は国内5位で、ELは決勝トーナメントプレーオフでポルトに負けている。ちなみにおれはサッリナポリが大好きである。ハムシクが好きというと"好きそう"と言われます。

今季の成績は11勝6分4敗の4位。いい感じである。いい感じなのか?見始める前の成績はもっといい感じだったのかもしれない。見てないから知らん。
コパイタリアは準々決勝でユベントスに敗戦。欧州コンペティションはELのグループFでなんと4チーム全部勝ち点8で並ぶという奇跡のグループで3位。当該チームの勝ち点がどうとかこの場合どうやって決めるんですかね。全然わかりません。くじ引きですか?

なんだこれ

ということで地獄のECLプレーオフに回り、ルーマニアのリーガ1を5連覇中のCFRクルージュを引いた。力関係は全然わかりません。ECLってもはや組み合わせどうこうより遠い国行くのが一番辛くないですか

セリエAでの最後の優勝は99-00シーズンだが、過去30年で見ても2桁順位は4回しかなく、色々問題を抱えるクラブが多かったイタリアの中では案外ずっと安定しているチームである。なんか降格しなかったっけと思ったらそれはパルマでした。おれの記憶はボロボロ。
ちなみにコパイタリアを得意としており、今季で12シーズン連続のベスト8。めちゃめちゃ凄い。12-13、18-19シーズンには優勝している。優勝回数7回は歴代4位。少年時代のおれはアルゼンチン代表大好きマンだったのでラツィオというとクラウディオ・ロペスとヴェロンのイメージ。あと我らがシメオネ。
では、詳細に見ていこう。


●基本布陣

基本布陣

4-1-2-3をベースとする。
GKはプロヴェデルが不動。イタリア代表にも絡んできそうなクオリティがある。カップ戦は先季グラナダにいたマキシミアーノが使われている。開幕戦はマキシミアーノの方がスタメンだったが高速レッドカードで退場している。何したんだ

4バックはラッザリ/カザーレ/ロマニョーリ/マルシッチの4枚を基本に。CBはパトリックが3番目。SBは右も左もヒサイがバックアップする。ヒサイが左でマルシッチが右に回ることも。SBは左利きがいないんだな。
アンカーはカタルディが鉄板。シャフタールから来たブラジル人のマルコス・アントニオが2番手となる。開幕前細江さんが「シャフタールから来たブラジル人でマルコス・アントニオなんて名前はサッカー上手いに決まってる」と言っていたのが何故か忘れられない。

IHはセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチとルイス・アルベルトの魔法使いコンビ。ベンチからベシーノやバシッチが出てくる。ベシーノはウルグアイ代表の時と同様、アトレティが好きそうな脳筋キャラでサッリとどう考えても会話が成り立たなそう。

FWは真ん中に得点王のインモービレを置き、左右はペドロとザッカーニにフェリペ・アンデルソンがユーティリティ。フェリペ・アンデルソンはインモービレが負傷の期間は真ん中をやっている。

サッリは以前からスモールスカッドを好んで選手の入替を最小限に抑える監督だが、今思うとスモールスカッドを好む人がチェルシーの監督やってたの面白いね

正しい選手配置でボールを保持し、主導権を握ってプレーすることを志向する。
当然非保持局面では相手の望む形のビルドアップを阻害して素早くボールを回収し、プレータイムを長くすることを狙うチーム。綺麗な配置の良さと、それによる不十分な部分がある面白いチームだった。それでは詳しく見ていく。


●ボール保持

ビルドアップ

2CBとアンカーポジションのカタルディから配球。CB2人の距離が近く、センターサークルの丸の幅くらいに2人立ち、カタルディもかなり近い。
3人からの配球の第一の狙いは相手最終ラインの背後で、インモービレ中心によく狙ってランニングする。レッチェ戦の先制点はそこから。カザーレ→インモービレで一発で裏を取った。まず背後を狙うことで手前のエリアを広く取り、侵入していく感覚。ラインを押し下げてスペースがあればミリンコヴィッチ=サヴィッチとルイス・アルベルトがどうにかすることができるようになる。

アンカーのカタルディは背中に敵を感じると後方に戻すのではなくワンタッチでIHに向かって蹴るプレーをよくやる。ここでIHがボールを収めることはほぼなく、前向きのCB、SBにボールを渡してビルドアップを継続しようとする。あんまりカタルディ自身が前向きにボールを持って縦パスを刺すシーンは多くなかった。彼はトライアングル形成要員という感じに色んな箇所に顔を出せる良さがある。それは非保持でも同じで、中盤に穴を空けない良いポジショニングが光る。

IHは案外ボールの落ち着きどころになれないのがこのチームの特徴で、基本的に落ち着くためには右WGのペドロのところまでボールを進める必要があった。
これはチームとしてデザインされているようで、ペドロがボールを持つと右SBラッザリが内・外から抜け出しを狙い、インモービレも近いレーンまで近寄ってくる。あとはペドロとミリンコヴィッチ=サヴィッチの2人でどうにかしつつ、インモービレが空けた中央に誰かが飛び込む形も狙っていた。特に左WGのザッカーニは決定力が高く飛び込んでいくのが好きそう。この形はチーム全体で自信を持ってやっている。

・特徴
サッリのチームのボール保持の特徴として、隣の選手との距離が近いことが挙げられる。ダイレクトプレーとサポートの枚数を意識して選手が配置されているため、細かいパス交換と定番のパスルートが多い。割と今季のナポリに似ているが、あのチームは中盤の3人が上手すぎて参考にならない。ザンボアンギサとか近い距離のサポートなんていらないし。ナポリはWGのアイソレーションとそれに伴うズレを作ることを目指して、特にクヴァラツヘリアの大外レーンの1vs1を作りに行くがラツィオはもっと選手間の距離を近づけて1vs1を作るよりも4vs3を作ろうとしているように見える。

カタルディが四角形を作る。CFのインモービレは背後を取る

押し込むと二列目が総ストライカー化しインモービレが生み出す溝を取りに行く。誰でもゴール前に飛び込めるのはこのチームの良いところ。

・保持形の弱点?
再び比較対象にするが、ナポリは構築が詰まった時の逃げ道として前線でオシムヘンがサイドに流れ、身体を張って相手DFを背負いながらボールを収める、最低でもファールをもらうという形を徹底して準備しているが、ラツィオにはそういった"突っかかった時の逃げ道"が準備されていない。端的に言うとパウサがないなと感じる場面が散見され、一度ハマり出したらハマりっぱなしでマイボールを維持できず、ペースを手放してしまうことがある。かなりよくある。
ここはそういうことができる選手がいないことと、ビルドアップの考え方の双方に起因している。ペドロはできるんだけどビルドアップフェーズでは基本的に大外に張っているし、ビルドアップで同数をぶつけられた時に中盤の選手が立ち位置を下げて最終ラインに近づくという選択を一切しない。というのが大きな特徴である。中盤選手がサリーしない。

サリーダ・ラボルピアーナしない

配置を崩すくらいなら蹴っ飛ばしてネガティブトランジション、という選択をするが、そのネガトラでボールを奪い返せず相手に握られる時間を作られ失点する場面がエンポリ戦やレッチェ戦で勝ち点を落とすことに繋がっている。直近のヴェローナ戦もそれ。それでも中盤選手のサリーという選択肢は絶対にやらない。何やらそれ以上のデメリットを感じているのだろう。なんだろうね。ラリーガ的な見方をすると結構カルチャーショックである。カディスでもサリーしますよスペインは。

思えばサッリのチームはジョルジーニョもCB間サリーはやらなかった記憶はある。やってたかもしれない。わからん
ラツィオはサリーがない分、ビルドアップリセットのためにGKの足下の技術が必須になるが、プロヴェデルは水準以上の技術を持ち合わせている。キックも上手い。ただ、GKからのSBなどまでキックで逃げる形などはあまり整理されていない様子である。まあミリンコヴィッチ=サヴィッチをターゲットにして周りでボール回収が現実的なんだろうけど、ビルドアップが詰まりそうになる時点ではミリンコヴィッチ=サヴィッチが低い位置にいることが多いのが悩ましい。
また、ザッカーニとペドロの両WGは、実は保持を安定させた5レーンアタックよりもバーティカルなカウンター展開の方がスピードを生かせて特徴が出るというのも興味深い。真ん中を切り崩すビルドアップをチームの軸としながら、相手のプレッシャーが強くなったら無理して形を崩してでも保持に拘るのではなく、ソリッドな展開に切り替え、そうするとWGが生きる。という二段構えになっている。特にザッカーニは引いた相手を崩すよりもスペースのある試合で特徴が生きる。ミラン戦は典型で、彼のスピードとゴール前まで入ってこれる得点センスが試合展開を左右した。

・vs撤退
撤退した相手との戦い方は、2/2のコパイタリア準々決勝ユベントス戦、そして2/6のセリエA21節のヴェローナ戦をサンプルとする。どっちも5-3-2との対戦。
まず、5-3-2で撤退するユベントスを相手に、前半のラツィオは全くブロックの中に入ることができなかった。5-3ブロックに対して両WGのクオリティで切り崩せないとなるとなかなか難しかった。

この試合で、後半頭からインモービレ→ペドロを入れ替えてフェリペ・アンデルソンをトップに動かしたのは、トップポジションでのインモービレとフェリペ・アンデルソンの特徴の違いを使おうという狙いがあった。
2人の特徴の違いについては後ほど詳しく見ていくが、つまりフェリペ・アンデルソンのリンク力を生かし、PA内まで侵入する形の構築をやり直そう、という狙いであった。60分にはベシーノに替えてこの日ローテーションでベンチスタートだったミリンコヴィッチ=サヴィッチを入れ、さらにゾーンへの侵入を目指した。右サイドのペドロ&ラッザリからボールが進む機会が多かったので彼への期待値は高かったのだが、結局良い形は一切出せず。特にこの日はラッザリがよくなかった。この試合でようやく気付いたがこの選手はあまり左足が使えないかもしれない。縦突破以外はそんなに得意じゃないかも。
75分にはカタルディとルイス・アルベルトを下げてマルコス・アントニオとバシッチを投入。この交代が解決策の提示だったのか、彼らをコパでフル出場させる気がなかったのか不明だが、解決策になっている様子はなかったのでたぶんローテ都合。ついでにルイス・アルベルトはおそらく下がる時に文句言っていた様子。

マルコス・アントニオはボール保持時間を伸ばすために真ん中のボール奪取機能を期待した可能性はある。カタルディはあまりボールに触れていなかったし、ユベントスは撤退の意識をかなり強めていたので最終ラインからのビルドアップ能力も必要とされない時間帯だった。マルコス・アントニオにはセカンドボール回収に全振りさせる意図だとすれば理解できる交代。バシッチはノーインパクトだったが。

結果として、このユベントス戦は試合を通じてほぼ決定機を作れなかった。4-4ブロック崩しは得意分野だが5-3ブロックの破壊は専門外の印象があり、上手くいっていないというより、解決策をそもそも装備していない印象の試合に。対5バックのサンプルがこの2試合以外にあまりないのだが、単純に4-4ブロックは壊せるけど5-3は無理ですって話ならアタランタにも苦戦するんじゃないか。ユベントスはまだしもヴェローナ相手にもノーインパクト。この試合は前半のうちに先制したが、これはペドロのスーパーゴールで参考外かなと。無理やりサンプリングするとすればこの得点シーンは珍しくカタルディが敵陣PA付近まで顔を出した場面だった。だからなんだと言われても困るが。
そしてヴェローナ戦は後半開始早々にセットプレーから同点に追いつかれた。この同点シーンに至るフリーキックを献上したのは2度にわたるビルドアップのエラーで、それなりの強度で圧力を掛けられた時間帯であった。ボールロストからあっさりと失点。
その後、降格圏に沈むヴェローナはホームの観客のもの凄いバックアップを得て元気になり派手に前線からのプレスを敢行。ここでラツィオ側のパウサを作れない問題が面白いように発症してヴェローナのプレスに押されまくった。ポストが止めてくれたのが一回、プロヴェデルのファインセーブが一回。逆転されていてもおかしくなかった。正直この流れで格下に逆転されたらどうするのか見たかったんだがどうにか耐えた。それにしても59分にカタルディ→ベシーノを替えたのは驚きだった。守備力を考慮してベシーノ?後方からのビルドアップを諦めてカタルディout?というかこんな一時的に元気になっただけのプレスがまさか試合終了まで続くと思ったか?(実際60分過ぎに終わった)不思議な交代だった。ちょっとよくわからない。この試合も、結局ペースを握り直せないまま痛恨のドロー。終盤ようやくフェリペ・アンデルソンを入れたがこの日は全く周囲とリンクできなかった。相手の3CBが落ちていくFWにどこまでもついていく方式だったのでもう少しまともに見たかった気もする。

ということで、5バックの破壊手順については大いに改善の余地がある。
ちなみに僕は5-3が崩せなければ保持型チームとは呼ばないという過激派なので、この2試合のラツィオには残念な気持ちが残った。保持では人数バランスを崩すことを認めない掟があり、なりふり構わず撤退された時の選択肢に欠けるのは特徴であろう。どっかで聞いたような話である。ただ、その掟のおかげもあって5バックで撤退されてもカウンターでやられるようなことはない。これもどこかでよく聞く話だ。
その意味でカタルディのアンカーは合理的である。ユベントス戦も失点はセットプレーの流れであり、何かを攻略された試合ではなかった。


●ボール非保持

●敵陣
相手チームのビルドアップに対してはCFのインモービレ+IHのどっちかで相手の2CBに直進する形で対応する。

敵陣ではWGも相手SBを捕まえることを意識して前進するケースが多い。GKまでボールが戻させて蹴らせる、という狙いを持ち、ラツィオの両SBは空中戦もこなせるので、相手WG目掛けて飛んできたハイボールは高確率で勝てるためここをボール回収のポイントにできている。

主にCFとミリンコヴィッチ=サヴィッチの2人が前に出るが、がっつりと4-4-2で配置する、という意図はあまりなく、4-5-1ような配置で緩やかに構えていながら相手CBに圧力がかかればいいという考え。なので仮にCFがアンカーを見ていたらそのままIHが2人とも前に出ることもあり、エリアを守るというよりも相手のビルド隊の人数に対して何人がプレスに参加していくかを重要視する。特にフェリペ・アンデルソンが真ん中の時はそういう傾向が強い。ようは蹴らせればいい。

前線の選手には基本的に守備をサボるタイプはいない。インモービレは自分がいけると思ったらいってしまうタイプで、けっこう孤立してプレッシャーを外されることがあった。フェリペ・アンデルソンの方が慎重に自分のラインを越えられないことを意識してアンカー付近を警戒する意識が高い。
カタルディはアンカーポジションに入ってライン間の警戒を行うようなことはなく、あくまでも4-4のライン形成が約束事。相手SBに向かってWGが強く寄せる場合にはIHがしっかりラインに戻って4-4のラインを再形成することを重視している。だから4-4-2というよりも4-5-1から一人出ていく、空いたところに戻ってくる、という印象。

また、前線プレスには右IHのミリンコヴィッチ=サヴィッチが出ていくことが多いが、逆に自軍のビルドアップではミリンコヴィッチ=サヴィッチが中盤に落ちてルイス・アルベルトを前線に残す形が多かったのが面白かった。
縦に動き回るミリンコヴィッチ=サヴィッチと、手の届く範囲へ強い影響力を発揮するルイス・アルベルトという感じで、どちらも魔法使いタイプだが明確に発動条件が違う特殊能力を持っている。たぶんサッリが好きなのはミリンコヴィッチ=サヴィッチの方。おれは名前をタイピングするのが面倒で困っている

●撤退
ミドルゾーン以降でも4-5+インモービレの形で立ち、IHはボールホルダーの相手CBに直進することを優先。そのためここでも4-1-4-1のような立ち位置になることはなく、中盤は1枚飛び出して4枚でスライドする。

両WGも完全に二列目ラインに入って守る。左WGのザッカーニはこの位置から長い距離をランニングしてカウンターを狙えるスピードを持っている。
CBのロマニョーリは先季ミランでも見ていたが、今季は時に相棒のカザーレのレベルが高く、2人でPA内の対応に強い自信を持つ。セリエAのCBはクロスを跳ね返す空中戦能力は完全に必須だが、ラツィオのコンビもかなり高い能力を有する。中盤3枚はPA前付近を警戒する能力が高く、ドリブル侵入とミドルシュートを警戒する。球際に強く、ここまで押し込まれた段階では逆に両WGのどちらかが少し浮いたポジションを取れており、そこをカウンターの起点にする。

特にペドロが軸になる場合は右SBラッザリの攻め上がりのスピードがかなり速く脅威に。2,3人のグループで相手PA付近まで突っ走ればあとは猛然とアタッカーがゴール前に押しかけ、特にインモービレの決定力が抜群のものがあり、ゴールを陥れる。


●その他特徴

●IH、WGの役割
長距離のランニングと効果的なレーン移動をできる選手が多い。配置に拘らないタイプの選手が多く、明確に大外にいた方が生きるというタイプはザッカーニだけで、あとはみんな内外のレーンを選んでプレーできる選手である。ペドロなんかはそもそもそれが彼の良さであり、バルサで生きてきたやり方。フェリペ・アンデルソンも右WGで使われる際は内外問わずポジションできて捕まえにくい。クロスも上手い。
ルイス・アルベルトはまさに魔法使い。基本的には左ハーフスペースに位置取り、内側を向いてボールを受ける時に最大の能力を発揮する。切れ込むドリブル、抜けていくCFへのパス、大外を使うパスと逆サイドへの展開。
ミリンコヴィッチ=サヴィッチはパワフルでミドルシュートにもパンチ力がある。当然ヘディングも強いが柔らかいボールタッチが特徴。崩しの中心になれると同時に左からのクロスでインモービレの向こう側で飛び込む形は警戒していても止められるものじゃない。でかい。

●カタルディというアンカー
これまで見たことのなかった選手だが、不思議な選手。何をやっても上手いんだが、普通。あまりにも普通。アンカーポジションと聞くとまずはブスケツのようなパスプレイヤーを思い浮かべる。ロドリとか。サッリが好んだジョルジーニョもそう。ラリーガで言えばスビメンディとか。
違うタイプだとカゼミーロとか、W杯ではアムラバトとか。守備能力に全振りしたカバープレイヤータイプ。このタイプはトップクラスになると攻撃能力も備えているのが昨今の特徴。トーマスとか。ラリーガだとジローナのロメウとか。
強烈な特徴と共に明確な弱点を有する選手も多いだろう。足遅いとか。超小柄とか。

カタルディは普通だ。すごく普通。なんでもできる。ボールコンタクトが上手くて2CBと共にビルドアップの軸になれる。ボールを持ち上がることもできるし、非保持では中盤ラインの中央でブロック形成をリードする。ヘディングも球際もやれて頼りになる守備者でもある。アンカーというよりコンプリートなMFのような選手。色んな仕事ができると同時に、どれかの仕事を一人で完結できる、というタイプでもない。周りの助けがいる。だから味方との距離感、リンクを重視したポジション取りや配球が上手い。ビルドアップ局面では2CBと、右サイドではペドロ、ミリンコヴィッチ=サヴィッチ、ラッザリとのトライアングルをサポート。左も同様に行う。非保持でも中央で浮くのではなくラインに参加する。左右、前後との距離感を重視して守備ブロックの真ん中で機能している。サッリがこのチームの心臓に選んだ選手はモダンで、不思議な魅力がある。

●ストライカーの考え方
見ていた時期にちょうどインモービレが怪我で抜けていた期間があり、フェリペ・アンデルソンが真ん中を務めた。インモービレの決定力はあらためて凄まじいものがあるが、サッリらしいサッカーという観点で見るとフェリペ・アンデルソンがトップにいる試合の方がそれらしさはあった。
インモービレはまさにストライカーで、中央に構える。守備では直線的に相手CBの選択肢を奪うことを優先し、勇敢に走り回る選手だ。毎年とんでもないペースで得点を上げており、彼がいる試合では"適当に真ん中にクロス上げればどうにかなる"と思われている節があり、実際そのボールは厳しいなあと思ったクロスをワンタッチで収めて右足を振り抜くシーンが何度もあった。ほんとにクロス上げときゃいい。レヴァンドフスキに匹敵する意味不明な得点感覚がある選手だ。
一方のフェリペ・アンデルソンは視野の広さと、味方選手との繋がりを意識したポジション取りができる選手。攻撃でも守備でも味方との距離、顔出しを強く意識し、常にボール付近に関わる。これがサッリのチームにそれらしいブーストを掛ける役割を果たしていた。両WGよりも低い位置までボールを触りに落ちてきて簡単に前を向き、相手最終ラインを押し下げる。ルイス・アルベルトと距離が近づくとかなり厄介。そこからチームは前向きに出力を上げて敵陣深い位置を取りにいくことができていた。非常にサッリ的。例えるならイグアインではなくメルテンスなのかもしれない。
とはいえインモービレは得点王でキャプテン。試合に出せば大体点を取ってくれる選手で、使わない手はない。サッリらしさよりもインモービレの能力に信頼を寄せていることがよくわかる。それとフェリペ・アンデルソンはどっちにしてもスタメンなのでこのポジションに固執が全くないのも、なんだか良いバランスである。

● 中盤の選手交代
中盤の選手交代を頻繁に行う。よく出てくるのはマルコス・アントニオとベシーノの2人で、どちらも守備能力に特徴のある選手である。
ベシーノは守備体形の変更をする時によく使われ、前線からのプレスを強化する目的でルイス・アルベルトと替えることもあるし、撤退の強化のためにアンカーの隣に置くこともある。得点が欲しくてボールを奪いたい時と逃げ切るために守備を固めたい時の両方で起用できる便利屋と言える。彼はウルグアイ代表の時と同様に脳筋力が高く、攻撃では特に何もしないのも特徴。これで長い間ビッグクラブにいられるんだから凄い能力だと思う(褒めてます)
マルコス・アントニオは今季加入した小柄なMFで、彼は機動力・運動量に特徴がある。特にベシーノが入って前プレを強化し、二列目の4枚を確保しきれない場面で特徴を出し、自身のマーク対象が頻繁に変わる時間帯でも正しくポジションを変え続けて中央のバランスを担保できる選手。攻撃性能はよくわからないが逆サイドのWGへのロブパスを多用する傾向にある。ネガトラでちょろっとファールしてさっさと自陣に引き返すプレーも多く、終盤のトランジション合戦で頼りになるタイプだ。

●まとめ

サッリのチームらしく、綺麗な配置と選手間の距離が近いパスワークを生かしたチームである。ボール保持を軸とし、非保持は前線から追い回す再奪回とビルドアップを許さないボールプレッシャーをベースにしながら試合のペースを主導的に作ることを望む。
まずはボールを持ち、パスワークでこそ生きる中盤3人とカウンターで特徴が出るWGを組み合わせ、全方向への対応を目指す。両SBが対人に強くオールマイティな能力を有することは近年の上位クラブの必須条件であり、同時にPA内の守備を2人でほぼ完結できると同時にビルドアップを牽引できるCB+GKがいる。
最前線には大黒柱にしてセリエA得点王のインモービレを置き、ある程度仕組みと構築とは無関係に得点を上げながらチーム全体をリンクさせる。さらにリンクを優先するならフェリペ・アンデルソンをトップに置く選択肢があり、パスワークとWGのストライカー化を目指すなら彼の方が適任に見える現状であった。

左右のトライアングルで作るスモールユニットにカタルディがリンクすることで生み出す四角形ダイヤモンドが侵入のメインプランで、フェリペ・アンデルソンがそこにアクセントを入れることができる。インモービレの場合は真ん中に留まってPA内で圧倒的な存在感を発揮する。適当にクロスを蹴っても決定機を作れる上、シュートまで持ち込めばCK獲得に繋がり、セットプレーに強みがあるチームは効率よく得点を上げることができる。

欠点は2つ。ビルドアップの詰まりに起因するゲームペースの喪失と、撤退ブロックの破壊フェーズであった。
まず、相手チームの前プレに対して中盤の選手、特にアンカーのカタルディが最終ラインに落ちて保持枚数を調整する対応をやらない。絶対やらない。一度もやってない。
IHが大外レーンに移動することもほぼなく、あるのはWGが落ちてくる形くらい(特にペドロ)で、人数バランスを動かしてプレス回避するような考え方がそもそもない。そして、カタルディも含め中盤の3人、そしてWG(ペドロ以外)はラインを降りてきてボールを引き取りチームに前を向かせるようなプレーが得意ではなく、"ここにボールを預ければ落ち着くタイミングを作れる"という箇所をチームとして有していない。これは保持型チームには致命的に見える。ルイス・アルベルトも意外と後ろから受けるパスで相手を外すようなプレーは見られなかった。結構受け方の注文が多い選手。ペドロはやれるんだがWGポジションに立つことの優先順位が高い様子。
ラリーガはどんなクラブでも基本的にパウサを作れる超絶技巧派MFがいるんだなと再確認させてもらえて面白かった。

ということで、駄目なら潔く蹴っ飛ばす。ただ、この蹴っ飛ばしがなかなか強いのである。まずインモービレ&フェリペ・アンデルソンはロングボールを収めるのが得意。ヘディングが強いとかではなく、ボールを収めてしまうので前プレをひっくり返せる。だから相手は前プレに来るのが難しいのかもしれない。どうなんだろう。
ただ、レッチェ戦ではウムティティら屈強な最終ラインにロングボールを回収され続け、あれよあれよと失点を重ねて逆転負けした。強い前プレと屈強な最終ラインが両立すればハメ殺すことが可能と言えるだろう。
ちょうどアタランタは強烈な前プレが特徴のクラブであり、この対戦を楽しみにしていた。最終ラインも意味不明なほどのマッスル。条件は揃っている。ラツィオはキックで回避するのか無理やり地上戦を戦うのか、アタランタはどのように阻むのか。試合の注目ポイントとなる。

もう一つは撤退ブロックを破壊するパターンに欠ける点。特にユベントス戦でほぼチャンスメイクできない90分を過ごした。
チームとしての正しい配置と距離感の維持が優先順位の上位にあり、一人で突破口を作れるアタッカーがハマるタイプのチームでもないので仕方ない面もある。ザッカーニも案外特徴が出せず、強力に見えていたペドロ&ラッザリの右サイドも撤退ブロックには割と無力であった。これも、アタランタが最終ラインに5枚並べた際にどのように崩すのかが注目。
ただ、逆に撤退を選んだ相手にカウンターを許すことはあまりない。再奪回の手順が徹底されており即時奪回の意識が高く、2CBとアンカーのカタルディはセンターサークル付近に穴を空けることなく非保持対応を行う。シメオネアトレティコ同様にネガトラのバランスに苦慮している様子が見られるが、セットプレーやインモービレの理不尽シュートで1点をもぎ取れるチームだ。そういう方向性で得点を取ることも計算に入れているのかもしれない。しかしサリーを絶対やらないのは何故なんだろうね。

今季は後半戦に向けては20-21シーズン以来のCL権の獲得が主な目的になるだろう。優勝はナポリで決まりだし。そのためにもアウェーで2-0で勝利している直接のライバルであるアタランタには勝っておきたい。楽しみな試合だ。

お付き合いいただきありがとうございました。普段そんなに見ないセリエAだけど面白いね。いいチームが多い。
最後に、試合を見てきて個人的に好きだった選手、この選手アトレティコに来てほしいなと思った選手を3人ご紹介します。スカウティングレポート頑張りますのでサポートいただけますと幸いです。よろしくです。



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