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誰の望みを叶えるか 35節 アトレティコvsマドリー(H) 2022.5.8

35節。前節ラリーガ優勝を決めたマドリーと、4位死守を目指すアトレティコのダービーマッチ。

マドリーはミッドウィークにシティを倒してCL決勝進出。5/28の決勝に集中しており、モチベーションの置き所も明確。120分戦ってきており、大幅なターンオーバー予定。

一方のアトレティコも4位以内死守に向けて目標は明確。5位ベティスとの勝ち点差は3。前日にベティスはバルサに負けており、ここでポイントを積みたいところ。

前回対戦

2行目で崖っぷちって書いてあるレベルで当時は限界どん底だったアトレティコ。CLでポルトに劇的勝利した直後の試合だった。つまりファイアーフォーメーション。まあ何となく4-4-2のブロックの基礎のようなものが見えてきたり、前プレ時の背後の管理が甘かったりした試合。


●スタメン

ダービーマッチのスタメン。

・アトレティコ
オブラク
ヴルサリコ / サヴィッチ / ヒメネス / ヘイニウド
コンドグビア / コケ / ジョレンテ / カラスコ
コレア / クーニャ

ヘイニウドは前節のイエローで出場停止のはずだったがゴネたら取り消されて出場できた。
中盤はデ・パウル、エレーラはベンチに置いた。
スアレスとグリーズマンもベンチから。

・マドリー
ルニン
バスケス / ミリトン / バジェホ / ナチョ
カゼミーロ / カマヴィンガ / クロース
アセンシオ / ロドリゴ / ヨビッチ

CLからは大幅にメンバー変更。GKはルニンがラリーガ初出場となる。
CBはバジェホがエスパニョール戦に続いてスタメン。中盤はカマヴィンガが起用された。
トップはマリアーノ予定だったがウォーミングアップ中の怪我でヨビッチになったとの事。


パシージョはせずに試合開始

●前半
・趨勢を決めたプレス強度

アトレティコの敵陣での守備と再奪回がハマった前半。マドリーはメンツも普段通りではなく、効果的に前進するのが難しかった。

アトレティコの非保持配置は4-5-1、と表現しておこう。数字は電話番号。別に4-1-4-1と書いてもいいんだが中盤3枚はまとめて同じタスクをしていたような気がするからなんとなく。数字は電話番号。お好きにどうぞ。

正確な約束事は、

・クーニャは真ん中で2CBを狙って分断
・コレア、カラスコは両SB(ナチョ、バスケス)に張り付く
・コケとジョレンテはボール保持者に近い相手選手にプッシュ
・コンドグビアが後ろでインターセプトを狙う

という形。
最終ラインは4枚残してマドリーの3トップに対峙する。ベンゼマとヴィニシウスがいるわけではなく、アセンシオにはヘイニウドが対応出来る、となるとコンドグビアより前の6人は後方の心配はほぼ無しで前進守備が出来る。 

前回対戦ではこんな失点もありましたが

この日はSBに両翼が張り付いて、マドリーが中央を進んで来れば止められる、という自信を持って対応したし、実際出来た。特にコンドグビアはCLでも成果を残して自信を持っている前向きのプッシュで得意の味を出せていた。
マドリーは自陣でのエラーも多く、アトレティコはシュートチャンスが複数訪れる。ボール奪取と同時にカラスコとコレアが内側へ向かってランニングし、相手SBを置き去りにする。

相手CB2枚に3人がラッシュするイメージで。
狙った形でチャンスは作れたが、決めきれない流れ。

続いてアトレティコの保持。後方に守備ブロックを作る、という普段のような展開はあまりなかったアトレティコ。保持のイメージは後方に3+1を残して右SBのヴルサリコを押し出す。

割と見慣れた配置。マドリーの非保持はカマヴィンガを前方に出すが、適任かどうか怪しい。そもそも前で止めようという感じはほぼ無い。こうやって改めて見るとマドリーのSBってめちゃくちゃ内側に絞って守るな。という印象。
アトレティコは”この程度の圧力なら”という感触と、”カウンター怖くないな”という実感で、割と強気にヘイニウドもハイポジションを取る事が多かった。アトレティコにはなかなか珍しい配置。それなりに点を取りに行く配置は出来ていたので印象は悪くない。

押し込めている時間帯にはカラスコの外側をコケが駆け上がってチャンス演出。

あとはゴール前の精度だけ、という形は作れた。
ちなみにカラスコがSBを連れ出すためにわざと低い位置でボールを引き出して後方スペースを使う狙い、とかは全くない。たまたま流れで。

・マドリーの対応
マドリーはCB間にクロースが落ちる事でクーニャ、ジョレンテの対応を外し、大外で待っていても仕事がないアセンシオが中央に関わるなどして前進を試みる。

クロースの位置取りでクーニャが球出しのコースを消しきれなくなり、コケ、コンドグビアもマーク対象を絞りきれなくなる。まあだからといってこれでマドリーの前進が劇的に改善したわけではないが。ヨビッチのボールへの関わり方もいまいち定まらず、そもそも何をしてもサヴィッチとヒメネス相手で違いを生めるイメージは一切なかった。

これを言うと元も子もないが、結局この日のマドリーのコンディションとメンツではアトレティコのプレスのハメ方を正確に評価する事は出来ない、と言うのが正直な感想だ。SBにメンディorマルセロがいれば、カルバハルがいれば、大外から打開されて中央の前向きのプレスが出来ない状況を作られたかもしれないし、

モドリッチがいたらコケはIHを捨てて前へ圧力をかけられたかはわからない。

クロースとカマヴィンガが万全の出来だったともとても思えなかった、というのが現実。

とはいえ実際に、この日のピッチ上ではアトレティコ優位に時間が進んだ問題はなかなか点が入らなかった事。結局得点は40分のPKまでかかった。このPK奪取も、マドリー側のパスミスを引っ掛けたところからであった。
まあ指摘しても仕方ないが、PKか?というコンタクト。ミリトンがボールを取り切った後にバジェホがクーニャの足を踏んでいた、という感じか。もうクーニャの演技力が凄すぎて審判が正確な判断を失っている感さえある。来年必ずブレイクする10人とかに選ばれそうだ。俳優の部門で。
これをカラスコが決め、どうにか先制点は奪って、前半を終えた。

●前半終了
1-0で折り返し。マドリーはこのメンバー、この配置では流れは変えられなさそうだったが、どうだろう。アトレティコとしては優位を作れている前半の内に少なくとも先制はしておきたかったが、何とかPKで1点。最低限の45分を過ごした。

前半を見た上で感じたアトレティコの課題点を挙げておく。

・ヴルサリコ狙いのサイドチェンジの質
・この日のコレアの役割
・コンドグビアのビルドアップクオリティ

非保持の出来とトレードオフな部分もあるので”だから替えろ”という話ではもちろんないが、一つずつ

・ヴルサリコ狙いのサイドチェンジの質
明らかにエルモソの方が質が良い。少なくとも前半の内は、ヴルサリコのスキル云々ではなくこのサイドを狙うボールが明らかに悪かった。後半はシンプルにヴルサリコの質に疑問があったが

・この日のコレアの役割
ジョレンテとの相性が抜群なのはもはや言う必要もないが、ヴルサリコ+ジョレンテが背後を狙う環境で自分の役割を見失っていた。そして彼自身、シティ戦辺りからどうにも様子がおかしい。ゲームに集中出来ていないような印象を受ける。非保持は悪くなかったが、後半替わって出場したグリーズマンとの質の差は明白だった。

・コンドグビアのビルドアップクオリティ
マドリーは前からボールを狩る狙いは一切なく、その環境においてもコンドグビアを経由した攻撃の組み立てはほぼ無し。後半の話だが180度ターンするところでロドリゴに突っかけられたシーンはけっこう絶望した。久々に名前を出すが今でもこのポジションの適任はトーマスなんだなと実感する毎日である。

この試合の前半の課題、というイメージで羅列したが、この試合中に改善する事はないのもわかっている。そのお話はまた後ほど。


●後半
・変わったバランスで得を取るのは誰だ

アトレティコはコレア→グリーズマン交代で後半開始

グリーズマンは、非保持ではそのままコレアのやっていたタスクを。
ただ、マイボールではシンプルに真っ直ぐボール方向に降りてくる形で、”いなくなる事でジョレンテのプレーエリアを準備していた”。

アトレティコの今季の配置構成上、このコレア&グリーズマンのポジション(FWの2枚目)が一番柔軟に役割を持てる。はっきり言って何をしていても良い。だからこそ、どこに立つか、どの向きにボールをもらうかでチームが変わるポジションである。

この日のグリーズマンはシンプルに縦挙動を意識。サヴィッチやCHがボールを持ったら真っ直ぐ降りてボールを引き出し、縦パスがクーニャに入ればシンプルにPAに向かってランニングした。

後半はマドリーも、選手は変えていないがバランスを変更。ポイントはSBの配置だ。特に右のバスケスが、ビルド時に明確に高い位置を取るように変えた。今さらではあるが、この日のアトレティコの大外の対応は基本的にランデヴーなので、マドリーのSBの配置が高くなればアトレティコの大外の位置は低くなる。

バスケスがカラスコを押し込む。
バスケスのいなくなった場所にカマヴィンガが、CBの並列にクロースが入る事でアトレティコの前プレのハメ所を無くす。前半に比べれば自発的にアクションを起こせるようになったマドリー。

これで仕事を得たのはアセンシオである。バスケスが高い位置に顔を出してボールを呼び込む事で、前半は仕事がなかったアセンシオの周辺にボールが来るようになった。近い距離でカマヴィンガのサポートも得られるようになり、ミドルシュートのチャンスが訪れるようになった。

これらの局所設定の変更で、試合の展開は大きく変わる。
前半は、CHのところでアトレティコがハメてボール奪取、両翼がPAにアタックという形で試合が進んだが、後半はマドリーの両SBが高い位置を取るようになり、ボールを保持しながらアトレティコを5バック気味に押し込むようになった。

逆に、前半は後方からの組み立ての際はじっくりとカラスコ周辺の人海戦術とコケのランニングで侵入していったアトレティコだったが、後半はマドリーが後方に4枚揃わないケースが増え始めた。

アトレティコがボールを奪った時、マドリーは後方2枚しか残らない
これでアトレティコはカラスコやジョレンテが大外を狙い、中央をクーニャとグリーズマンが狙うロングカウンターを連発するようになり、試合のバランスは前半と大きく変わった。ジョレンテはせっかくスペースがあるのに、ヴルサリコからなかなか思ったタイミングでボールが出てこなくてイライラしていたが。
前半よりも殴り合いに近いバランスになり、アトレティコはこのオープンな展開でトドメを刺したいとも思いつつ、リードしている以上、危ういバランスのゲームにどこまで付き合う必要があるかという難しい後半になった。

まとめると

■前半
・アトレティコの前プレがハマりショートカウンターでチャンスメイク
・アトレティコの保持にマドリーはミドルゾーン撤退。アトレティコはカラスコ周辺の質とコケのプラス1で侵入
■後半
・マドリーがSBを押し出し、プレスを潜り抜けて敵陣侵入。中盤にスペースが生まれる
・マドリーの後方待機人数が少なくなり、アトレティコはロングカウンターを打って得点機創出

という感じ。アトレティコにとってはメリットとデメリットの比較がとても悩ましい状況。


60分、ここでマドリーは選手を入れ替える。
まず上下動の大幅に増えた後半のバランスに必要な選手を入れる。バルベルデだ。この試合でカゼミーロをこれ以上消耗させる必要もなく、ここで交代。カマヴィンガが中央に移り、広い中央エリアの陣取り合戦を担当する。そしてヴィニシウス。彼は単に30分にプレー時間を絞る事が目的だったかもしれないが、単独でアトレティコのラインを押し下げられて、相手を押し込む時間帯のクオリティを担保出来る選手を前線に置いてきた。残りは30分。

・オープンな展開の是非
アトレティコはどこまで、この早いテンポの時間帯を受け入れるのか、という展開。
もちろんスペースがあり、チャンスも複数作れていた。ここで2点目を取れていれば言う事無しだったが、クーニャ、カラスコ、グリーズマンが度重なるチャンスをフイにし、時にはルニンの好セーブに阻まれた。
この日のマドリーのコンディションなら、アトレティコは引ききれば1点差を守れそうでもあり、この日のマドリーのコンディションなら、2点目を取れそうでもあり。あまり自発的な選択を出来ない分、悩ましいアトレティコベンチ。もう一度言うがさっさと2点目が入ればそんな悩みもなかった。ヴルサリコが不用意なロストでヴィニシウスに突っ走られたりバルベルデの強烈なシュートが飛んできたりと、妙なスリルがあった。

68分にマドリーはモドリッチとメンディを投入。これでアトレティコのベクトルは後ろに向き始める。ヘイニウドの故障でフェリペと替わる事になり、アトレティコ側はさらに"1-0でいいや"感が色濃くなる。
それでもコケ辺りがなんやかんやでマイボールを収めてチャンスメイク。しかしゴールが決まらない。ポジティブに言えば、5試合分くらいの"あとは決めるだけ"の場面を作れた。作れたというか、カラスコとグリーズマンの腕力で作ってしまった。
結局追加点は生まれないまま、最後は5-3-2での撤退を受け入れ、PKの1点を守り切って試合終了。


●試合結果
1-0。カラスコのPKの1点を守り切ってアトレティコがなんとかダービーマッチを制した。なんとラリーガでのダービー勝利は15-16シーズン以来、6シーズン振りだ。そういえばマドリーに勝つ試合のレビューを書くのは初めてである。やったぜ。
ダービーマッチとはいえ、この試合の持つ意味は両チームにとってあまりにも異なった
アンチェロッティはその辺の熱を下げるのが非常に上手かったように感じる。カゼミーロが交代する際に笑顔で談笑するところが抜かれていた。真意はわからないが"あ、マドリーは今日こういう雰囲気なんだ"と世界中にアピールしたシーンだったように思う。負けても誰も責められない雰囲気を作り出していた。試合後にも”我々に勝ち点は必要ではない”とキッパリ言ってみせたし、スタメンを見てもそれは本心であろうが、後半のバランス変更と選手交代は、意外とガッツリ勝とうという意図も見えていた。本当にこんな試合負けても良いと思っているなら、あの選択はかなり意地が悪い。ピッチ上のメンバー構成と、主力選手に許容出来る出場時間の中でしっかりアトレティコを負かそうとしていた。

一方のアトレティコはなりふり構っていられない。CL圏確保へどうしても3ポイントが欲しかった。後半はシメオネもトドメの得点を狙うかドン引き撤退するかのジレンマに揺れた中、カラスコとグリーズマンがこれでもかとチャンスを外し続けて胃に穴が開く思いだったはずだ。
実際、試合展開の推移はマドリーのバランス変更、選手交代によるものであり、正直言ってどちらかと言えば無策だったのはアトレティコの方。流れに乗ってただ一生懸命やっただけだった。勝てたからいいが。結果オーライだが、マドリーと当たるのが優勝の決まった35節で本当に助かったね。という結末。なんとか勝てた。ホッとした。

この日ソワソワさせられたのはシンプルにラストサードの質。カウンターシチュエーションにおいても縦パスでスイッチを入れてのコンビネーションにおいても微妙な感覚のズレ、パスのタイミング、受ける足のちょっとした違いで得点に繋がらない。
この辺りは素直に今季の積み重ねでしょう。シーズン前半は試合終盤のFW大量投入でどうにか勝利を拾い、年末には絶不調になり、バランスを取り戻したのはジョアン・フェリックスの質によるものだ。そしてフェリックスはいない。今のタイミングで突然"ゴール前のコンビネーションをどうにかしなさい"と言われても無理がある。今季はこんなもんだ。そんなものやった事がない。それが文脈。シティ戦ではフェリックスにボールを入れるタイミングのところで指摘したが、来季へのチーム全体の課題。
じゃあ今季の残り試合はカラスコとグリーズマンの閃きと独力突破でどうにかお願いしたい、というところで2人がシュートを外しまくったのがこの試合。正直"そりゃそうだ"という感想だし、逆にこの試合で息のピッタリあったカウンターを連発したところでそれは別に今季チーム全体で取得したスキル、という感じは全くしなかっただろう。こんなもんだ。コンビネーションでの突破こそが生命線のコレアが生きないのもその辺の影響は大いにありそうである。ロディもそんな感じ。残り3試合も得点機を演出するのはカラスコでありグリーズマンになるだろう。そして局面でプラス1を生み出すのは有機的なトライアングルではなく、コケの気合と根性だろう。"これは来季に繋がる試合!"という美しい勝ち方は残り3試合も見られないと思われる。

何はともあれ、5位ベティスがバルサに負けたため、これで6ポイント離した。喉から手が出るほど欲しかった3ポイントをマドリーから貰えた事は非常に大きな事実。シーズン最後の目標へ向けて、今季も残すは3試合。お別れになる選手もいるであろう。両目を見開いて、レビューしていこう。


5/8
ワンダ・メトロポリターノ
アトレティコ 1-0 マドリー
得点者
【アトレティコ】’40 カラスコ(PK)



●ピックアップ選手
カラスコ
前半はセットオフェンスで違いを作り突破口に。比較的オープンな展開になった後半も幾度となくチャンスメイクしたが、この日はゴールに嫌われた

コケ
強度の高い試合こそコケが。
攻撃でも守備でも運動量でプラス1を生み出し、動きの重いマドリーを追い詰めた。CL出場権まであとちょっとだ。

オブラク
エリア外から危ないシュートが何本も飛んできた試合。オブラクなら当然止める。当然の働き、当たり前のクリーンシート。

グリーズマン
狭いゾーン、時間のないタイミングでボールを受けて何度も得点機を作った。しかし今季は枠に飛ばない。苦悩する今季を象徴するような45分となった

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