なぜコケが相手SBにプレスをかけるのか?〜今再び確認するアトレティコ4-4-2の約束事〜

突然ですがアトレティコの試合を見ていて、"どうしてSBのプレスにコケが行くんだろう"と思った事はありませんか?

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元気だなぁとか献身的だなぁとか、コケは凄い。って話で終わってしまうのはもったいない気がするので、ちょっと書いてみます。

コケが相手SBにプレッシャーに行く。これはアトレティコの4-4-2の構造を理解する事で理由がわかる現象です。とはいえ最近は中盤が4枚ではなく3枚の5-3-2でプレーする事も多いアトレティコ。

少し前に書いたアトレティコの5バックの記事はこちらです

懐かしいねえ

逆に最近の私はCHが相手SBにプレッシャーに行く場面を見ると、"お?今日は4-4-2か"と認識する基準になっていたりします。

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4-4-2。
相手SBにプレスを掛ける選手が決まるプロセスは、このチームがどのように守りたいか。どのゾーンを使われる事を避けたいか。という"構造"の先にある"現象"となっております。そこを順を追って確認してみましょう。今再び、アトレティコの4-4-2を整理する時間です。後半戦、4-4-2増えそうだしね。


●使われたくないゾーン

1:チャンネル
2:SBの背後

まず、使われたくないゾーンの規定から。

アトレティコの守備の前提条件として、"CBはペナ幅に留まる"というものがある。これは鉄の掟だ。この後も頻発してくる掟なので暗記しましょう。

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5-3-2の時の3CBがカバーする幅は?という話は何度か触れてきた。スーペルコパのアトレティック戦のピックアッププレーで触れた場面も、エルモソの守る幅、マーク対象がブレた事で立ち位置が不安定になった。4バック(2CB)の方が選手達のカバーエリアの理解が早いというのが、個人的に4バックを推す理由でもある。

使われたくないゾーンは、チャンネルとSBの背後の2つだ。理由は簡単で、ここを使われるとCBがいるべきポジションにいられなくなるから。引っ張り出させるからである。鉄の掟を守れなくなるから。あるいは鉄の掟を守るために、このゾーンを使われたくない、と言い換えても良い。それがアトレティコの守り方の共有意識だ。各選手のポジション取り、封鎖するパスコースはこのゾーンを使わせないために設定される。


●守備成功の条件
逆に設定している"最低限の守備成功条件"はこれだ。敵部隊全滅だと星3つでボーナスアイテム貰えるけど10ターン本拠地を占領されなければ星1でクリアだよっていう星1の条件。もちろんインターセプト出来た方がいいんだが、それは星3だ。

設定1:大外レーンからのクロス
設定2:エリア外からのシュート

この2つは守備成功。理由を見ていく

・大外レーンからのクロス
これは成功だ。下図の通り

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逆に言うと、"これを成功条件に設定するためにCBはペナ幅に留まらなければならない"と言ってもいい。大外からのクロスなら大丈夫。ハーフスペースから速いクロスだと間違いが起きる可能性があるので高いボールを蹴らせたい。それなら守備成功。である。対応しなければいけないエリアがどこなのかわかっている状態で、大外からの滞空時間のあるクロスならGK+2CBで絶対に弾き返せる。というか、それが出来る事がこのチームのCBの必要絶対条件である。エルモソは何故獲得されたのだろうか。ともあれ、これが設定その1だ。

・エリア外からのシュート

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これはオブラクが止めるからだ。止めるからOK。冗談ではないですよ。
CBがミドルシュートを警戒してエリア外へ連れ出される事の方がダメ。もちろんシュートコースの限定などはルールがあると思われる。おれはそこまではわからん。

設定その1に付け足すとするならば、"ペナルティエリアからCBを連れ出されないために、エリア外からのシュートは(コース限定がされている条件下で)全て止められるゴールキーパーが必須"という話だ。

これがこのチームのGK+CBに絶対必須能力。入社初日のオリエンテーションで暗唱させられる部分である。まとめる

・GKはハイボールに強い必要がある
・CBは大外からの高いクロスは絶対に跳ね返せなければならない(所定のポジションにいられるように周囲のサポートを受けられるものとする)
・撤退時、CBはペナルティエリアから飛び出してはならない
・上記のためにGKはペナルティエリア外からのシュートは全て止める能力が必須となる(補助サポートあり)

その他の守備の約束事の終着点は全て上記に帰結するように出来ている。それぞれ見ていこう。まずは、CBを引きずり出されないために、先述した使われたくないゾーンを使わせない。そのためにいかに守るか、だ。


●いかに守るか
・チャンネル
ここに飛び込ませないためにどうするか。単純な話具体的な方法は2つだ

・対応1:そこにパスを出せないようにボールホルダーにプレッシャーをかける
・対応2:そこに誰かがいる

この2つ。パスコースの切り方はこの条件を元に角度が決められる。図にする

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内側からニアゾーンを突こうとするケース
この場合、パスコースを完全に限定する事はおそらく不可能だ。中央のレーンでボールを持たれており、ボールホルダーの選択肢は数多ある。この場面でチャンネルへのスルーパスだけを最優先で警戒するわけにはいかない。シュート、ドリブル突破を気にする必要がある。なので、チャンネルの警戒をマーカー(この場合CH)が担当する事は難しい。そこで対応2:そこに誰かがいる、だ

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SBが対応2の方法でチャンネル警戒担当。チャンネルを閉じてニアゾーンへのパスを封鎖する。この時のSBの思考はなるべくシンプルでありたい。"ニアゾーンに侵入する相手選手を捕まえる"になると選手にとって判断、確認事項が増える。まずシンプルでいい。"ニアゾーンへのパスコースを閉じる"。これだけやる。シンプルでいい。

ここで疑問が出る。
「先生、SBがそんなに絞ったら大外がガラ空きになります。WGアタッカーにプルアウェイされたら大外レーンでフリーになり押し込まれてしまいます」
いい質問です。ここで先程の項を思い出してほしい。"設定1:大外からのクロスは、守備成功"である。だから捕まえなくていい。ニアゾーンさえ使われなければ、大外に開いたウイングにボールを持ち運ばれても良いのだ。先程言ったように思考をシンプルにするために、SBはこの前提条件を頭に叩き込んでおきたい。ちなみにジョレンテはこれが全く出来ていない

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大外へパスを出させる。これはピンチではない。守備成功へ徐々に近づいている実感を選手は持ってプレーしているはずだ。ジョレンテ以外は


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SBが相手ウイングと対面。この時SBの思考はシンプルだ。抜かれなければいい。理由は?抜かれるとCBがいるべき位置から引っ張り出されるからだ。掟に基づいて守る。万が一のサポートは出来ればCH辺りがやりたい。クロスはOK。この際、CHはマイナスへのクロスを警戒する角度を保ってポジションする

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当然、相手チームも馬鹿じゃない。"アトレティコの2CBが待ち構えている状態でクロスをあげても無駄だ"となる。アトレティコのCBをやっているという事は単純なクロスは弾き返すはずである。エルモソは別。

なのでやり直す。カバーポジションを取ったSBにボールが戻る。この時、相手チームの狙いは引き続きここだ

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チャンネル
ここをどうにか使いたい。ではアトレティコはどう守るか。まず、チャンネルを警戒する担当が変わる。という認識が必要だ

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SBは引き続きウイングを見ている。しかしこの時、SBの意識はニアゾーン警戒から使われたくないゾーンその2、"SBの背後を使わせない"に移行している。当然、ここで裏を取られるとCBが引っ張り出されるためだ。
SHは自分の立つべき位置を確認する必要がある。"ニアゾーンへのパスコースを消す立ち方"である。ニアゾーン警戒の担当がSBからSHへ変わった瞬間だ。SHの優先順位第一はボールプレッシャーではない。背後へのパスを警戒する。

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メンディとヴィニシウスがやってきそうな突破
こういうプレーを警戒するイメージで、SBは使われたくないゾーンその2の自分の背後を警戒しつつ、チャンネルに入るボールへの警戒を共有する。

縦パスを封じれば、CBまでボールが戻ってやり直しになるor再度ウイングにボールが戻る。ウイングに戻った場合は

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SHがそのまま、今まで背中で消していたニアゾーンに落ちる(CHが落ちても良い)。SHはニアゾーン警戒の担当である事は変わらないが、方法が対応1:そこにパスを出せないようにボールホルダーにプレッシャーをかけるから、対応2:そこに誰かがいるに変わる。この意識転換は大事だ
SBは縦に行かれても抜かれなければ良い。最後はCB2枚がゴール前で待ち構えた状況でクロスを上げさせれば対応成功となる。CHは先程同様、マイナスのクロスを警戒する位置まで戻ってくる。


以上がニアゾーンを狙われた時の対応。次に進む

●中盤4人の約束事
上記の内側からニアゾーンを突こうとするケースで、アトレティの皆様はおそらくこのような疑問があったはずだ。

「アトレティコはそんなところでフリーでボール持たれないよ」

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そんなとこ

その通りだ。それは何故か。そのように設計されているからだ。これが中盤4枚の約束事になる。
基本設定は、チャンネルとSBの背後を使われたくない→そのためにSBはチャンネルを塞いでCBとの間を通されるパスを避けたい→そもそもそこにクリーンなパスを出せる状況を作らせない
となる。これが中盤4人の役割。

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アトレティコの中盤は基本的に自軍ゴールに背中を向けた身体の向きをキープする。ニアゾーンへのパスコースを切っていた時も、選手の顔は自軍ゴールを向かない。その意識は重要だ。ライン間で自由にはさせない。自分達4人の前で相手がボールを持っているなら大丈夫。この共通理解は必須。イメージを言語化するなら、CBに対してドリブルを仕掛けられない事が最優先だ。理由は?もちろんいるべき位置からCBが連れ出されないためだ。鉄の掟を守るためである。

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CBの前に壁を作る。先程出てきたように相手SBが保持している時には思いっきりスライドする。逆サイドのSBはフリーになっても良い。

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逆サイドにフリーな選手がいても、CBの目の前を晒さない事を優先。
ボールプレッシャーが掛かっていればサイドチェンジされる事もないし、CB経由などでサイドチェンジされても気合と根性でスライドしてラインを揃える。

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アトレティコのこの所作の美しさは他の追随を許さない。圧倒的に速く、極めて正確にスライドする。SBは行き過ぎてチャンネルを空けないように注意しながらスライド

・スライド
5-3-2で難しいのはここだ。中盤3枚ではボールプレッシャーを掛けるアタックが難しく、またサイドチェンジを警戒する事も、サイドチェンジされてしまった際にスライドする事も難しい。HVが飛んでいく、みたいな構造をしているチームも探せばある気がするが、アトレティコは今のところはそうなっていない。3CBの行動エリアの設定がいまだにあやふやである

話を戻す。この中盤のブロックに必要な要素として一つ、SHのポジショニングをあげたい。あとはだいたい気合と根性だ


・SHの意識〜SBを孤立させない〜
この意識が必要になる。SBが孤立するとどうなるかというと、

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こうなる。
SBが孤立し相手選手2人を見ている。SHは前進しすぎて背中でパスコースを有効に消す事も出来ていない。どちらの選手にパスを通されてもCBを引き摺り出される事になるだろう。
これは避けなければならない。守備におけるSBの登場場面はもうちょっと後である必要があるのだ。SHはそのための前座としてボールプレッシャーに関与している必要がある。そのために、相手SBに激しくプレッシャーをかけ、後方の味方SBが孤立する事は避けたい。じゃあ相手SBがボールを持ち出して前進を始めたらどうするのが正解か?

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ようやくタイトルを回収した。相手SBが自らドリブルで持ち上がる選択した場合に、SHは釣り出されてはならないのだ。だからCHがボールプレッシャーに行く。これが、アトレティコのプレス構造だ。わかりやすかったでしょうかどうでしょうか


・どんな選手が嫌か
相手チームにどんな選手がいると嫌か、というと、まずはライン間。圧縮しているライン間でも自在にボールを引き出せる選手は嫌である。中盤4枚は自軍ゴールに顔を向けない、が成り立たなくなる。具体的にはメッシだ。
後は、"最低限の守備成功条件"が成り立たない相手も嫌である。自慢のCBが競り負けてしまう程に絶望的にヘディングが上手い選手、具体的にはロナウドである。
さらに挙げるなら守備エリアの外でボールを受けて単独突破で根幹を破壊できてしまう選手がいたら困るだろう。具体的にはメッシとロナウド。メッシとロナウドはどんな守備をしていても基本的に相手チームにいると困るので、特に苦手な相手はいないと言っていいのではないか。あとはセットプレーでセルヒオ・ラモスがいると嫌だ。


今回、あらためてアトレティコの4-4-2守備の約束事をまとめてみた。5-3-2の約束事が比較的ふわふわしている分、この4-4-2はしっかりと規定されていて、そして美しいとあらためて感じた。
そもそもおれは守備というものが好きだ。サッカーは理不尽な即興性が付きものだが、守備の約束事は全て理由と意味があるからだと思う。メカ的な機能美を感じる。
アトレティコの4-4-2は、世界中のどんな守備組織よりも精密で美しいと断言出来る。最近は様々なシステムにチャレンジしながらもシメオネのチームの根底にはこの4-4-2があり、帰るべき実家であり続ける。試合中見ていると不意に感じる、"なんでSBにコケがプレス掛けるんだ?"を軸に、その実家の構造を言語化する試みをしてみた。楽しかったです。

今のアトレティコは完全ではない。脆く弱い部分もあるけれど、良い部分、好きな部分をなるべく記事にしたいね。という思いもあり。この前のピックアッププレーでは酷い事を言ってしまったし。
また気持ちを入れ替えてマッチレビューを続けますので今後ともよろしくお願いします。いつも反応してくださってありがとうございます!


ではまた次のマッチレビューで。

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