教科書エクストリームレビュー④

はい、皆さんどうもこんにちは。へいすてぃです。
「教科書を解釈してみよう」ということなのですが、今回僕は中学生の英語の教科書と2021年の大学入学共通テストを題材に感想とともに書き連ねていきたいと思います!
ではさっそくいきましょう!

◯三省堂「NEW CROWN①」

中学生が使う教科書の大定番。僕が中一の時には違う教科書を使いましたが、有名なのはこのニュークラウンかもしれません。
僕の目に止まったのはこちらの教科書の70ページあたり。突如担任の先生が自らの家族について語り始めています。まず、この状況が理解不能。小学校ならまだしも、中学生相手にどんな文脈で家族のことを話しているんでしょう。

本文:
ブラウン先生が、健たちに家族の写真を見せています。
These are my parents. They are from Scotland. They live in London now. My father drives a taxi. He knows every street there. My mother teaches art. Those are her pictures.
筆者訳:
これら(写真のことを指している)は私の両親です。彼らの出身はスコットランドです。彼らはいま、ロンドンに住んでいます。私の父親はタクシーを運転するのが仕事です。彼はそこのあらゆる道路を知っています。私の母親は美術を教えています。それらは彼女の写真です。

中学生の時は真面目に音読していた英文かもしれませんが、高校生になってみて読み返すとなんと気持ちの悪いことか。訳を読んだだけでもこの気持ち悪さは伝わるはずです。文がぶつぶつ切れていって読みにくいこと極まりない。まあそれはいいとして。とりあげたいのはここからです。

本文:ブラウン先生が弟を紹介しています。
Ms Brown: This is my brother,Peter.
Ken: What’s in his hand?
Ms Brown: A cricket bat. It’s like a baseball bat.
Ken: Does he play cricket?
Ms Brown: Yes,he does. It’s popular in my country.
Ken: Does he play baseball,too?
Ms Brown: No, he doesn’t.
筆者訳:
ブラウン先生:これは兄(弟)のピーターです。
ケン:彼の手の中にあるものは何ですか?
ブラウン先生: クリケットのバットです。野球のバットのようなものです。
ケン: 彼はクリケットをしますか?
ブラウンさん: はい、そうです。それ(クリケット)は私の国では人気があります。
ケン: 彼は野球もしますか?
ブラウンさん: いいえ、しません。

ここで突然の登場ピーター。両親の名前は明かされませんでしたがこちらは名前付きです。そしておそらく二人はクリケットバットを持ったピーターの写真を見ています。そんな状況普通ありますかね。というか、前のページではブラウン先生の一人語りだったのにここでは突然ケンと二人で会話しています。ここで考えられる可能性は以下の二つ。

⑴ケンがでしゃばりなヤツで、クラスのみんなに向かって話していたブラウン先生と突然会話を始めてしまった。
⑵ブラウン先生が両親の話はクラス全体にして、兄(弟)のピーターの話だけはケンに直接話した。

⑴が真実であると仮定すると、ブラウン先生は「でしゃばりケン」に優しく答えていることになります。とはいえ最後は”No, he doesn’t.”「いいえ、しません。」とほんの少し塩対応。短気な先生だったら”Be quiet” と言っていてもおかしくなさそうです。

⑵が真実であると仮定すると、ブラウン先生は相当ヤバそうな先生だということになります。ケンにだけはどうしてもピーターの話がしたかった何らかの事情が隠れているのではないかー。
ちなみにケンの設定は「緑市出身」「サッカー部」「機械いじりが好き」。機械いじりが好きならサッカー部より他に部活もあっただろう、と思わなくもないですがそれはいいとしても、サッカー部のケンが「ピーターは野球もしますか?」というこれも考えにくい状況。クリケットと野球は全然違いますからね。そう考えると、ケンのこの発言はここでバットについて「野球のものと似てる」と説明したブラウン先生の発言に起因しているはずです。クリケットについてあまり知らないのであろうケンを混乱させるような発言。ブラウン先生が親切なら、クリケットについてももう少し説明してあげるべきでした。
すなわち、ブラウン先生はピーターの話をどうしてもケンにしたい、だけれどクリケットの話題を長引かせたくはないという、もはや謎に包まれた先生です。

兄(弟)であるピーターについてケンと話し終えたブラウン先生は、次ページでは読書が趣味のクミに妹を紹介します。ここでは音楽家である妹Jeanにちなんでスコットランドの伝統楽器「バグパイプ」の話題。にも関わらず、こちらもケンのときと同様、さらっと紹介するだけで詳細な説明は全くしません。やっぱり、少し意地悪。

さあ、ここまでのブラウン先生の度重なる奇行(特定の生徒と突然会話し、中途半端にスポーツやら音楽の話やらをしていなくなる)はどのように引き起こされたものだったのかと考えたとき、ブラウン先生のこの学校での立場が関係しているものと推察できます。ブラウン先生はALTの先生、すなわちネイティブでこの中学校に赴任した「外国語指導助手」で、英語を担当している「丘大輔先生」の補佐役にあたります。
以上より、ブラウン先生の奇行は全て丘先生が黒幕であったことが分かります。ブラウン先生はスポーツと音楽の話を丘先生の指示のもとで行ったものかもしれませんし、さらにはこの「ピーターとジェーン」は実在しない創作かもしれません。すべては、「海外からやってきた先生が海外の話したらそれっぽいでしょ」と言ってブラウン一家のメンバーを勝手に「スコットランド感のある」設定で仕立て上げた丘先生によるものだったのです。だからこそブラウン先生の説明は終始自信がなく中途半端なものになっていましたし、ブラウン先生が指示通りケンやクミと話している間、丘先生は教室の隅でにっこりと笑っていたことでしょう。

そして、ブラウン先生は以降、この教科書に二度と登場することはありませんでした。生徒の前ではにっこりとした笑みを絶やさない丘先生の(裏での)圧力に恐怖を感じ、本国へ帰っていったことでしょう。それにしても、ブラウン先生が消えても楽しく丘先生の下で英語学習を続けるケンとクミも、なんとも言えず怪しげではあるのですが…….。

◯2021年大学入学共通テスト 世界史B

(本文)
山田さんと川口さんが、上野動物園で話をしている。
山田:あっ、パンダだ。そう言えば、この動物園は日本で初めてパンダを公開したと聞いているよ。
川ロ:そうだね。1972年の共同声明による日中国交正常化を記念して中華人民共和国から贈られたんだ。
山田:戦争が終わってから、随分たっての国交正常化のように思えるけど。
川口:戦後、(イ)を中心とした連合国軍によって占領された日本は、サンフランシスコ講和会議で、(イ)をはじめとするかつての交戦国と平和条約を結んだんだ。この条約で戦争状態の終結と日本の主権の国復が確認されたんだけど、中華人民共和国はこの会議には招かれていなかったし、(ウ)は、参加したけど条約には署名しなかったんだよ。
山田:中華人民共和国が招かれなかったのは、どうしてかな。
川ロ:それは、当時の中華人民共和国を取り巻く国際環境が理由の一つだったと考えられるね。日本と(ウ)とは、1956年に共同宣言を出して、戦争状態の終結と国交回復を宣言しているよ。

まず、印象として山田は比較的普通の人間である一方、川口は何とも言えずクレイジーです。山田さんの「あっ、パンダだ。そう言えば、この動物題は日本で初めてパンダを公開したと聞いているよ。」は普通のセリフですが、山田さんはこれに川口さんがどう答えると思っていたのでしょう。まさか突然社会科の知識をかまされるとでも考えやしないでしょうし、ここで普通の人間のする回答は「そうなんだ。へぇ〜。」くらいなはずです。そう、そもそも山田の「この動物題は日本で初めてパンダを公開したと聞いているよ。」でさえも立派な「うんちく」ですから、機嫌が悪い人なら「だから?」とでも言ってしまいそうなセリフです。にも関わらず、この気軽な発言に対して川口さんは猛烈な知識マウントで対抗し、「この動物園が初めてらしいよ」から始まったうんちくトークはみるみるエスカレートしていきます。ここで興味深いのが山田さんの態度の変化。初めにうんちくを切り出したのは山田さんの方でしたが、川口さんにマウントを取られると瞬時に「随分たっての国交正常化のように思えるけど。」「どうしてかな」と聞き手に回っているのです。これはなんとも賢い選択。知識マウントでは川口さんには勝てないことが分かっているということでしょう。山田さんは一番初めの発言から推察するに本来普通の人間でしょうから、川口さんにここまで質問してうんちくを引き出しているのはなにか理由があるに違いありません。
そもそも、パンダは動物園では人気の動物で、上野動物園で見るにしてもそのコーナーは混雑しているはずです。柵をつかんで覗く子供も、パンダの前で「主権」やら「国交」やら語り出すこの年齢及び性別不詳の二人組に困惑せずにはいられません。パンダを見たがって親の腕から身を乗り出そうとする子供も、その子供を抱いているイクメンの父親も、パンダの前のポジションに居座るこの二人組には気分を悪くしないではいられないでしょう。こうした状況を前に、「普通の人間」である山田さんは恥ずかしくないのでしょうか。それとも、山田さんも実は川口さん寄りの「ヤバめのヤツ」なのでしょうか。ここでもう一つ立てられる仮説は「川口さんは喋らせとかないとヤバイ」ということです。普通の人間・山田さんは、他の見物客の邪魔になってまで川口さんのうんちくトークを放置するか、見物客に場所を譲りうんちくトークを制止するかという選択の余地がありました。しかし、一度話し始めた川口さんを止めることは不可能である上、聞いて貰えないとキレ始めるのが川口さんの性。結局、かわいそうな普通の人間・山田さんは、うんちくの制止を諦めて前者を選択したのでしょう。

ちなみに、今回の川口さんの発言を全て集めると292文字。「アナウンサーは1分間で300字前後を目安で読む」らしいので、川口さんと山田さんの会話は1〜2分ほど続いていたものと思われます。これでは、そばにいる子供に泣かれるのも必至なわけです。


以上の二本で解釈に挑戦してみましたが、意外と難しかったというのが印象で、物語にどれくらい入って書くかが一番悩ましいポイントでした。
そして、意外とブラウン先生のインパクトが強かった。共通テストの解釈には少し限界があったかもしれません。

ともかく、楽しんでいただけたなら幸いです。
では!

へいすてぃ(論説委員・高校2年)

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