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自分にできるボランティア

 スコットランドの民族楽器バッグパイプ(Bagpipes)。これが私の趣味である。
 この名前を聞いただけでは、果たしてどんな楽器だか想像もつかないかもしれないが、音楽の教科書の「民族音楽コーナー」にときどき掲載されている珍しい楽器である。気温・湿度に敏感、音・構造ともに素朴な楽器で、メロディ管が奏でる音階はわずか9音。音は極端に大きく、調節はきかない。室内で演奏するよりは、広大な原っぱで演奏するのがふさわしい楽器である。

 このような楽器を趣味としているおかげで、人前で演奏をする機会は年数十回、場所は国内外に及ぶ。「ボランティア演奏」もその中には幾つか含まれていて、高齢者の施設、身障者の施設、幼稚園などを訪れて演奏することもある。
 数年前、耳が不自由な方々の前で演奏してほしいという依頼があった。
「耳が聞こえない人たちの前で、演奏するとはどういうことなのだろうか?」と困惑したが、当日になってみると、演奏のたびに盛大なる拍手を観衆からいただき、大いに驚かされた。ハンデをもった方の症状はさまざまだが、体に伝わってくる音の振動を直接体感することができるというのだ。

 ボランティアという機会ではあったが、「同じ音楽を、聴覚にハンデをもった方と共有できたこと」は何より、自分自身にとっても嬉しく、演奏家としては貴重な経験となった。

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糟谷 肇(かすや はじめ・数学科)

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