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暗渠道への誘い

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世田谷区内を中心に、かつての川の跡=「暗渠」をたどる。 そんなマニアックな趣味を持つ教員が、川の痕跡を探しながら、あれこれ語ります。
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記事一覧

暗渠道への誘い 蛇崩川編④ ~支流パラレルワールド冒険譚~

だいぶ引っ張ってきた蛇崩川編も今回が最終回である。 本流は前回で全編たどり切ったので、あとは蛇崩川の支流を何本か紹介する。 支流と言ってしまうとオマケのように聞こえるかもしれないが、とんでもない! 暗渠界隈では、極細の支流暗渠こそ至高であると感じている人も少なくないはずだ。 私自身も、蛇崩川暗渠で一番好きな場所は本流ではなく支流の中にある。勢い余って、初めて暗渠で動画を撮ってきたので、本稿のなかでご紹介したい。 Stream 1:破格待遇の極細支流へ最初に紹介する支流は、

暗渠道への誘い 蛇崩川編③ ~水辺の記憶の、残しかた~

前回は、世田谷丸山公園にあった巨大下水道工事現場の話からハザードマップの話に及び、さらに850年前の源頼朝の故事にまで繋がるという、なかなか守備範囲の広い記事だった。 蛇崩川本流はもう半分以上辿ってきたことになる。今回は一気に上流端まで駆け抜けよう。 先に言っておくと、今回は蛇崩川編(全4回?)の中で、最もゆるい回である。 小難しい話はさておいて、ルート上の景色を素直にたどって鑑賞していく回だ。肩の力を抜いてお読みください。 まさかの身近な文房具 話はちょっと下流側に戻

暗渠道への誘い 蛇崩川編② ~八百年前の馬から~

蛇崩川編、前回は目黒区の区間を遡上して、世田谷区との境界のあたりまで紹介した。 今回は世田谷区ゾーンに突入して、ずんずん遡上していこう。 川跡に残る、馬のひづめの跡 現在地は、世田谷区下馬1丁目と同5丁目の境界。 この「下馬(しもうま)」という地名は、初めて知ったとき、少々不思議な地名だなと感じた。 少し西に行くと「上馬(かみうま)」もある。 それだけではなく、上馬の西隣には「駒沢」もあるし、下馬地区には駒留中学校、駒繋小学校、駒繋神社がある。 やたらと馬に関する地名が多

暗渠道への誘い 蛇崩川編① ~暴れ蛇を、逆撫でする~

こんな素敵な名前が、地名にも駅名にも残っていないなんて、もったいない!! 住所に「蛇崩」って文字が入っていたら、私はカッコいいと思う。好き嫌いは分かれそうだけど。 かつては目黒区の地名だったのだが、それも消えて久しいようだ。 由来は目黒区のウェブサイトに記載がある。 江戸時代の文献に、「昔、大水の際、崩れた崖から大蛇が出たことから、この地名が生まれた」との記載があるようだ。ほかにも諸説あるらしい。 いま、この蛇崩の名前を残しているものは、多くはない。 「蛇崩」交差点、

暗渠道への誘い 谷戸川編③ ~人工と自然の狭間で~

暗渠をたどるニッチなコラム、その谷戸川編の、最終回である。 間が空いたので、簡単にこれまでの川筋を振り返っておこう。 前回、ずいぶんと寄り道を繰り返した。復習も兼ねて、このタイミングで地図を載せておきたい。 (でも地図の下半分は本稿で辿るエリアである。ネタバレを避ける意味では、下半分はあまり見ない方がいいかもしれない 笑) (Google My Mapsが見られない方は、下の画像をどうぞ) 谷戸川の旅は、こんな心細い閉鎖空間の暗渠から始まった。 いつのまにか「蓋暗渠」

桜並木暗渠道への誘い ~暗渠のハレの日~

なんだかいつもより人通りが多いな、と感じていた。 そうだった。桜の季節は、暗渠道にとっても特別なのだった。 *  *  *  *  * 「谷戸川編」の連載の途中だが、今回は読み切りの番外編である。 暗渠の緑道沿いには、とにかく、桜の木が多い。 そのことに気づかされるのは、この季節になってからなのだが。 (だから迂闊にも、以前に書いた烏山川編では桜について一切の言及が無かった) 日本では、緑道沿いには桜が植えてあることが多い気がするし、 また川沿いに桜が植えてあるのも

暗渠道への誘い 谷戸川編② ~取り残された空間たち~

間隔が少々空いてしまったが、谷戸川編、第2回である。 前回は、源流部から川下りをし、暗渠から開渠へと劇的に変わっていく川の姿を楽しんだ。そして「谷川橋」という橋のところまで紹介して終わっていた。 「萌え断」に誘われて まずは、前回の最後の写真を再掲しよう。 何度見ても、良い。 「断面萌え」あるいは「萌え断」という言葉があるようだが、こういう状況で使うための言葉だろう。 暗渠の断面だよみんな!!! 当然、橋から身を乗り出して覗き込むよね。 フラッシュをたいて、断面の内部

暗渠道への誘い 谷戸川編① ~暗渠の蓋の、その下へ~

「蓋がされ、暗渠の状態になった川だからこそ、その独特の風情に惹かれる」 それは間違いない。 しかしながら、その一方で、 「蓋がされる前、開渠の状態だった川は、どんな様子だったのか、見てみたい」 とも思ってしまう。 これはおそらく、すべての暗渠愛好家が抱く、ジレンマのようなものではないかと思う。 暗渠化された川の蓋が外され、開渠に戻る……などということは、ほとんど無いと言って良い。 だから「答え」を見ることは不可能なのだが、ヒントを与えてくれる川がある。今回はその川を辿

暗渠道への誘い 烏山川編② ~暗渠サインは時空を越えて~

前回の記事では、烏山川緑道の起点から、環状七号線との交点である若林橋までを紹介した。今回は若林橋から先へと進もう。地図を再掲する。 全長7kmの道のりの、まだ2kmしか語れていないのだが、前回はチュートリアルも含んでいたので仕方なかろう。今回は一気に駆け抜けていきたい。(それなりの長文である。途中は飛ばしても、最後は見逃すなっ!) * * * 次第に漂いだす「裏側」環七を渡ってすぐに、緑道からは1本の支流の暗渠が分岐していく。 フェンスで囲まれた細長い空間で、かなりわか

暗渠道への誘い 烏山川編① ~暗渠サインへ応答せよ~

烏山川を初回に持ってこないわけにはいかなかった。 世田谷学園から一番近い所にある、というのが理由の一つ。 また、緑道として整備されているエリアが多く、暗渠レベルとしては初心者向けで、歩きやすいというのも理由だ。   つまり、私は何が言いたいかというと、何かの縁でこの記事を読んでしまったあなたに、烏山川の暗渠をぜひ辿ってほしいのである。   本学園の関係者ならば、正門を出て帰りがてら、ちょっと7kmほど散歩するだけである。 一般の方でも、暗渠の起点は池尻大橋駅から徒歩10

暗渠道への誘い 序章 ~ドブにハマって歩こう~

あなたもきっと、無意識のうちに、川の水面の「上」を歩いたことがある。 そこに気づくと、普段歩いている道に、まったく別の景色が重なって見えてくる。 そんな話をしたくて、マニアックな連載を始めることにした。 * * * 世田谷学園は川に囲まれた学校である。 と言っても、本学園の生徒ですら、ピンとこない者が多いかもしれない。 最寄りの三軒茶屋駅と学校の間を往復しているだけだと、この事実には気づきにくい。しかし、池ノ上駅や下北沢駅を使っている生徒は、2本の川を渡らないと登校で