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【燕岳】贅沢すぎる…山小屋スイカ

 まだあたりは真っ暗。8月26日午前3時半ごろ。私は長野県安曇野市のJR穂高駅近くのバス停に寝ぼけまなこで立っていた。

 前日の午後11時すぎ、東京・新宿で夜行バスに乗った。学生時代にヘビーユーザーだった夜行バスだが、社会人になってからはずいぶんご無沙汰していた。睡眠時間を計測してくれるスマートウォッチはご丁寧に「改善の余地あり」と教えてくれる。

 しかも到着予定時刻より1時間ほど早く目的地に着いたので寝不足は明らかだ。だが、この日めざすのは念願の燕岳。眠気よりもワクワクする気持ちが上回る。「北アルプスの女王」の異名を持ち、登山者から屈指の人気を集める山だ。

 午前4時40分にJR穂高駅から出発するバスに乗車。登山口となる中房温泉のバス停に到着するころには朝日が山容を照らしていた。

朝日が差し込む登山口

 午前6時ごろに登山開始。風がないので暑さを感じるが、道は整備されていて登りやすい。息が弾まない程度のスピードで歩みを進めていく。第1ベンチ、第2ベンチ、第3ベンチという何のひねりもない名前の付けられた休憩場所を通り過ぎ、午前8時半ごろ合戦小屋に到着した。

 合戦小屋という名前の由来については説明書きの看板が立っていた。桓武天皇の時代にさかのぼるようだが、ほどよい疲労感をまとった体の関心は別のものに向いていた。

 松本市波田産の名産「下原スイカ」(ひと切れ500円)。かぶりつくと想像以上の甘さが口の中に広がる。山小屋でスイカが食べられるなんて贅沢だ。

甘くておいしいスイカ

 山岳雑誌「山と渓谷」(2023年8月号)によると、「昭和39年に完成した索道で荷揚げが可能になったとき、たまたま青果市場に勤めていたスタッフに『試しに小屋でスイカを売ってみて』と打診があって売り始め」たという。

 スイカでエネルギーを充電したところで山頂めざして出発。途中「雷鳥は山をきれいにと鳴いている」という看板が目に入る。だが残念ながら姿どころか鳴き声も聞こえない。

 午前9時45分ごろ燕山荘に到着したが、立ち寄らずに雲に覆われている燕岳をめざす。「きょうは景色は期待できなさそうか」と思っていたが、途中雲の切れ間から裏銀座の山容が見える。イルカ岩やめがね岩を通り過ぎ、午前10時15分ごろに山頂に到着。記念撮影をしていると一瞬だけ槍ケ岳が顔をのぞかせた。

山頂に向かう途中にある「イルカ岩」

 燕山荘に戻って昼食を食べる。山小屋とは思えない飲食メニューの豊富さや従業員の温かい出迎えに驚く。注文したビーフシチューセット(1500円)をおいしくいただく。温かいお茶でホッとひと息ついた。

 下りは来た道を引き返す。登りはそこまで勾配を感じなかったが、ダラダラの下り道は予想以上に足に負担が来る。午後2時10分に登山口に帰還する。バスの時刻表を確認していなかったが、タイミング良く午後2時15分発のバスに乗る。これを逃すと2時間後のバスだった。そっと胸をなで下ろす。

 登山の後は温泉施設「しゃくなげの湯」で汗を流す。その後地元のイタリア料理店へ。信州米豚のローストセットを注文する。豚肉の滋味あふれる極上の味。ドルチェは「ヤギのチーズを使ったチーズケーキ」。ほんのり香るクサミがアクセントになって濃厚な味わいだった。

 念願の山に登れた充実感と想像以上にグルメな山旅に心もお腹も満たされた。帰りのバスは行きとはうってかわって爆睡だった。

壮大な裏銀座の景色

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