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アスリートが悩む坐骨神経痛!原因は深部臀部症候群かも。。。

① はじめに


坐骨神経痛で悩むサッカー選手やアスリートは数多いと思います。坐骨神経痛の生涯有病率は12%から27%であり、年間有病率は2.2%から19.5%であると報告されています。病院で腰のレントゲンやMRIでも異常なしと言われることもあると思います。坐骨神経痛で悩まれる方の多くが臀部から足に掛けての痛みやしびれなどの感覚異常ですのでまず疑われるのはヘルニアです。しかし、ヘルニアではないのならこの症状はどこからくるのかと考えられるのは坐骨神経です。坐骨神経痛は病名ではなく症状からくる総称ですので原因は多々あります。

坐骨神経

臀部を後ろから見た図 SN:坐骨神経 P:梨状筋

その原因の一つとして、1947年に『梨状筋症候群』という用語が導入されました。
梨状筋症候群は簡単に説明すると梨状筋と座骨神経の奇形により、通常梨状筋の下を通過する坐骨神経(上図)が、梨状筋の中を通過したり、坐骨神経が分離し梨状筋の上下を通過したりすることで梨状筋が硬くなると神経を圧迫し、臀部痛や足の痛み、しびれを引き起こす状態です。
坐骨神経痛全症例の6%~8%を占めると報告されています。
しかし、この梨状筋の奇形は10%~19.2%の発生するのですが、梨状筋の奇形が発生してない群と比較しても坐骨神経痛引き起こす確率に有意差はないと報告されています。

臀部周囲は多くの筋肉があり、坐骨神経からの分岐した神経を多く複雑な構造をしています。
この構造の複雑さからより梨状筋症候群の考えを踏まえたものが深部臀部症候群(Deep Gluteal Syndrome以下DGS)です。

② DGSとは


DGSは非椎間板性の深部臀部で絞扼された坐骨神経障害です。
症状は臀部や股関節後ろの痛みや足のしびれ、臀部痛により30分以上の座位保持困難などです。
非椎間板性なのでヘルニアなどの椎間板性病変ではありません。
DGSの報告は2018年現在で約280程度あり、そのうち半数が過去5年で報告されています。

ぐらふ


図:2015年から急激にDGSに関連する論文が増加している

DGSは梨状筋周囲の絞扼だけではなく、主に6か所で絞扼が起こると報告されています

深部臀部


⓵前縁(後寛骨柱)
⓶後縁(大殿筋)
⓷内側縁(仙結節靭帯)
⓸外側縁(殿筋粗面)
⓹上縁(坐骨切痕)
⓺下縁(坐骨結節)
6ヶ所あるので症状も多彩ですが、これからは主な検査と運動・予防方法を紹介します

③ DGSを確認するテスト


DGSかどうか確認するテストがあります。
1つ目は横になって股関節を外転・外旋させるテストです。

開排

図のような動きをすると中殿筋や梨状筋などの外旋筋が働きます。
このときに臀部痛が再現されれば陽性と判断します。
図のように抵抗を掛ける場合もあります。

2つ目は梨状筋伸長テストです

伸張

座った状態から膝を伸ばし、股関節を内旋・内転させ、梨状筋などの外旋筋を伸長させます
臀部痛が再現されれば陽性と判断します

他にも複数テストはありますが、気になる方は下の文献を参考にされてください

④ DGSの運動療法


1.神経の遊びの獲得

遊び

臀部周囲の坐骨神経が動くスペースを確保します
神経は上下方向だけでなく、左右や腹側/背側方向へも動くため臀部周囲の軟部組織の柔軟性を改善させます

2.臀部筋Streching

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梨状筋を含めた外旋筋と殿筋の柔軟性改善のためストレッチを行います
1セット20秒以下で実施します

3.坐骨神経スライダー

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坐骨神経の上下の滑走を促します
坐骨神経は硬膜と末梢神経と連結していますので、足首と頸の動きで滑走を促進します
頸を曲げ足首を伸ばした状態では頭側方向への滑走を促します
頸を反りつま先を挙げた状態では足側方向への滑走を促します
ストレッチではないので、3~5秒で上の肢位へ、また3~5秒で下の図の肢位へ戻すといったように動かします

神経の滑走訓練に親しみがない方は下の動画を参考にしていただければと思います


上記すべての運動では痛みの無い範囲で行います

⑤ まとめ

 坐骨神経痛は症状の総称
 DGSは非椎間板性なので椎間板ヘルニアは関係ない
 臀部に坐骨神経痛を絞扼する場所が6ヶ所ある
 臀部周囲の柔軟性と神経の滑走が大事


理学療法士 稲吉直哉

⑥ 参考文献


1) Daniel Probst, Alison Stout, Devyani Hunt; Piriformis Syndrome: A Narrative Review of the Anatomy, Diagnosis, and Treatment. 2019 American Academy of Physical Medicine and Rehabilitation. https://dx.doi.org/10.1002/pmrj.12189
2) Kazuha Kizaki·,Soshi Uchida, Ajaykumar Shanmugaraj,Camila Catherine Aquino,Andrew Duong,Nicole Simunovic, Hal David Martin, Olufemi R. Ayeni: Deep gluteal syndrome is defined as a non‑discogenic sciatic nerve disorder with entrapment in the deep gluteal space: a systematic review. European Society of Sports Traumatology, Knee Surgery, Arthroscopy (ESSKA) 2020
3) Ricardo Gonçalves Schröder, Rob Roy L Martin, Valerie L Bobb, Anthony Nicholas Khoury, Ian James Palmer and Hal David Martin; Outcomes of Non-operative Management of Deep Gluteal Syndrome – A Case Series of Six Patients. J Musculoskelet Disord Treat 2016, 2:012
4) RobRoy Martin, Hal David Martin, Benjamin R. Kivlan: NERVE ENTRAPMENT IN THE HIP REGION:CURRENT CONCEPTS REVIEW. DOI: 10.16603/ijspt20171163

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