高野 秀行「謎スランプと「インナーネット」」
「高野さんは謎をどうやって見つけているんですか?」
こういう質問を最近、頻繁に受ける。読者の人たちからすると、私のように三十五年以上にわたってひたすら謎を探し続けているのは驚異なのだろう。大学探検部在籍時に探しに行った「謎の怪獣(未知動物)モケーレムベンベ」を皮切りに、「謎のアヘン王国」「謎の西南シルクロード」「謎の独立国家ソマリランド」「謎のアジア・アフリカ納豆」「謎のイラク巨大湿地帯」などなど、場所もテーマも異なり、ほとんどの日本人が存在すら知らないような謎を見つけて、現地で探索しているのだ。しかもその間、時代はどんどん高度情報化とグローバリゼーションが進み、世界から謎や未知が急速に減っていると思われるからなおさらだ。
「どうやって」には二種類の質問が含まれている。一つは「情報源は何なのか」。これに対する答えは簡単だ。私は特別な情報網を駆使しているわけでは全然ない。ごく普通に本、雑誌、新聞、インターネット、口コミから面白そうな情報を得ている。
例えば、イラクの巨大湿地帯のときは朝日新聞の国際面に大きな写真入りの記事が載っており、それで知った。朝日新聞は公称約二百万部だというから、少なくとも数十万人がその記事を目にしたはずだが、圧倒的多数の人は「へえ」とちょっと感心しだけですぐ次のページをめくって忘れてしまったにちがいない。読んだ瞬間に「これはすごい!」と興奮し、朝日新聞に電話をかけて、二日後には記事を書いた記者に詳しい話を聞いていたのは私ひとりだけだろう。そして、記者の人は湿地帯へ二泊三日で訪れただけだと知り、「これは俺が本格的に調べるしかない!」と決心した(まさかそれを取材して『イラク水滸伝』という本に結実させるために六年も悪戦苦闘するとは思わなかったのだが)。
―『學鐙』2024年春号 特集「いまそこにある問いと謎」より―
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