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學鐙 春号(Vol. 121 No.1)

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學鐙 春号(Vol. 121 No.1)の掲載記事をまとめました。 特集「いまそこにある問いと謎」(2024年3月5日刊行)
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#問い

林 望「永劫の謎に直面する日々」

 ここに、一連の列車がある。その列車を動かしているものは一台の機関車であるが、その機関車は列車の最後尾に、しかも後ろ向きに連結されている。機関士は、したがって、列車が動いていくにつれて後方に流れ去っていく景色は嫌になるほど見ることができるが、前方すなわち進行方向に広がっている景色は、決して見ることができぬ。遠い既往や横手に広がる現状を凝視することで、おぼろげにこの列車の行く手を想像することしかできない……そういう列車を想像してみると、私どもの「生きてゆく姿」が説明できるかもし

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高野 秀行「謎スランプと「インナーネット」」

「高野さんは謎をどうやって見つけているんですか?」  こういう質問を最近、頻繁に受ける。読者の人たちからすると、私のように三十五年以上にわたってひたすら謎を探し続けているのは驚異なのだろう。大学探検部在籍時に探しに行った「謎の怪獣(未知動物)モケーレムベンベ」を皮切りに、「謎のアヘン王国」「謎の西南シルクロード」「謎の独立国家ソマリランド」「謎のアジア・アフリカ納豆」「謎のイラク巨大湿地帯」などなど、場所もテーマも異なり、ほとんどの日本人が存在すら知らないような謎を見つけて、

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呑海 沙織「超高齢社会における図書館をめぐる問い」

図書館とは  図書館とはなんだろう。多くの本が書架に並んでいて、本を無料で借りることができるところというイメージがあるのではないだろうか。しかし図書館は、単に本を貸し出す施設ではない。図書館には、国立図書館、公共図書館、大学図書館、学校図書館、専門図書館などがあるが、ここでは公共図書館に焦点をあてたい。  IFLA—UNESCO公共図書館宣言2020では、公共図書館を「地域において知識を得る窓口」とし、その役割を「個人および社会集団の生涯学習、独自の意思決定および文化的発展

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川島 素晴「「演じる音楽」という謎」

 私は、現代音楽の作曲家であると同時に、国立音楽大学で作曲の指導も行っている。現代音楽分野での私自身の探求については後段で述べるとして、まずは、より読者の関心が高いと思える、音楽大学での作曲の指導の現況について述べたい。 「今、作曲を教える意味とは?」  作曲専攻の学生は、クラシック音楽ベースの作曲理論(和声学、対位法、管弦楽法等)に加え、楽曲分析、ソルフェージュ、DTM(PCを用いた音楽制作)等、音楽全般の様々な勉強をしなければ一人前の作曲家にはなれない。そうした勉強を

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成田 聡子「生き残りをかけた「宿主操作」と「寄生」」

現在の地球上で繁栄している人類  今の地球には、どのくらいの種類の生物種が存在しているかご存知でしょうか。人類の数は、国際連合(国連)の推計では二〇二二年に八〇億人に達したと考えられています。これは、人類、つまり生物種で言うと、ホモ・サピエンス(学名:Homo sapiens)という生物一種の数です。 地球上に存在する生物種  では、現在の地球上には、私たちホモ・サピエンスという生物種以外に何種類の生物が発見され名前が付けられているかというと、約一七五万種です。そのうち

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湯澤 規子「ウンコを自分事として引き受け直す——生まれてつながり、育つ問い」

生まれる問い——ノートと一人研究会  自分の中に「問い」が生まれると、私はノートを一冊用意して、表紙にその問いを書き付ける。それが「一人研究会」開始の合図となる。私にとって「今そこにある問い」なのだということが重要なので、何かの役に立つという積極的な意味付けも無いままに、心の中で何かが動き、「好奇心」が芽生えたことをまず自覚する。そして、自分の中に生まれたことにはきっと何かの意味があるはずだということだけを信じて、その「問い」を育て始めるのである。  わざわざ「研究会」と名

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山田 雄司「忍ぶもの、解き明かすもの」

忍者研究の始動  近頃、活字を見ていると、「忍」という文字だけが目に飛び込んでくる。二〇一二年から忍者研究をはじめ、十年あまり経つが、意識せずとも脳が自然と「忍」を見つけ出すようになったようである。  それまでの私の研究テーマは、怨霊や怪異、伊勢信仰、熊野信仰といったところであったが、突然忍者研究に携わることになった。それは、三重大学が国立大学法人となり、地方国立大学の使命として、地域とともにさまざまな課題に取り組み、地域からの要望に応えていく必要が生まれてきたからである。

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内藤 陽介「日本最初の切手にはなぜ龍が描かれたのか」

龍切手の誕生  一八四〇年に英国で発行された世界最初の切手は、①英国を象徴するもの、②国民に受け入れられるもの、③十分な偽造防止策が採れるもの、という条件を満たすものとして、ヴィクトリア女王の肖像が取り上げられている。  その後、世界各国で郵便料金前納の証紙として切手が発行されるようになるが、多くの場合、その意匠は、貨幣の歴史的な伝統に倣い、国家元首や〝建国の父〟と呼ばれる人物の肖像、ないしは国章を取り上げるか、あるいは、実用性を優先させて額面の数字を大書するか、そのいずれ

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