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内藤 陽介「日本最初の切手にはなぜ龍が描かれたのか」

内藤 陽介(ないとう・ようすけ)——郵便学者・作家。
1967年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。切手等から国家や地域のあり方を読み解く「郵便学」の著作活動を続けている。著書に『龍とドラゴンの文化史』(えにし書房)等。

龍切手の誕生

 一八四〇年に英国で発行された世界最初の切手は、①英国を象徴するもの、②国民に受け入れられるもの、③十分な偽造防止策が採れるもの、という条件を満たすものとして、ヴィクトリア女王の肖像が取り上げられている。
 その後、世界各国で郵便料金前納の証紙として切手が発行されるようになるが、多くの場合、その意匠は、貨幣の歴史的な伝統に倣い、国家元首や〝建国の父〟と呼ばれる人物の肖像、ないしは国章を取り上げるか、あるいは、実用性を優先させて額面の数字を大書するか、そのいずれかであった。
 これに対して、旧暦明治四年三月一日(西暦一八七一年四月二十日)に発行された日本最初の切手は、二匹の龍の間に額面の数字を記すという特異なスタイルであった(龍切手)。
 このデザインについては、「裏糊を舐めたり、消印で汚したりする切手のようなものに天皇の肖像を印刷するのは畏れ多いので、天子の象徴である龍を取り上げた」という俗説が流布してきたが、そもそも龍切手には裏糊はついていないから、当時の日本人には「天皇の顔が印刷された紙の裏糊を舐めるのは不敬」という発想はありえない。

―『學鐙』2024年春号 特集「いまそこにある問いと謎」より―

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