蒲田健の収録後記:山下澄人さん

そもそも事実ってなんだろう?

山下澄人さんの最新刊、第156回芥川賞受賞作「しんせかい」。

山下さんが二期生として過ごした富良野塾での生活が下敷きに

なっていると「思われる」作品。


実際、主人公である山下スミトは船に乗って北の大地に渡り、

「谷」にある演劇人養成施設で様々な経験をする。これは山下さんの

プロフィールとイコールといっても差し支えないだろう。

出てくる人物、場所、事象などは事実なのかもしれない。


だがそれらが事実である、とどうして断言できるのだろう?


記憶というもののあやふやさ。思い出すことの出来るものと

出来ないものには境目があるのか。思い出すことが出来たとして、

それが事実であることを担保するものは存在しうるのか?


様々なことを想起させる作品である。


著者自身が、これが果たして小説といえるのか確信が持てないという作品。

それが小説最高の賞の一つといえる芥川賞が授けられるということ自体に、

小説というフォーマットの懐の深さを感じる、という山下さんの言葉が

含蓄深い。


「ここまでに やってきたこと あるけれど

         それ本当に やってきたこと?」


P.S. わたし、山下さんとは同じ1966年の早生まれ、19才のときに北海道で

新しい生活をスタートさせたという共通項があります。

同じ船に乗り合わせていた可能性すらあります。

でもそれ、どこまで「事実」なのかなあ?


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