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専門学校の制度と卒業学歴「専門士」「高度専門士」~大卒との違い~【専修学校制度:教育学】

  専門学校は全国に約2800校あり、約60万人が通っています(2022年度、文献①)。進学先として18才人口の約2割を占めています(※1)。平成に入って常にこれくらいの割合の人が専門学校への進学を選択しており、代表的な進路の1つです。

高校普通科・専門科問わず2割程度が進学している(出典:文献②p.151)

 しかし、専門学校について知らない人は多いです。専門学校進学者がほとんどいない高校を出て、大学に進み、周りにそういった人々ばかりの職場にいれば知る機会はありません。これは教員も例外ではありません(※2)。経験もなければ、教員免許を取るための学習の中でも扱われないため、専門学校進学者が多い高校に勤務して初めて知る教員も少なくありません(文献③p.5)。
 保護者や教員、あまり専門学校出身者がいない職場の方など、多くの人に専門学校制度について知っていただきたいと思います。


1.専修学校制度と「専門学校」

 専門学校は「小学校・中学校・高等学校・大学」などの主な学校(一条校※3)とは別枠に設定された学校です。この一条校には「高等専門学校」が含まれますが、「専門学校」は高専とは全く別の制度です。
 主な学校以外で、職業などの教育を行う修業年限1年以上など国が定める基準を満たした学校を「専修学校」と言い(学校教育法第124条)、中卒対象の「高等課程」、高卒対象の「専門課程」、その他の「一般課程」があります(同第125条)。
 そして、専門課程を置く専修学校は、専門学校と称することができます(同126条)。基本的には専門学校は、高卒者を対象に職業関連の教育を1~4年行う短大や大学ではない学校となります。
 ただし、「専門課程を置く専修学校」なら専門学校と名乗れるため、専門学校に高等課程・一般課程が置かれる場合もあります。以下、本文では専門課程を前提として話を進めます。

2.専門学校の歴史 ~卒業資格の制定~

 1960年代に職業訓練機関が多数できたことを受けて、専修学校制度は1976年に作られました。同年文部省「昭和五十年代前期高等教育計画」で大学の量的抑制と地方分散が打ち出される中、専修学校はその対象外だったため、大都市圏を中心に高卒進学需要の受け皿となり拡大しました(文献④)。また、大学に比べて基準が緩く、社会の変化・ニーズに素早く対応できる点も特徴です(文献⑤)。
 次第に、専門学校は同じ年数短大・大学と通ったのと同等の資格が得られるようになります。1994年から2年通い専門学校を卒業した者に「専門士」が与えられるようになりました。これは短大卒「短期大学士」や高専卒「準学士」と同等とされます(※4)。また、2005年には4年通い卒業した者に「高度専門士」が与えられるようになりました。これは大卒「学士」と同等とされ、大学院への進学も可能です(学校教育法施行規則第155条)。
 卒業資格が定められたことで、専門学校を卒業したといっても、専門士を得たか、高度専門士を得たか、特に得ていないかで意味が異なるようになりました。

3.「高度専門士」は学歴として大卒と同等なのか

 専門学校を卒業して得た「専門士」「高度専門士」は、制度上同じ年数の短大・大学の卒業と同等です。しかし、実際にどう扱うかは業界や企業の判断です。
 国家関連の資格等や公務員においては、同等に見なされることが多いです。例えば、社会保険労務士試験の受験資格は短大卒以上ですが、2001年から専門士所有者にも受験資格があります。また、2012年から始まった法務省出入国在留管理庁の高度外国人材制度では、高度専門士所有者は「大学と同等以上の教育を受けた者」として扱われます(文献⑥)。
 一方、民間企業において学歴の扱いを縛る法律などはなく、各企業の判断です。専門学校出身者が多い所では不利な扱いは少ないことが考えられますし、逆に全くいない所では高度専門士もないこととされ高卒同等と扱われるかもしれません。大学や大学院を卒業した者の扱いもそれぞれですから一概には言えませんが、専門士・高度専門士は短大卒・大卒に比べて、学校の専門とは違う業種へ行った時に理解が得にくい傾向にはあると思います。

4.日本の高等教育を支える専門学校を知ろう

 専門学校は学校教育法上、主な学校ではないものの規定があるという中途半端な立ち位置です。しかし、高等教育を担う機関の一つとして行政的にも考えられており、実際に多くの人が学んでいます。

出典:「専門学校の現状等について」文科省(2021) p.10

 しかし、専修学校制度が始まって半世紀となる中でも、専門学校について何も知らないという人も少なくありません。まずは教育に携わる人、そして生徒・保護者に、社会に様々な人がいることを知る意味でも進学校の生徒含めて専門学校についての認識が少しでも広まってほしいと思います。

※1 文科省「学校基本統計」では2022年度専門学校進学者は18歳人口の24.0%としている。しかし、リクルート進学総研は、22年度専門学校進学率(現役)を16.7%としている(文献⑦)。どちらもデータ元は文部科学省「学校基本調査」にもかかわらず違いが生じているのだが、これは進学率の定義の違いによる。別記事にして詳しく解説する予定である。

※2 教員免許を取得するには基本的に大学で所定の単位を取得する必要があり、大学を経ずに高校教員になる手段は短大等での二種免許取得や社会人に対する特別免許状の交付(看護など免許を持つ教員が少ない専門職経験者が多い)をなどに限られる。2019年度学校教員統計調査によると、高校教員の98.7%が大学・大学院の学歴を有する(大学院16.8%、大学81.3%、短大1.2%、高校0.4%、他0.3%)。

※3 学校教育法第一条で規定された学校を「一条校」という。なお、短期大学は大学の一種である(第108条)。

第一条 この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。

出典:学校教育法

※4 一条校の短大と高専においても、大学の学士に比べて学位制度の制定は遅かった。1991年に短大・高専卒業者に「準学士」が与えられることとなり、2005年に短大卒業者は「短期大学士」へ移行した。短期大学士は「学位」であるが、準学士や専門士・高度専門士は「称号」であるという法令上の違いがある。

卒業で得られる称号と制定年度

【参考文献】

①文部科学省『学校基本調査』(令和3年度)2022年
②文部科学省「大学入学者選抜関連基礎資料集」(大学入試のあり方に関する検討会議 第18回)2020年
③文部科学省『専修学校の魅力を訴求する戦略とアクションプラン』2020年
④塚原修一「専門学校の新たな展開と役割」『日本労働研究雑誌』542、pp. 71–72、2005年
⑤吉本圭一「専門学校と高等職業教育の体系化」『広島大学高等教育研究開発センター 『大学論集』 第 40 集』pp. 199–215、2009年
⑥出入国在留管理庁「高度人材ポイント制 Q&A」 https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/newimmiact_3_index.html (参照 2023年4月7日).
⑦リクルート進学総研『18歳人口予測、大学・短大・専門学校進学率、地元残留率の動向2022』2023年

◆文部科学省総合教育政策局生涯学習推進課専修学校教育振興室「専門学校の現状等について」2021年
◆津田敏「専門学校教員資格の現状に関する一考察」『佛教大学教育学部学会紀要』10、pp. 119–130、2011年
◆西田亜希子「専門学校は大学進学の代替的進路か? 進路多様校における専門学校希望者の分析による検討」『子ども社会研究』15、pp. 163–178、2009年
◆吉本圭一「専門学校の発展と高等教育の多様化」『高等教育研究』6、pp. 83–103、2003年
◆倉内史郎「専門学校:新時代の職業教育への予兆をみる」『産業教育学研究』302、pp. 27–34、2000年
◆瀧本知加「専修学校制度の構造と一条校との関連性」『教育学論集』37、pp. 29–38、2011年
◆文部科学省『学校教員統計調査』(令和元年度)2019年

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