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014.『カフェの空間学 世界のデザイン手法』 加藤匡毅・Puddle 著


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“ ―美味しいコーヒー、人、ホスピタリティ、様々な要因がかけ合わさって存在しているカフェであるが、この書籍では特に空間という建築的側面から考察していく “

世界中のカフェを集めた空間デザイン資料集。新築/リノベーションを問わず、多様な事例を紹介。ディテールを含む豊富な写真、平面図とスケッチを用い、設計者の視点から優れたデザイン的工夫を読み解き、その場にとどまらない街に波及するデザインについても考察。設計者はもちろん、カフェオーナーも必携の1冊。


はじめに

この本が出版される2019年秋は、歴史上最もバラエティに富んだカフェがこの世界に存在しているだろう。金太郎飴のようにどこでも同じ顔をしていたチェーン店も旗艦店ではまったく違う空間をつくり出している。僕の住む街の周辺だけで見ても個性豊かなカフェが次々と生まれている。

現代の人々はスマートフォンやPCによりどこからでもアクセスできるバーチャルな場でのコミュニケーションを手に入れた反動か、以前にも増してリアルな場での営みを必要としている。どこでも同じ顔をしているアプリのインターフェイスやウェブサイトのデザインとは違う、その場その場に根付いた個性豊かなカフェを、である。

では個性豊かなカフェとはどのようにしてつくることができるのであろうか。美味しいコーヒー、人、ホスピタリティ、様々な要因がかけ合わさって存在しているカフェであるが、この書籍では特に空間という建築的側面から考察していくことにしたい。

今日まで僕は、それぞれの場に相応しい「個性」を生み出すことを目指して、15を超える国と地域でカフェを設計してきた。

よそ者としてお邪魔し、その地の良さを見つけ出し、核をつくり、磨き、人々の前に「個性」ある空間を引き渡すのだ。

……と言えば聞こえは良いが、決まった方程式があるわけでもなく、プロジェクトごとにもがきながら、答えを探し続ける終わりのない旅のようでもある。

2018年の春先、そんな旅の軌跡を振り返る機会をいただいた。それがこの本である。

この本は、僕が仕事やプライベートで訪れ、印象に残ったカフェを中心に、国内外計39件をカメラ、スケール、紙、ペンを持って再訪、取材し、まとめたものだ(2件は現存せず。3件は僕自身が設計者としてかかわった)。客として何気なく訪れていた時に感じた居心地の良さ、記憶に残る体験は一体どこから来ていたのか。オーナーや設計者へのインタビューからわかったことに僕の解釈を加え、それぞれのカフェがどのような意図で「個性」を構築し得たのかを読み解いてみた。

設計の仕事に就く前から続く趣味である「スケッチ」と「写真」を中心にしているので、設計者はもちろん、建築の専門家でなくても読みやすい内容になっていると思う。

事例は、僕が設計で常に意識している以下の三つのカテゴリーに分けて紹介する。

1部 場所とのかかわり
2部 人とのかかわり
3部 時間とのかかわり

1部では、カフェのデザインが場所そのものや周辺環境からどう影響を受け、またどう影響を与えているか。2部では、カフェを利用する人とデザインのあり方について。そして3部は、カフェに流れる様々な時のあらわれ方について考えてみた。

先頭から順に読み進めていただいても良いし、好きなページから読んでいただいても良いと思っている。

本書を通して、カフェの空間設計が人の営みや街の個性をつくる大切な行為であることを再認識していきたい。

加藤匡毅


書籍目次


まえがき
本書に掲載する事例

1部/場所とのかかわり

1. 環境を借りる

01 自然へのリスペクト、環境からのプロテクト ─ Third Wave Kiosk/トーキー
02 借景以上 ─ CAFE POMEGRANATE/バリ
03 オフィス街に川床をつくる ─ BROOKLYN ROASTING COMPANY KITAHAMA/大阪市
04 脱着できるカフェ ─ Skye Coffee co. /バルセロナ
05 中庭の階段を取り込む ─ HONOR/パリ
06 都会の空地に宿る ─ the AIRSTREAM GARDEN/渋谷区
07 軸線を強調する大庇 ─ fluctuat nec mergitur/パリ
08 街の動線と共存する ─ Dandelion Chocolate, Kamakura/鎌倉市
09 金融街で土着の素材と技術を使う意味 ─ The Magazine Shop/ドバイ

2. 境界をぼやかす

10 フラットな関係が開放性を生み出す ─ Seesaw Coffee – Bund Finance Center/上海
11 通りにせり出す可動式カウンター ─ Dandelion Chocolate – Ferry Building/サンフランシスコ
12 内外の一体感を生む窓際の仕掛け ─ Slater St. Bench/メルボルン
13 視線を誘い込む組み木のトンネル ─ スターバックス コーヒー 太宰府天満宮表参道店/太宰府市
14 エントランスにある余白の価値 ─ SATURDAYS NEW YORK CITY TOKYO/目黒区
15 アプローチというファサード ─ ブルーボトルコーヒー 三軒茶屋カフェ/世田谷区
16 街にひらけた小さな軒下 ─ ONIBUS COFFEE Nakameguro/目黒区

3. 外との関係を断つ

17 半地下から通りを眺める ─ GLITCH COFFEE BREWED @ 9h/港区
18 時間を閉じ込めた船 ─ 六曜社 コーヒー店/京都市
19 無窓空間におかれたバリスタの舞台 ─ KOFFEE MAMEYA/渋谷区
column1 際を設計する

2部/人とのかかわり

1. 人がつくるファサード

20 摺り上げ式窓がつくる都心の小さな縁側 ─ Elephant Grounds Star Street/香港
21 現代版パリのオープンテラス ─ KB CAFESHOP by KB COFFEE ROASTERS/パリ
22 通りにつながるサウナ式ベンチ ─ HIGUMA Doughnuts × Coffee Wrights 表参道/渋谷区
23 ストリートファニチャーがつくる通りの顔 ─ 三富センター/京都市

2. 人をもてなす距離

24 4本脚のカウンター ─ Bonanza Coffee Heroes/ベルリン
25 白い空間に、1本の「道」 ─ ACOFFEE/メルボルン
26 バリスタとの距離を近づける極浅の2段カウンター ─ Patricia Coffee Brewers/メルボルン
27 モルタルのひな壇 ─ NO COFFEE/福岡市
28 どこからでもアプローチできる細長いカウンター ─ COFFEE SUPREME TOKYO/渋谷区
29 「狭小建築」の「極小カウンター」 ─ ABOUT LIFE COFFEE BREWERS/渋谷区
30 タバコ屋に倣う、日常風景の再構築 ─ MAMEBACO/京都市
31 オーナーの小宇宙に広がるもてなしの空間 ─ CAFE Ryusenkei/足柄下郡箱根町

3. 営みの掛け算

32 生業と住まいの関係 ─ FINETIME COFFEE ROASTERS/世田谷区
33 カフェの顔を持つ歯科 ─ 池渕歯科 POND Sakaimachi/岸和田市
column2 誰のための空間か

3部/時間とのかかわり

1. 古い建物を生かす

34 大空間をまとめる6つのスキップフロア ─ Higher Ground Melbourne/メルボルン
35 演出されたキッチン ─ Lune Croissanterie/メルボルン
36 和室に配したキューブ状キオスク ─ OMOTESANDO KOFFEE/渋谷区
37 すべてを白く染める ─ walden woods kyoto/京都市

2. プロセスのデザイン

38 所作を美しく見せる仕上げと素材 ─ artless craft tea & coffee / artless appointment gallery/目黒区
39 体験のデザイン ─ Dandelion Chocolate, Factory & Cafe Kuramae/台東区
column3 時間を視覚化する

あとがき ― 空間の記憶

掲載店舗情報


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『カフェの空間学 世界のデザイン手法』 加藤匡毅・Puddle 著

体 裁 A5・184頁・定価 本体3000円+税
ISBN 978-4-7615-3250-5
発行日 2019/09/15

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