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立ち話の向こう側

「この20年で変らなかったのは、本への思い入れを読者に伝えようとし続けた書店員たちの存在である。彼ら、彼女たちがこれからも書店を支え続けるのである。・・・」 学芸出版社営業部の名物社員・藤原がお送りする、本と書店をめぐる四方山話。

書店に営業に行くと立ち話になることがほとんどだ。棚を挟んで商品紹介。よく見かける光景である。
お客さんもいるし、落ち着かないことこの上ない。「お茶でも・・」と誘いたいところだが人員が少ない現在の書店事情から店を離れるなんて無理だ。そこで「まあまあそれでは事務所で」なんてことになる。

立ち話が嫌な訳ではない。座りたい訳でもない。お客さんや他の店員さんがいる場所から離れて、ゆっくり話がしたいのである。
話の内容は本を棚に置いて貰うこと、置いてもらった後、一日でも長く展示してもらうこと、また売れたらちゃんと補充してもらえるかそんなことが話の中心だ。
そんな話をするためには、書店(書店人)をちゃんと知ることが必要であり、話の中心となる出版物を知ってもらうことは私のことを知って貰うことだと思っている。

本の内容すべてを書店さんに伝えることは無理で、なぜこの本を出版したのかぐらいの説明で充分だ。書店さんだって長々とした説明なんて聞きたくないはずだ。そんなことよりこちらの少しプライベートな部分を含んだ話の方が話としては面白いはずだし、僕のことも分かってもらえる。笑顔のひとつでも貰えればそこから先は話が弾むものである。

名刺を出せば京都から来ていることが分かるので、「京都からわざわざ・・・」なんてことを書店さんから言ってもらえれば京都ネタで話は盛り上がる。
こうして話をして新刊配本が店に届いた時、書店さんの頭に一瞬でも僕の顔が浮かんだら嬉しく思う。

書店さんに多くの言葉を使って本を紹介するよりも、本という商品を通じて僕と書店さんの関係が成立すれば、届けられた本は大切に売って頂けると僕は信じている。
新刊が出来上がった時に、僕はこの本はあの書店のあの人があの棚に並べるのだなと少しワクワクした気持ちで遠くからイメージして楽しんでいる。

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