見出し画像

vol.5 「GAKUDAI MARCHE」の結城さんに聞く、これからの学大高架下に期待すること。

将来的な学芸大学駅高架下のリニューアル検討にあたり、地元住民や事業者さんの声を拾い上げながら様々な取り組みを続ける「みんなでつくる学大高架下」プロジェクト。

今回の記事では、すでに高架下で事業を営む店主さんに、未来の学大への期待や想いをじっくりと聞いてみたいと思います。

登場していただくのは、「学大市場」で「GAKUDAI MARCHE」を運営する結城飛鳥さんです!

学大市場の奥にある、ひときわオープンな空間「GAKUDAI MARCHE」。鷹番三丁目にある人気の青果店「Chef’s Marche」が運営しているお店で、シェアキッチン、シェアマルシェ、「SEASON’S CAFE Fruits & Salad」というカフェから成るユニークなお店です。

「学大市場」もリニューアルしてからおよそ1年半が経過。学大高架下でお店を続けてきた結城さんはいまどんなことを思っているのでしょうか。これからのまちと高架下に求めるものとは。

記録係のイノウエがお届けします!

料理人からまちの八百屋へ。生活に溶け込む食を手掛ける。

シェアキッチン、シェアマルシェ、カフェが融合した「GAKUDAI MARCHE」

ー 学大市場もリニューアルしてから1年半ぐらい経ちましたね。ご紹介も兼ねて結城さんのこれまでの経緯を教えてください。結城さんにとっては「Chef’s Marche」が学大で初めてのお店だと思うのですが、まずどうして八百屋さんだったんですか?

結城さん:僕も含めメンバーはみんな飲食店経験者なのですが、この先もずっと食の仕事をやっていくために、食材のことをもっと勉強したいと思ったのがきっかけです。それで5年前、当時10店舗くらいやっていた飲食店を全て譲渡して八百屋を作りました。長野県に自社畑もあって、3ヶ月周期で八百屋と畑のメンバーを総入れ替えしています。

ー 両方の仕事を経験できるんですね。八百屋さんや畑をやって、料理人時代にはなかった気付きはありましたか?

結城さん:そうですね。野菜や果物って、温度を記憶していくんです。人の体温は36度くらいですが、それは青果にとっては高温で、人の手がたくさん触れたところから傷んでくるんです。いかに自分たちの食材の触り方、扱い方が品質にとって大事なのかということに初めて気づきました。飲食店では品物の質がいまいちでも、料理することでそれを誤魔化すことができたりする。食材のことをわかったつもりで、よくわかっていない料理人は結構多いと思います。

ご自身も野菜農家出身の結城さん

ー お店の場所を学大にしたのはどうしてだったんですか?

結城さん:品川、虎ノ門、秋葉原など、これまで山手線の中でしかお店をやったことがなくて。ようするに会社員を相手にした飲食店ですね。でもこれからはお酒を飲む時間だけじゃなく、もっとみなさんの生活に溶け込むようなことがやりたかったんです。それで、コンパクトでローカル感のあるまちを探しました。いろいろな場所を見ましたが、学芸大学は初めてきた時に「面白いまちだな」と思いましたね。

ー ずばり、どんなところが面白いと感じたんですか?

結城さん:タクシーやバスのロータリーがないのは僕の中でかなり大きかったです。半径2、3km圏内から駅をめがけて歩いてこられる方がすごく多いので魅力的でした。あと昔からのお店が残りつつ、新しいお店も入ってくる印象だったので、新参者が溶け込みやすいかなと思ったのも決め手です。

ー いまお店にはどんなお客様がいらっしゃるんですか?

結城さん:ちゃんと自分たちのことを好きで来てくださる方が多いですね。スーパーは周りにたくさんありますし、正直価格も安くはない。でも一人ひとりとゆっくりお話することができるので、毎日のように来てくださる常連さんも増えました。毎日500人くらいの方と会うんですが、それって自分の今までの人生でもなかった経験で、すごく楽しいですね。

ー 「あの人今日は元気ないな」とかもわかりそうですね。

結城さん:すぐわかりますよ。小さい子は背が伸びたなぁと思うし。あと学大は一人暮らしの高齢者の方が意外に多くて、しばらく見ないなぁと思ってお友達に訪ねたら、旅行に行っているとか、体調崩して寝込んでいるんだよというお話を聞いたり。八百屋って日常で使うので、来店頻度が高くてみなさんの生活にすごく近い。住民の方々と触れ合ううちに、まちにも愛着が湧いてきましたね。

「GAKUDAI MARCHE」は新しい食に出会える場所

ー 学大市場で運営されている「GAKUDAI MARCHE」は、「シェアキッチン」と「シェアマルシェ」が合わさった面白いお店なんですよね。

結城さん:ここは食に関わる人たちの情報発信基地です。2つの「シェアキッチン」は期間限定でいろいろなお店が出店していて、新しく飲食業にチャレンジする人が、トライアル出店できる場所として活用してもらっています。また自社の飲食店「まどか(円)」が営業することもあります。店の入口にある棚は「シェアマルシェ」スペースとして、地方のおいしい産品を知ったり、購入したりできるスペースです。また、はす向かいにあるカフェ「SEASON’S CAFE Fruits & Salad」もうちのお店なのですが、月曜日だけは、紅茶の卸をやっている店主がお茶の専門店として運営しています。

ー 日々中身が変わるんですね。どうしてこういうお店を作ろうと思ったんですか?

結城さん:僕はこれまでたくさんの飲食店の立ち上げに関わってきたんですが、新しくお店をつくるってすごく大変なんです。それでも自分のお店を持つことを夢見て、挑戦したいと思っている人のための場所になればと。シェアキッチンは各所にありますが、立地が悪いことが多くて。ここは駅からすぐの高架下でできるので、トライアルするメリットが大きいと思います。いまはだいたい3日間くらいの期間で出店される方が多いですね。

地方のメディアとしても機能するシェアマルシェ

ー そもそも高架下でお店をやることになったきっかけは何だったんですか?

結城さん:東急さんにお声がけいただいたことが始まりです。実は出店するか悩んでいたのですが、高架下がこれからの学芸大学のまちづくりにとって重要な場所で、このようなまちにしたいというビジョンも話してくださって。自分もまちづくりに関わっていけるのは面白いなと思いました。また、僕たちは地方の仕事をよくやっているので、地方の情報を発信できる場所を持ちたいという気持ちもありました。

ー 1年間「GAKUDAI MARCHE」をやられてみて、どんな感触ですか?

結城さん:お店のコンセプト自体は面白いのですが、発信がまだ足りていないなと感じています。とはいえ、いま定期的に出店している「LIU’s gyoza」さんにはリピーターのお客さんもいて、ファンができているなと思います。お客様にとっては、学芸大学の中にいながらもいろいろな食に出会えるという点が魅力だと思うので、今後は学大と地方をうまく繋げるようなことができたらと思っています。

住民が求めているのは“何げない空間”

ー リニューアルして1年半。学大市場は、これからどんな場所になればいいなと思いますか?

結城さん:コロナ禍にオープンしたので、これまでは各店が自分のお店の集客で必死だったと思います。ですが今後は各店が連携して、もっと楽しい場所にしていけたらいいなと。例えば各店ジャンルもさまざまで個性豊かなので、共通の1つの食材をテーマにメニューをつくるとか。長い目で見たら個々よりも学大市場全体で盛り上がることが、結果的にお客様が集まるお店づくりにつながると思っています。

ー それは楽しそうです! 住民にとても近いところで商売されている結城さんからみて、まちの人はいまなにを求めていると感じますか?

結城さん:なんというか新しいお店だけではなくて、コミュニケーションやゆとりの部分を担う空間を求めていらっしゃる気がします。そういえば最初に学大でお店を始めた時、まちにカフェがすごく少ないと思ったんです。でも井戸端会議をしているママ同士やお年寄りはよく見かける。そういった人たちが、お金をあまり使わずに集まれるような空間があればいいんじゃないかと思います。

ー つながりができたり、深められる空間ですかね。

結城さん:コロナ以降、なんとなくまちが殺伐としている気がするんです。まちは生きるために通り過ぎる場所のような。そんななかで無意識に「つながり」のようなものを求めているのかもしれません。お金を生まない場所をつくるのは難しいと思うんですが、1つあれば街全体が循環していく気がします。

今回はローカルに根付くお店ならではのお話を聞くことができました。
学大市場から、ユニークな食の楽しみがますます広がっていけばうれしいですね。

文:井上麻子
写真:網田すずめ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?