58年目の春とインターン

2022年度が始まった。

田楽座にとっては58年目の春。

この春からは「インターン」という、新たな新人育成の試みが始まる。
インターンとは、田楽座で芸能や演技の勉強をしながら、本番のステージに立ちませんか?という制度。ステージに立つとは言っても、もちろんそれまでに必要な研修はするし、本当に舞台に登板できるかどうかは本人たちのやる気と実力次第。


昔はどこの世界も、新人はとにかく現場で鍛えろ!という感じで。
田楽座もかつては研修時間なんてロクに無く、いきなり「この役を君にやってもらうから!」「エエ~?」みたいな感じに無茶ぶりされて、できなかったら「なんでできないんだ!」「お前は何をしに田楽座に来たんだ!」と怒られる理不尽がまかり通っていたそうな。

自分が新人の頃はさすがに、田楽座もきちんと新人研修しましょう、と制度を整え始めたころだったけど、ちょうど先輩たちが立て続けにやめてしまった時期と重なり、結局研修は中途半端に終わって、そのまま本公演に乗るようになってしまった。

偶然ケガをしちゃった先輩に代わって急遽、獅子舞の後ろ足で舞台デビューをしたり(開演前に搬入口の前で、獅子頭をふる前足役の先輩に、動くルートを教えてもらったなあ…)、ちゃんと座員になってからではあるけど、公演でなぜか司会の役がやたら自分にふられていて、最初から終わりまでほとんど一人でしゃべっていたりとか、今の田楽座の常識から考えると、かなり危なっかしいことを若手にさせていたよなあ、と思ってしまう。

それが良かったことなのかどうか? と問われると正直なところ、団体としては不親切だったり無責任な面もあるんじゃないの、と言わざるを得ない。

でもそうやって、現場で必要に迫られて、ハッタリでもインチキでも何とかしのいできた、というのは自分にとって大きな自信にはなった。
プロの舞台という、常に実力以上を発揮することを求められる世界、準備ができていなくても結果責任を求められる世界では、どこかで乗り越えていかなきゃいけないこと、ではある。
きっとそれは舞台に限らず、他の仕事でも同じなんじゃないかな。

58年目の田楽座が、「勉強中だけど本番にものる」インターンという制度を選択したのは、なんだか一周回って昔に先祖返りしたみたいだな、とも思っている。
インターンの子たちには大いに勉強に励み、ギラギラと虎視眈々と、登板のチャンスを狙っていてほしい。


ちなみに、自分が新人のころの、唄の研修課題は花笠音頭だった。
20年経った今でも、基本的にはその研修で教えてもらった節回し、教えてもらった練習方法、教えてもらったコツの通りに、舞台で唄い続けている。
10年、20年経っても通用するような、賞味期限の長い研修をしてもらえたのは、当時の田楽座に感謝しかない。
当時の田楽座が、まるでスーパー無責任集団だったかのような印象を与えてしまっていたら、決してそうではないので、念のため。


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